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バイデン政権の気候変動政策は、日本の未来にどう影響するのか

バイデン政権の気候変動政策は、日本の未来にどう影響するのか

2021/01/20

2021年1月20日(米時間)、アメリカが大きく動く。バイデン新政権の発足だ。バイデン政権で、気候変動政策、EV政策、関連銘柄の動きはどう動こうとしているのか。そして、日本に求められる対応は。元外務官僚でafterFITの前田雄大氏の寄稿で読み解く。

ようやく、アメリカが帰ってきた

2021年1月20日、バイデン政権がアメリカで発足する。

外務省にいて気候変動を担当した2年半。その間、気候変動というトランプ大統領が目の敵にしたテーマを扱ったからか、それともG7やG20をはじめとした国際会議において米国が参加した際の気候変動部分の交渉の行き詰まりと、そしてそれによる会議全体の国際合意形成の難しさを見たからか。

ないしは、そういう壮絶な苦労の後に、全てを打ち消してくれるようなトランプ大統領のツイッター投稿等を目にしてきたからか。

政権末期のゴタゴタは自分にとっては合点がいくものであったし、1月20日を迎えるにあたってこのように思う。「ようやく、アメリカが帰ってきた」と。


Image by Joe Biden, licensed under the Creative Commons 2.0

バイデン政権の一丁目一番地は気候変動対策

バイデン政権の一丁目一番地と言えば、気候変動対策であると言っても過言ではない。選挙キャンペーンのときから「THE BIDEN PLAN FOR A CLEAN ENERGY REVOLUTION AND ENVIRONMENTAL JUSTICE」という政策パッケージを掲げ、大統領選挙を勝ち抜いた陣営は、就任初日にパリ協定へ復帰する手続きを取るとも早々に宣言をしていた。

バイデン氏が当選を確実にしたときにイギリスのジョンソン首相が送った祝辞における「ともに取り組みたい優先課題」の具体例の一等最初に書かれていたのは気候変動であった。EUからの祝辞も最初の具体例こそコロナ関連に譲ったものの、その後は他の事項に先駆けて気候変動であったことからも、センスの良い国であれば、バイデン政権の優先事項が何かを理解していたとも言える。

それだけ気候変動と、そこに表裏一体をなすエネルギー問題は、グリーン・リカバリーが叫ばれている昨今の国際社会では、キーワード中のキーワードであると言ってよく、そして、その中心にアメリカが帰ってくる、というのが、今回のバイデン政権発足の大きな意義の一つでもある。

バイデンメニュー 具体的な中身はグリーン・リカバリーそのもの

政策の中身は、選挙キャンペーン中に掲げた政策パッケージの中身を当面そのまま実施に移していくだろう(以下、バイデンメニューと呼ぶことにしたい)。

コロナとの闘いもさることながら、経済対策も講じていく必要のあるバイデン政権は当然にグリーン・リカバリーをその旗印として掲げて行っていくことになる。従前からバイデン氏が明らかにしており、そして、今般、クレイン補佐官が政権発足初日に行うことを列挙したメモの中でもその実施が明示されていたものである。

今般のバイデンのグリーン・ニューディール的施策の象徴的なものは、パリ協定への復帰のための大統領令の署名措置を就任初日に取るというところだが、象徴的な出来事だけでは実態を伴ったドライブがかかることはない。

バイデンメニューにおける特徴は、その具体性にある。

バイデンメニューにおいては、クリーンエネルギー部門の雇用促進とそれによる経済成長が明記されており、財政出動に関してもクリーンで強靭なインフラ及び社会開発のためのエネルギー・気候投資を歴史的な額で動員と書かれている。このようにグリーン分野に財政出動・そして投資を、政策的インセンティブ付けをしながら呼び込みつつ、そのセクターの成長を通じて雇用の実現をしていくことになる。まさに、グリーン・リカバリーそのものである。

バイデンメニューのEV促進策でアメリカのシェアが変わる

国内の主要セクターに関しては、まずは輸送に関してはいわずもがなEVの導入促進である。中産階級を焦点にした税額控除によりEVの購入促進を促すこの施策は、可能な限りその対象を米国内で生産されたEVとする旨も書かれており、日本の車メーカーは米国内で生産されたEVで勝負をする必要が出てくる。

