カーボンニュートラルなエネルギーシステムに向けてのストーリーライン —日本のアプローチに疑問を呈する— 後編 | EnergyShift

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カーボンニュートラルなエネルギーシステムに向けてのストーリーライン —日本のアプローチに疑問を呈する— 後編

カーボンニュートラルなエネルギーシステムに向けてのストーリーライン —日本のアプローチに疑問を呈する— 後編

2021/03/19

再生可能エネルギー比率に関する議論を発端に、カーボンニュートラリティー関連技術開発に関する「違和感」をもういちど考えてみよう。
今回も、気候変動枠組条約のスタート以前から、さまざまな立場でこの問題に関わってきた、松尾直樹氏(公益財団法人地球環境戦略研究機関 上席研究員/シニアフェロー)による、気候変動問題の解決に向けた本質的な論考を前後編でお届けする。

気候変動問題を戦略的に考えよう(14ー後編)
前編はこちら

前編目次:
なにかずれていないだろうか?
1. 水素火力発電って意味があるのだろうか? アンモニア発電はどうだろうか?
2. 水素燃料はどんな場合に用いられるのだろうか?
3. 水素由来の合成燃料って何に使われるのだろうか?

4. エネルギーセキュリティーの視点

実は、このエネルギーセキュリティーの観点は、日本の将来のエネルギー政策のビジョンをどう考えるか? という点でかなり重要です。

このたびのCOVID-19もそうですが、大きな「社会転換」は、大きなコストを要しますが、いままでのしがらみに囚われずに、望ましい社会形成にぐっと踏み出すことができるという意味では、大きなチャンスでもあります。グリーンディールの考えは、この考えに沿ったものと言えるでしょう。

カーボンニュートラリティーも、その大きな社会転換のひとつですね。

CO2のみならず、エネルギーセキュリティーの観点からは、エネルギー資源に乏しい日本が、国産エネルギーのみでほぼ自給できる社会をつくるチャンスでもあります。現状ではまだ世界水準より高い再エネを、がんばってコストを下げることで、

(A) この機会に、エネルギー自立型社会をつくる

という「夢」に向かって走るべきでしょうか?
それとも、やはり

(B)コストを重視し、エネルギーのかなりの部分を海外からの輸入に頼る社会を選択する

べきなのでしょうか?

これは一種の価値判断です。みなさんは、どちらに向かって日本は進むべきだと考えられますか?

どうせお金を使うなら、国富を海外に流出させず、国内で使いたい、という考え方の人は、(A)の支持者になります。FIT支持者の人なども、ここに属するでしょう。いや、エネルギーの国際市場に応じて経済合理的な判断を行うべき、という人は、(B)の支持者ですね。

現在、ひとつの答えに固執する必要はないかもしれませんが(大きな問題ですので固執すべきでないという考え方もありえます)、それらのインプリケーションは、きちんと考えておくべきだと思います。この2つで、かなり将来の絵姿が変わってきます。

なお、ここでのエネルギー輸入とは、海外で安価なカーボンニュートラル電力からつくられた水素もしくは水素をベースとしたエネルギーキャリアという形での輸入を想定しています。

その場合、(B)の想定でも、現状の「中東からのエネルギー輸入を小さくする」という視点でのエネルギーセキュリティーのクライテリアは満たすことが可能です。その意味では、(B)でも十分ではないか? という議論も成り立つことに留意しておきましょう(これが水素がエネルギー安全保障に寄与するという理由ですね)。

5. 隠れた各種前提とビジョン

海外から安価な水素(やそのキャリア)の輸入を前提とすると、「水素価格>電力価格」という前提が崩れてきます。かつ大量に輸入することが可能となりますので、

  • 水素火力発電
  • 水素が燃料形態でそれなりの量用いられる

という可能性も出てきます(燃料電池は熱の需要があるオンサイト分散型、水素火力発電は集中電源型という棲み分けでしょうか)。いまの政策をみると、政府はこの水素大量輸入社会を指向しているということかと思います。

ただ、逆に国内の再エネ電力に比較して、「安価な水素が大量に輸入可能」という前提が崩れた場合はどうでしょうか?

