東証再編で日本企業が直面する壁 中長期の企業価値向上に本当に必要なものは イチからはじめるプライム市場・CGコード・気候変動対応(4) | EnergyShift

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東証再編で日本企業が直面する壁 中長期の企業価値向上に本当に必要なものは イチからはじめるプライム市場・CGコード・気候変動対応(4)

2021年11月29日

マテリアリティ(重要性)の変化

TCFDを含む、ESG情報開示について、もうひとつ押さえておきたいのが「マテリアリティ」(重要性)の考え方だ。この考えもいままさに基準や統一した考えが修練されている状態で、様々な場所で、様々な意見が飛び交っている。ここでは2021年10月1日、「第2回金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ」の金融庁資料に添って紹介したい。

サステナビリティ開示におけるマテリアリティには、企業の財務における重要性と、環境・社会における重要性という考え方がある。企業の発展、業績、財政状態など、投資者が意思決定をするために必要な情報の開示は、「気候が企業に与える影響」を重視し、報告の対象者は主に投資家である。これは、シングルマテリアリティという。TCFD、SASBがこれにあたる。

また、シングルマテリアリティに加え、逆に企業が気候に及ぼす影響を加味し、報告の対象も投資家に加えて消費者、市民社会、従業員などまで含める考え方を、ダブルマテリアリティという。欧州委員会(非財務情報開示指令:NFRD)、GRIなどはこのダブルマテリアリティを採用している。

さらに、サステナビリティ項目に時間軸を加味し、変化する企業価値に与える影響まで考えることを、ダイナミックマテリアリティという。これは、CDP、CDSB、GRI、IIRC、SASBの民間基準設定5団体のコンセプトだ。

ISSBが報告基準のベースラインを提供し、その上に各国特有の要件を追加するアプローチはビルディングブロックアプローチという。

開示おけるマテリアリティ(国際的な動向)


金融庁 第2回金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ 事務局説明資料2

これらマテリアリティの考え方は、まだ投資家の間でも整理しきれていないことがある。大きくいえば、「投資家の意思決定に影響を与えるか」(シングル)「環境、社会、経済にどのような影響を与えるか」(ダブル)とわけられる。

現在、日本のIFRS対応方針協議会からはIFRS財団へコメントレターとして「サステナビリティ報告における主要な報告対象者は投資家を中心とする資本市場の参加者とすべき」「重用の範囲は、企業財務に与える影響を基本に考えるべき」という意見が送られた(2020年11月)。これはつまり、シングルマテリアリティの考え方である。

これは、シングルだから、ダブルだからいい・悪いの話ではない。投資家のタイプによってもどちらを重視するかは異なり、さらに社会状況によっても変化する。ただ、国際的な動向を知り、投資家との対話の中で自社が、どうこれらのマテリアリティを考えているかの軸は持っていたほうがいいだろう。

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小森岳史
小森岳史

EnergyShift編集部 気候変動、環境活動、サステナビリティ、科学技術等を担当。

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