事実上の「決定」が進むFIPの詳細設計:第19回 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会 | EnergyShift

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事実上の「決定」が進むFIPの詳細設計:第19回 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会

事実上の「決定」が進むFIPの詳細設計:第19回 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会

2020年09月17日

審議会ウィークリートピック

FITが太陽光発電や風力発電などで終了した先、次の制度として導入されるのが、FIPだ。しかし、その詳細制度設計はようやく始まったといえる。今回は、2020年8月31日に開催された、第19回「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」の議論を紹介する。

プレミアム価格にとどまらない、FIPの論点

いよいよ、FIP(Feed-in Premium)の詳細設計が開始された。本稿では、8月31日に開催された第19回「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」(以下、再エネ大量導入小委と呼ぶ)の議論の様子をお伝えしたい。

まず特筆すべきは、その全体的・総合的な検討枠組みである。FIPを単に発電支援政策の一つと捉えるだけではなく、電力ネットワークの次世代化を同時並行で検討しつつ、アグリゲーターを通じた再エネ電力の市場統合をセットで検討している。

再エネ導入量がわずかなFIT制度設計当初においては、無意識のうちに既存のネットワークの余力をあてにすることが出来たことと大きな違いである。また電力自由化以降に様々な新市場(非化石市場や容量市場、需給調整市場)が創設されたことにより、再エネを取り巻く市場環境も大きく変化している。

FITは良い意味で「単純」な制度であり、「再エネ電力を、固定単価で一定期間購入する」と、一言でその概要を伝えることが出来る。価格水準等の違いはあるとしても、制度体系そのものは他国FITと比べてそれほど大きな違いがあるわけではない。

他方、FIPは制度詳細設計上、決めるべき論点が多数あるうえ、その結論次第では他国とは全く異なるFIPとなる可能性もある。

発電事業者としては、「結局、価格は幾らなのか?」という点が最も気になることは筆者も理解できるが、FIPではその他の論点も発電事業採算性に大きく影響を与えることに留意願いたい。

第19回再エネ大量導入小委では、FIP制度の詳細設計として「11」の論点が示された。このうちすでに6つの論点は、今回の第19回小委で事実上の「決定」とされた。残りの5つの論点に関しても、次回小委で決定される予定である。

小委には再エネ発電業界団体もオブザーバー参加しているが、業界団体が常に事業者それぞれの考えを代表するものとは限らない。

FIPという新しい重要な制度がこのようにスピーディーに決まっていくため、関連事業者は審議の動向に細心の注意を払うのがよいと考える。

「決定」されたFIP詳細設計の6点

まず、今回の第19回小委で事実上の「決定」とされた6つの論点を示しておこう。なお論点の番号は、小委事務局資料のままとしている。また、新しいFIP用語の補足のため、イメージ図を添えておく。

事実上「決定」の6つの論点
  • 【論点1】FIP制度の詳細設計に向けた基本的な方針
  • 【論点3】基準価格(FIP価格)及び交付期間の決定
  • 【論点5】卸電力取引市場以外の価値の取扱い
  • 【論点7】出力制御におけるFIP電源の取扱い
  • 【論点8】蓄電池併設の取扱い
  • 【論点11】発電事業計画及び定期報告

以下の5つの論点に関しては、今回議論されたが次回以降に結論を得る予定である。

次回議論の5つの論点
  • 【論点2】交付対象区分等の決定及び入札を実施する交付対象区分等の指定
  • 【論点4】卸電力取引市場の価格の参照方法
  • 【論点6】バランシングコストの取扱い
  • 【論点9】オフテイカーリスク対策(一時調達契約)
  • 【論点10】離島・沖縄地域の扱い

まずは決定事項6点の中身を見ていこう。
(少なくとも建前的には)初見の事務局資料をもとに合意・決定されたということは、相対的に異論の少ない論点であると考えられる。

【論点1】FIP制度の詳細設計に向けた基本的な方針

ここではFIP制度は、再エネ電源が競争環境下で自立化するまでの、途中経過に位置付けられるものという点が確認された。再エネ(FIP電気)を電力市場への統合を進めつつ、新規再エネ電源にとって過度に不確実性が高くならないように配慮し、シンプルな制度とすることが合意された。

【論点3】基準価格(FIP価格)及び交付期間の決定

発電事業者の最も関心の高い論点であるが、具体的な基準価格(FIP価格)を何円とするかは調達価格等算定委員会で審議される。
ここでは、FIP開始当初の基準価格(FIP価格)は、FIT制度の調達価格と同じ水準とする方向とされた。もちろん、FIT単価自体が年々低下しており、FIP価格もあくまでそのトレンド線上に乗せた単価とすることを意味している。だがこの情報だけでも、発電事業者にとっては一定の予見性を与える効果があると考えられる。
また交付期間についても、FIT調達期間と同じとすることが合意された。これも最終的には調達価格等算定委員会で審議される。

【論点5】卸電力取引市場以外の価値の取扱い

FIT開始の2012年当時と大きく異なるのは、電源・発電事業者が収入を得られる市場が多様化しているという点にある。電気そのものを売ってお終い、ではない。このため、FIP電源に対する二重支払いが発生しないよう整理が必要である。

例えば環境価値の収益化である。再エネ電力は非化石価値を持つが、FIT電気は非化石価値を持たないと整理されている。これに対して、FIP電源は非化石価値を相対取引やオークションによって販売することが認められた。