また、EVの普及促進に必要な充電スタンドに関しては、50万台を各州と連携して2030年までに設置することとしている。こちらに関しては、最近の世界のEV化の加速や、国内でもテスラの急速な台頭、バイデン政権を見越した先般のGMによる車の全ラインナップのEV化宣言などを踏まえれば、この計画の前倒しや目標値の引き上げが就任して早期に起きると考えられる。

EVの税額控除についてもバイデンメニューにおいては、単なるtax creditではなくfull tax creditと書かれているとおり、消費者側のインセンティブがかなりつく内容になることが予想されることから、アメリカ市場でのシェアにおいて急速にEVが主要な地位を占めるようになるだろう。

一度起きたグリーン化の波は、イギリスでの洋上風力の普及を見れば分かる通り、その進展の速さは想像を超えるものであり、ここまで明確な政策を打ち出した場合、2021年に始まるこのEV転換は、一気に進展し、2025年までにアメリカ市場における新車をEVが席巻するようになる可能性も十分にある。


テスラも躍進するか

エネルギーセクターの2035年CO2ゼロ 建設中のパイプラインも中止へ

エネルギーセクターであるが、こちらは脱炭素が明確に打ち出されており、2035年までに炭素排出ゼロという野心的な目標が掲げられている。

そのメニューは再生可能エネルギー、CCUS、原子力という3つが軸となっている。

アメリカにおいてはGAFAやウォルマート、スターバックスといった大手企業がPPA(電力購入契約)によって直接大量に再生可能エネルギーを調達するのがトレンドとなっており、またこうした企業が自身のサプライチェーンにもカーボンフットプリントの観点からCO2の削減を要求することによって、垂直方向にも水平方向にも脱炭素が波及するようになってきている。こうしたことに鑑みれば、再生可能エネルギーの需要はここから一気に増加し、それを満たすべく、再エネの発電所の建設ラッシュが進むであろうことから、実際には再エネの増加がバイデン政権の基調となるであろう。

実際に、バイデン政権が就任すぐに行うことの一つにキーストーンXLパイプラインというカナダから米中西部まで原油を運ぶパイプラインの建設許可の撤回が挙げられている。このパイプラインは、先住民問題や地域の環境問題との関連があり、従来から問題のある案件とされていたとは言え、トランプ施政下で建設がすでに始まり、米国のエネルギー政策上の大きな意思決定となっていたものであるため、ここの建設許可撤回を就任早々に行うことは、バイデンのエネルギーセクターにおける脱炭素色の打ち出しを象徴する内容でもある。


キーストーンXLパイプライン(2009)写真:shannonpatrick17  CC BY 2.0

トランプ政権での圧力下から、脱炭素関連銘柄も上昇

バイデンメニューでは、ビル由来の温室効果ガス排出を2035年までに50%減にすることをはじめ、この他にも様々なセクターに関して脱炭素化を行っていく旨の記載がある。輸送セクターやエネルギー、ビルといったような具体的な目標が記載されているものもあれば、定性的、ないしは脱炭素の方向のみを示しただけのものもあるが、いずれにしても、進む道は一気に示される格好になる。

トランプ施政下においては本来進展すべきだった脱炭素の流れが蓋をされた格好で、脱炭素圧力が溜まる格好になった。そこへ来て、このとおり明快な形でバイデン政権が脱炭素軸を打ち出すわけであるから、その圧力が噴出しないわけがないし、事実すでに市場はそこを評価して脱炭素銘柄はその価格を上げている。

その噴出する圧力に、しっかりバイデン政権は脱炭素にインセンティブを付与する政策を打つわけである。かつ、トランプ政権下において、米国はそのように本来であれば進展したであろうほどには進展しなかった脱炭素が、世界では決定的な流れとなる。

コロナからの復興に関して欧州を中心にグリーン・リカバリーが叫ばれる状況であるから、アメリカは逆にここから追いかけ、追い越す状況になったことも、今後のアメリカのグリーン化の流れが官民ともに加速する要因になったと筆者は考える。


