2020年はコロナ危機とグリーン・リカバリー、日本を含む世界各国が、カーボン・ニュートラルへと大きく動き出した年だった。2021年はどんな1年になるのだろう。台湾のエネルギーをテーマに連載中の鄭 方婷(チェン・ファンティン)氏は、洋上風力を中心とした再エネ拡大の可能性に期待を寄せる。
今年2020年、『パリ協定(The Paris Agreement)』が正式に世界各国の行動規範に適用された。パリ協定は地球温暖化・気候変動に世界各国が一致団結して対処するための国連指針であり、本来であれば今年は、エネルギー・環境分野において様々な課題や挑戦に取り組む節目の年となるはずであった。
しかし1月下旬の中国・武漢におけるロックダウンに始まり、結果的に一年を通して、世界の政治経済は悉く新型コロナウイルス感染症に翻弄されていった。
ただ、新型コロナウイルスのパンデミックがもたらした「新たな現実」、つまり人的な移動や経済活動が大きく制約される状況によって、人々は感染症対策よりはるかに優先度が低いと思われがちであったエネルギー・環境問題の重要性をかえって再認識することとなり、実際、具体的な取組みにおいても大きな前進があった。
とりわけ、アメリカのバイデン次期大統領によるパリ協定復帰宣言をはじめ、日本を含む主要各国が温室効果ガス(GHGs)の排出削減目標を次々と打ち出したことは非常に大きな潮目の変化であると言えよう。今後この変化がエネルギー資源だけでなく、産業構造の転換にまで波及すると見込まれるなど、今後の展開に注目せずにはいられない。
国連によるパリ協定普及ビデオ
パリ協定は2016年に発効したが、その後の米中関係の悪化などによって、主権国家による実質的な取組みが長期間停滞していた。その一方で、企業はGHGsの排出削減に積極的な姿勢を崩さず、その影響力は一層広まっていった。
例えば「RE100」は企業が事業で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアティブであり、アップル、ソニー、グーグルなど多くのグローバル企業が参画している。これらの企業は国境を超えたサプライチェーンを通じて再生可能エネルギーの拡大に寄与するなど、非常に大きな影響力を持っている。
また、金融業界においても従来とは異なる傾向が見られる。「持続可能なESG投資」は、企業が環境(Environmental)、社会(Social)、企業統治(Governance)という問題に取り組む能力を評価する投資スタイルであり、その全体の市場規模は2019年年末から2020年7月まで、すでに16.23%成長するなど、今回のパンデミックを経て金融市場でさらに大きな注目を集めている。
さらに、持続可能であることも評価の対象となり、大規模な環境変化や自然災害のような突発的な災難に見舞われた場合のレジリエンス(復興力)の強さが本格的に企業に求められる時代になったということだろう。
石油業界もこうした巨大な変化の波には抗えないようである。市場からの圧力に加え、近年の原油価格低迷や新型コロナウイルスパンデミックによる膨大な石炭・石油の需要消失に襲われたこともあり、従来の化石燃料メジャーは対応を迫られている。例えば、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルと英BPは2050年GHGs排出実質ゼロを宣言しており、米エクソンモービルも最近になって、2025年までにGHGs排出強度を15%~20%削減する計画を発表するなど、世界的なエネルギー転換の流れがこの業界にも確実に及んでいる。
近い将来、アメリカのパリ協定再加入によってGHGs排出削減のグローバル・ガバナンスが再び正常な軌道に戻り、こうした民間企業による努力を各国政府が連携し積極的に後押しできるようになることを期待したい。
我々が居住する東アジア地域においても、今後、エネルギー転換と再生可能エネルギーの継続的拡大が見込まれている。
例えばこれまでに、日本と韓国はそれぞれ2050年まで、中国は2060年までの「カーボン・ニュートラル」を宣言している。これはつまり、GHGsの一つである二酸化炭素の排出量を実質的にゼロにするということである。
特に今後も一定の経済成長が予測されている中国では、2030年に排出強度を2005年比で65%以上削減し全体の排出量を頭打ちにするなど、今までの約束内容をさらに野心的にした上で、第14次五ヶ年計画に基づき、新たな経済モデルを定めており、排出削減により新たな産業構造を構築し経済成長の原動力にするという、強い意思が読み取れる。
東アジア地域では、今回のパンデミックについては(世界的に見れば)比較的うまく抑制できており、中国以外の諸国においても今後の成長が少なからず期待できる。
太陽光や風力発電の拡大、再生可能エネルギーによる水素製造と燃料用途の開発、電気自動車の推進と普及などは、この地域においても共通の主要テーマとなっている。東アジアのエネルギー転換については、こうした世界的なトレンドに対応できるよう、今後各国政府がより一層積極的にバックアップする政策をとっていくと見られている。
台湾のエネルギー転換に関しては、これまでの連載記事を通じ、現在直面している多くの課題や障壁への対応策を紹介してきた。台湾政府とその各利害関係者の動向は、東アジアの諸国にとって非常に重要なモデルとなっていくだろう。
確かにエネルギー転換の目標達成は容易ではないが、世界的にはクリーン・エネルギーの利用が拡大しつつあり、経済効果も見込まれている。こうした潮流にうまく乗ることで、アジアの洋上風力発電の開発基地となることは、台湾の政府・産業界が狙う目標の一つである。
とはいえ、これまでアジアの環境先進国として売り出してきた台湾も、前述の日中韓など各国が打ち出してきた「2050年・2060年目標」を受け、他国の追随を意識しているようである。今後は新たな削減目標の策定、GHGs排出削減関連法案の改正、太陽光発電をはじめとするエネルギー・ミックスの目標達成、洋上風力第三段階の具体的な推進方法の調整など、他国に先駆けた新たな政策の展開が予想される。
フォルモサ竣工式にて。中央が蔡英文総統、右から二人目が沈栄津経済部長(現・行政院副院長)。出所:総統府公式ウェブサイト
欧米を含む各主要国は、排出削減の目標設定と実現に伴うエネルギー転換と産業改革を進める上で今後様々な協力関係と同時に、新たな競合関係も生まれていくだろう。
東アジア地域では、化石燃料の効率的利用、電気自動車の普及、水素、太陽光、風力発電など再生可能エネルギーの拡大を目指す大きなうねりがある。こうした新しい産業構造は、新型コロナウイルスのパンデミックによる大規模な経済の衰退を経験した各国にとって、「環境にやさしい経済復興」、すなわち「グリーン・リカバリー」を実現させるための重要なテーマとして定着していくと見られる。
これまで連載で紹介してきた台湾については、やはり洋上風力発電が引き続き重要なキーワードとなるだろう。洋上風力は台湾政府の目指すエネルギー転換の目標達成に非常に重要な役割を果たし得るだけではなく、サプライチェーンを構築し国内産業を育成する好機ともみられており、その可能性は大きく広がっている。次世代の再生可能エネルギー開発モデルを構築し、東アジア各国のお手本になるような開発実績を積み重ねてほしいと願うばかりである。
台湾 高美湿地
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