このこと自体は発電事業者にとって朗報であろうが、同時にこの非化石価値販売収入見込額は、FIPプレミアム額の設定上、控除されることとなる。つまり、例えば「営業力」による非化石価値販売の巧拙が、発電事業者の収入に違いをもたらすこととなる。卸電力取引所を通じた無機質な電気そのものとは異なり、何らかの「ストーリー性」などにより非化石証書価格を上げられる可能性があるという意味では、新たな事業展開の可能性と同時に、新たなスキルが求められることを事業者は認識すべきであろう。

【論点7】出力制御におけるFIP電源の取扱い

この論点は、現行FITと同じ扱いとするという結論である。
別稿【第26回「系統ワーキンググループ」:指定電気事業者制度は廃止、全エリアで無制限無補償ルールを適用へでご紹介したとおり、指定電気事業者制度は廃止され、全エリアで無制限無補償ルールを適用することがFITではすでに決まっているが、FIP電源も同様に、出力制御に応じる義務が生じる。また新規FIT電源と同様に、FIP電源もオンライン制御対応とすることが義務化される。

【論点8】蓄電池併設の取扱い

この論点は現行FITとは大きく異なる結論である。説明を単純化させると、現行FITでは過積載太陽光発電所が事後的に設置した蓄電池を用いてFIT売電収入を増やすことは出来ない制度となっている。
しかしながら、FIPでは電力の時間別市場価格を見ながら、事業者が発電量を積極的に増減させることが期待されている。系統への逆潮流量・売電量を変化させる重要なツールが蓄電池である。FIP制度の趣旨が、再エネを電力市場へ統合促進することであることから、たとえ事後的であっても蓄電池の導入は歓迎すべきことである。
このためFIPでは事後的な蓄電池の併設を、基準価格の変更無しに認めることとされた。
FIP制度では、FIP電源も計画値同時同量が求められ、逸脱した場合にはインバランス費用が発生する。蓄電池の導入はインバランスリスクの低減に役立つものと考えられる。
発電事業者は、蓄電池価格が低下した将来に備え、あらかじめ蓄電池設置スペースを確保するなど、複数シナリオに対応できる事業計画を立案することが有益であろう。

【論点11】発電事業計画及び定期報告

今後FIPでは、認定を受ける際に提出する発電事業計画において、電気の取引方法(卸電力取引市場で自ら取引、小売電気事業者へ卸供給等)や需給管理の方法(自ら実施、小売電気事業者に委託等)等について記載が求められる。 発電事業の開始準備で手一杯の事業者にとって、いきなり「需給管理をどうするのか?」と尋ねられても酷であろう。現実に多くの事業者はアグリゲーター等の外部事業者に委託することが想定されるが、現時点ではそのような委託先候補はわずかである。 遅くともFIP開始の2022年までには、信頼に足る委託先業者が複数現れることが、FIP電源の成長に不可欠であろう。

次回決定予定の5つの論点

5つ全てではないが、委員間で意見の分かれる難しい論点が次回小委で継続審議予定となっている。

【論点2】交付対象区分等の決定及び入札を実施する交付対象区分等の指定

大まかには、少なくとも大規模太陽光、大規模風力(陸上・洋上)が該当することは共通認識であるが、正式には調達価格等算定委員会で審議される。電力市場への統合による効果が期待できる電源とは何であるか、客観的な評価基準(例えば、規模要件等)を設けることから始められる。

【論点4】卸電力取引市場の価格の参照方法

FIP制度詳細設計の「面白い」論点であり、誰もが一家言あるのが「参照価格」、すなわち市場価格の参照方法であろう。この論点が、事業者の採算性にとってFIP価格本体である「基準価格」と同じ重みを持つならば、なおさらのことである。

すでにJEPX市場価格を参照することには合意があるが、スポット市場なのか時間前市場なのか、システムプライスなのかエリアプライスなのか、価格を参照する期間・更新頻度、参照すべき時期など、多くのバリエーションがあり得る。またFIPの主要な対象電源が変動型再エネ(太陽光・風力)であることから、電源の発電特性(プロファイル)を考慮するか否かも、実質的なプレミアム額に大きな影響を与える。

これら詳細論点には絶対的な「正解」は存在せず、相対的に何を重視するかにより、答えは異なる。発電事業者や系統運用者、賦課金を負担する消費者など、異なるステークホルダーがその立場に応じた理論武装をおこない、積極的に意見を提出すべきであろう。

【論点6】バランシングコストの取扱い

上述のとおり、今後FIP電源は火力等の電源と同じく、計画値同時同量の遵守が求められる。計画作成やインバランス抑制には費用が掛かる。FIP開始と同時にいきなり自立を求めるのは現実的ではないため、当面は経過措置が講じられる予定である。

ただし、このバランシングコストは上記論点4「参照価格」の一部であることに留意が必要である。フリーランチは存在せず、実質的なプレミアムに反映されることにより、事業者の採算性に直結する論点である。

具体的なバランシング費用抑制のための施策としては、FIP電源以外の一般電源や他のリソースと同一の発電BG(バランシンググループ)を組成することが認められる予定である。

紙幅の都合上、FIP詳細設計その他の論点の紹介については割愛することをご容赦願いたい。

また、第19回再エネ大量導入小委で議論された再エネのアグリゲーションビジネスの更なる活性化策や、電力ネットワークの次世代化については別稿にてご紹介させていただきたい。

(Text:梅田あおば)

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda

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