Photo: Phil Roeder/Creative Commons 2.0

脱炭素では米中が同じ方向を向く

特に、これまでグリーンの流れでは後発だった中国が先般の国連主催のClimate Action Summitにおいて、具体的かつ実現可能なレンジであってなお世界標準に照らせば野心的な目標を立てたのであるから、産業競争という意味においても国家の威信をかけるという意味においても、アメリカのこれからの脱炭素のキャッチアップぶりは目を見張るものになると見て間違いない。

当然、アメリカのこの動きは世界の脱炭素の流れを加速する。また、その中で競争も激化し、イノベーションも次々と生じるであろう。また、元々、産業革命以来構築されてきた化石燃料を燃焼させることによって、社会の動力をまかなってきたその理が大きく変化することになる。

アメリカの中東への政治的関心は相対的に低下するであろうし、世界各国のエネルギーを巡る事情も変化をする。また、グリーン化の中で争われる覇権争い、ルール作りを巡る国際対立等々がこれから起きることになる。

今後は気候変動対策を取ることを正とした気候正義の世界により入っていくことになるであろうし、その中で国際秩序が再編されることになる。

特に注意すべきなのは、この脱炭素の論点にいたっては、米中が同じ方向を向くということである。熾烈なグリーン競争を行いながら一方で、進む方向はともに脱炭素となるわけで、米中が同じ方向を向く数少ないテーマであり、かつ、それがビジネスにも関連するテーマであるとすれば、それが世界の脱炭素化をリードしていかないわけがない。


Gage Skidmore from Peoria, AZ, United States of America, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

日本にこれから起こることと、アメリカからの要求はどうなる

そうした中で日本は舵を取っていかなくてはならない。日米同盟を基軸とする日本である。菅政権においては、いま、できるだけ早い順番で他の国に先駆けて米国と首脳会談を行いたい、その一心で準備をしていることであろう。そのための土産として、脱炭素メニューも用意しなくてはならないという位置づけでの、今年1月18日の国会での施政方針演説であったようにも思う。

筆者としてはもっとドライブをかけた所信表明の内容にできたであろう、ないし、するべきであったとも思わなくもないし、アメリカが日本を見たときにどのように評価するか、そこにいささかの自信はない。

おそらくアメリカは日本の習性を分かった上で、緑の気候基金への拠出や投資促進といった日本の得意メニューについての依頼を高めに投げてくるとともに、野心的な削減目標を共に立てていきながら世界の脱炭素をともにリードしたいというくらいのバイデンメニューからすればソフトな内容を(会談の)初回に関しては言ってくるのではないだろうか。

怖いのは、その次に来る事務方の要求であろう。日本も心して準備をしなければならないし、また、アメリカが戻ってきて、主導しようとすることにより動く「世界の脱炭素力学」と、それに呼応したビジネスの世界からふるい落とされないよう、意識を変え、脱炭素に口だけでなく本気で取り組んでいく必要がある。


2020年10月26日、衆議院本会議で所信表明をする菅首相

日本は世界の脱炭素力学に本気で取り組めるか

筆者はこのままでは、いずれふるい落とされる日が来てしまうと危惧している。本音を書くとすれば、だからあんなに(官僚時代に)散々言ったのではないかという思いはあるし、他方で、行政だけでなく、民間も含めた日本におけるグリーンの重要性の理解の低さもあり、それに真剣に取り組むべく脱炭素ビジネスに身を投じた経緯からすれば、危機感しかないのである。

でも、だからこそ、ここで述べたい。バイデン発足で、これから進む方向は明らかである。日米同盟の文脈にも合致する。

今からでもいい。本気の施策が展開され、そして民間も本気でそれに答え、日本が真のグリーン・トランスフォーメーションを実現し、世界と戦える体力を維持できるようにしてほしい。そうなることを切に期待して、とりあえずの筆を置くこととしたい。

ヘッダー写真:Gage Skidmore from Surprise, AZ, United States of America, CC BY-SA 2.0

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボール出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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