昨年12月の論考でも述べましたが、大量の安価な国内余剰電力が利用可能なら、水素価格<実需要電力価格もありえるでしょう。ただ、大量に余剰することと、非常に安価であることは(普通に考えれば)矛盾しますので、これで水素が二次エネルギーにおける主役になることはなさそうです。

となると、(大量)消費の可能性として考慮すべきは、

  • エネルギー貯蔵(短時間から長期まで)
  • 電力だけでは対応が難しい一部の産業用途や運輸用途

にほぼ限定されそうです。

これらの分野でも、たとえば電力系統安定化技術は日進月歩ですし、電気自動車のバッテリーをそのために利用するなども可能です(かなりポテンシャルが大きい上に、技術はすでに利用可能、追加バッテリー購入コストも不要です)。

大型車両はもちろん、航空機でも電池を用いた技術が開発されつつあります。

製鉄のような分野でも、(再エネ由来の)電力を直接用いた還元方法も、研究されています(一度水素化する必要がないため、水素還元に比較して、コストはその分、少なくて済みそうです)。

ということで、新規開発される各種の電力利用技術を凌駕するメリットを生み出せるかどうか? という点が、水素がそれなりの大きさで利用されるかどうかの試金石になります。

みなさんはどう思われますか?

6. 技術開発に伴う副産物

いろいろ、水素や合成燃料に関する厳しいことを書き連ねました。ただ、わたしが気がついていない「ストーリーライン」があるかもしれません。

いずれにせよ、「カーボンニュートラリティーに向かうための技術」を(予算獲得の)前面に出すのなら、どれが利用される前提条件を含んだシチュエーションなのかを、きちっと明示すべきです。日本の将来のエネルギーセキュリティーをどう考えるか? は、価値判断に属することですが、コストの大小に伴う面は、ロジカルなものです。

ぜひ、みなさんの反論をお待ちしています

なお、最後に、水素やカーボンリサイクル関係の技術開発に関する「副産物」に関しても、言及しておきましょう。

科学観測/実験や技術開発においては、当初目的はうまく達成できなくとも、思っていなかった別分野で華開くこともあります。わたしはむかしは物理屋だったのですが、あのカミオカンデも、もともとは陽子崩壊の発見という異なった目的のためにつくられました(いまだに成功していません)。

技術の世界でも、こうしたことはいろいろ枚挙にいとまがないでしょう。

産業論の観点から、洋上風力での失敗を水素で取り返そうという戦略的思考もよく分かります。水素エネルギーまわりの多様な技術は、将来の技術政策、産業政策において大きな位置を占めると期待できると思います。

ただ、「その方向性でうまくいかないことがわかっているのに、(予算が取りやすいため)いつまでも錦の御旗を下ろさない」という姿勢は、さすがにおかしなことでしょう。

本来のカーボンニュートラリティーを実現化する社会形成という目的に沿ったものを取捨選択すべきでしょう(供給サイドだけでなく需要サイドもです)。「目利き」の能力が問われています!一方で別の観点から技術開発が望まれると判断できるものは、別の計画や予算を充てるべきかと思います。

ご自分が係わっている、もしくは興味がある分野の今後の可能性に関して、ストーリーラインを、もういちど見直してみませんか?

気候変動問題を戦略的に考えよう(14ー前編はこちら)

前編目次:
なにかずれていないだろうか?
1. 水素火力発電って意味があるのだろうか? アンモニア発電はどうだろうか?
2. 水素燃料はどんな場合に用いられるのだろうか?
3. 水素由来の合成燃料って何に使われるのだろうか?

松尾直樹
松尾直樹

1988年、大阪大学で理学博士取得。日本エネルギー経済研究所(IEE)、地球環境戦略研究機関(IGES)を経て、クライメート・エキスパーツとPEARカーボンオフセット・イニシアティブを設立。気候変動問題のコンサルティングと、途上国のエネルギーアクセス問題に切り込むソーラーホームシステム事業を行う。加えて、慶応大学大学院で気候変動問題関係の非常勤講師と、ふたたびIGESにおいて気候変動問題の戦略研究や政策提言にも携わり、革新的新技術を用いた途上国コールドチェーン創出ビジネスにもかかわっている。UNFCCCの政府報告書通報およびレビュープロセスにも、第1回目からレビューアーとして参加し、20年以上の経験を持つ。CDMの第一号方法論承認に成功した実績を持つ。 専門分野は気候変動とエネルギーであるが、市場面、技術面、国際制度面、政策措置面、エネルギー面、ビジネス面など、多様な側面からこの問題に取り組んでいる。

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