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元WWF気候変動担当が問う。何が地球温暖化対策として重要か:原村からの便り

2021年11月17日

気候変動対策の優先課題は実は「省エネ」

地球温暖化対策として、第一に重要なのは「省エネ」である。特に日本では投入される一次エネルギーの大半が「排熱」として捨てられていて、実際に使われているのは4割ほどしかない。この排熱を使って電気を同時に作りだすことをコージェネレーションと言うが、これが最も効率の良いエネルギーの作り方、使い方である。

しかし日本ではこれも遅れている。デンマークや北欧、ヨーロッパではコージェネレーションを「発電」の一つとして位置づけている。私はかつてWWFの同僚から、日本はコージェネレーションで何割発電しているのかと、たびたび聞かれて困惑した。そういう数字が日本にはなかったからだ。

遅れている最大の要因は、大規模集中型の電力と小規模分散型のガスや再エネが永らく対立し、電力の大規模集中型が、ガスや再エネの小規模分散型を排除してきた歴史にある。

この排熱を「熱」として利用すれば、大幅な省エネが可能となる。さらに自然エネルギーの太陽熱、地中熱、雪氷熱、温泉熱、海水熱、河川熱、下水熱などを組み合わせ、これらの熱をパイプラインを通じて面的利用を行えば、さらなる省エネが進む。北欧を含むヨーロッパ諸国ではこれが最大の省エネ策だという事で、このパイプラインのインフラを強化している。

北欧では1970年代からこれがあり、「最も安い熱供給」として市民に好まれてきた。このパイプラインによる地域熱供給網の恩恵を受けている市民の国別割合では、北欧、東欧の国々が並び、日本の数字はない。熱は冷房にも使えることから、こうしたインフラにこそ投資すべきである。なぜならエネルギーの大半は暖房、冷房、給湯と熱利用に使われているからだ。「エネルギー基本計画」や「地球温暖化対策計画」にも、「再生可能エネルギー熱等」という項目はある。しかし両方とも8行しかない。日本は地域熱供給網構築をめざし、そこに必要なインフラ投資を行うべきである。

気候変動対策の基盤は自然環境の保全

最後に「地球温暖化対策計画」は、ようやく注目を浴びつつある「自然を活用した解決策」について述べている。筆者はこれこそが、温暖化対策の目玉になると考える。

今日の地球では気候変動や開発行為が、地球の生物多様性の破壊をもたらしており、今や「第6の大絶滅」と言われるほどである。生物多様性とともに、自然の生態系も開発行為などで危機に瀕している。地球は自然の生態系、および生物多様性のもたらす自然な営みにより、気候変動などが防がれてきた。

しかし生物多様性や生態系の劣化により、地球全体の気候システムが乱されていることを考えると、自然が温室効果ガスを固定する力を回復させることが重要ではないかと思える。

「自然環境が有する多様な機能を活用したグリーンインフラや、森林をはじめとした生態系を基盤とするアプローチは、防災・減災といった気候変動への適応に加え、炭素貯蔵を通じた気候変動の緩和、里地里山の地上資源の有効活用、地域社会における多様な社会・経済・文化の互恵関係の創出、生物多様性の保全と持続可能な利用への貢献など様々な効果が期待できる」とあるが、こうしたことを、温暖化対策計画の基盤におくべきである。

そうした視点があれば、自然破壊を伴う再生可能エネルギーの大幅導入などが避けられ、原発や化石燃料を使い続けることなども回避できる。そして世界で求められている「自然を活用した解決策」につながるだろう。

 

(参考文献)
Ali Ahmad (2021), “Increase in frequency of nuclear power outages due to changing climate”, Nature Energy, VOL 6, July 2021, https://www.nature.com/articles/s41560-021-00849-y
Natalie Kopytko (2011), New Scientist, “ The Climate Change Threat to Nuclear Power”, https://www.newscientist.com/article/mg21028138-200-the-climate-change-threat-to-nuclear-power/?utm
Natalie Kopytko, et al (2010) “Climate Change, nuclear power, and the adaptation-mitigation dilemma” Energy Policy 39 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0301421510007329
National Geographic (2015) “As Sea Level Rise, Are Coastal Nuclear Plants Ready?” https://www.nationalgeographic.com/science/article/151215-as-sea-levels-rise-are-coastal-nuclear-plants-ready?utm_source=pocket_mylist 
山下英俊(2021)「地域コミュニティと再生可能エネルギー」(「世界」9月号 岩波書店、2021年)
『再エネ設備「設置NO」禁止条例、17年から倍増』(日経新聞 2020年5月30日)
鮎川ゆりか(2019)『原発は温暖化する地球の「時限爆弾」である』(「世界」7月号(岩波書店、2019年)
熱関係:Euro Heat& Power data sets
資源エネルギー庁(2020)「日本の省エネルギー技術施策について」(2020年1月)

ヘッダー写真:藤谷良秀(Yoshihide Fujitani), CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

 

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鮎川ゆりか
鮎川ゆりか

千葉商科大学名誉教授 CUCエネルギー株式会社 取締役 1971年上智大学外国語学部英語学科卒。1996年ハーバード大学院環境公共政策学修士修了。原子力資料情報室の国際担当(1988~1995年)。WWF(世界自然保護基金) 気候変動担当/特別顧問(1997~2008年)。国連気候変動枠組み条約国際交渉、国内政策、自然エネルギーの導入施策活動を展開。2008年G8サミットNGOフォーラム副代表。衆参両議院の環境委員会等で参考人意見陳述。環境省の中央環境審議会「施策総合企画小委員会」等委員、「グリーン電力認証機構」委員、千葉県市川市環境審議会会長を歴任。2010年4月~2018年3月まで千葉商科大学、政策情報学部教授。同大学にて2017年4月より学長プロジェクト「環境・エネルギー」リーダーとして「自然エネルギー100%大学」を推進し、電気の100%自然エネルギーは達成。2019年9月より原村の有志による「自立する美しい村研究会」代表。 『e-コンパクトシティが地球を救う』(日本評論社2012年)、『これからの環境エネルギー 未来は地域で完結する小規模分散型社会』(三和書籍 2015年)など著書多数。

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