トランジションを経たうえで、カーボンニュートラルへのイノベーションを起こす:経済産業省産業技術環境局長 山下隆一氏インタビュー | EnergyShift

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トランジションを経たうえで、カーボンニュートラルへのイノベーションを起こす:経済産業省産業技術環境局長 山下隆一氏インタビュー

トランジションを経たうえで、カーボンニュートラルへのイノベーションを起こす:経済産業省産業技術環境局長 山下隆一氏インタビュー

2021/01/08

菅義偉首相が2020年10月26日の所信表明演説で、2050年カーボンニュートラルを宣言した。経済産業省産業技術環境局はカーボンニュートラルの実行計画と、環境と経済の好循環方針の責任部署となっている。今回は、産業技術環境局長である山下隆一氏の、メディア共同インタビューをお届けする。山下局長は経産省のグリーン成長戦略やグリーンファイナンス活性化方針、そしてサーキュラー・エコノミー政策について雄弁に語る。

環境イノベーションは全方位を網羅

― 山下局長は東京電力に出向しており、2020年に経済産業省に戻ったということですが。

山下隆一氏:2017年から3年間、東京電力取締役兼原子力損害賠償・廃炉等支援機構連絡調整室長を務めました。経歴をさかのぼれば2003年から2007年に存在した特殊会社 産業再生機構に出向して企業再生の支援を手がけた経験もあります。

実際に企業経営や経営支援に携わったことは、産業政策を策定するうえで大いに役立つ。日本企業で課題となっている環境、イノベーション、標準化などの問題を実際に経営に取り入れられるときにどういう意思決定で進んでいくかなどを経営現場で知ることができました。

― カーボンニュートラルを達成させるには、なんといっても環境・エネルギー分野のイノベーション(技術革新)が不可欠と言われています。

山下氏:2050年に向けての環境・エネルギーのイノベーションにはあらゆる可能性を考慮した全方位での姿勢で取り組んでいきます。なぜかと言いますと、例えば四半世紀前の1995年の時点では、2020年にはスマートフォン中心の生活になるとはだれも想像してなかったはずです。環境・エネルギーイノベーションも同様です。

人工知能(AI)や情報通信技術(ICT)、さらに生命科学が直近ではものすごく進化しています。だからこそ全方位で環境・エネルギーイノベーションを網羅しておくべきなのです。CO2削減は世界共通の課題です。現在見えている世界と5年後は必ず違ってくる。さらに10年後はもっと違ってくる。想定以上に発展した環境・エネルギーイノベーション分野とそうでないものが分かってきて、新しい技術が出てくる。

―イノベーションを起こすには潤沢な資金が必要ですね。

山下氏:はい。なので当然グリーンファイナンスも重点施策です。グリーン分野の投融資は国内外で、もうかなり仕組みができてきています。

大事なのは移行期でもいかに金融をつけていくかということです。移行期からグリーンまでもっていくプロセスにもファイナンスがつくようにする。現状では移行期がきちんと位置付けられていないので、これを位置付けるのも私の重要な仕事です。

EUのサステナビリティ(持続可能性)方針に関する経済活動を分類したタクソノミーは1つの考え方であり、複層的に考える必要があります。産業技術環境局の研究会ではそういうことを検討の目玉にします。


経済産業省 産業技術環境局 山下 隆一局長

―具体的にどの分野の移行プロセスの対応が重要なのですか。

山下氏:水素みたいに商用化までにまだまだイノベーションが必要なものについては、資金の出し手側が長期の視点で、投資ポートフォリオの中のオルタナティブ(既存・主流のものに代わる新規分野)の位置付けで投資してもらいたい。

一方で、LNG火力発電や石炭火力発電にCCS(二酸化炭素の回収・貯留)をつけるファイナンスは、技術がある程度確立してきて商用化が比較的近いものについては、債券でも融資でも資金を調達できる段階にきています。

大事なのは金融の流れを移行期でも使えるように、例えばどの技術がどこまでの段階であるかの進捗状況を全体のどのレベルにあるのか図式化していくことです。そうすることで金融庁とも環境省とも違う視点での経済産業省としてのグリーンファイナンス支援の姿勢を明確化にできます。

―日本の地球温暖化対策計画について。経済産業省は産業技術環境局が担当です。環境省と合同で進めていくのですね。

山下氏:2030年にしても2050年にしても、計画として策定するにあたって、自分たちの取り組みとして見通せるものを積み上げることと、将来ビジョンを描いて表現することの、2つの側面があるわけです。日本はまじめな国なので2030年、2050年とそれぞれの位置づけで、自分たちで見通せるシナリオで精いっぱい考えた上でビジョンを組み立てます。それはそれで日本の良さで、日本は一度取り組むと決めたことは、ほとんど実行していくわけです。

一方、世界をみると、EUはむしろ長期的なビジョンをつくることに長けています。

どちらがいい、ということではありませんが、見通しを誤ることには気を付けなくてはいけません。EUの場合ですと、例えば、洋上風力発電のサプライチェーンのつくりかたは見事な産業政策です。日本は温暖化政策と産業政策を一体化する政策において、EUに完敗しています。

日本で洋上風力発電市場が生まれなかったわけ

― EUが先行しているのは、再生可能エネルギー関連企業でも同様です。

山下氏:東京電力ホールディングスはデンマークの風力発電開発大手のオーステッドと共同で洋上風力発電事業を手がけています。私は東京電力ホールディングスに実際に出向していたので、オーステッドの持っている洋上風力発電技術の凄さを身をもって知ることができました。

実際に一緒に事業をやってみると、彼らは本当に凄いな、と感じます。オーステッドは部品の調達能力も含め、すごい能力を持っています。数万点に及ぶあらゆる部品を欧州から持ってきます。

日本企業はもともと2000年代には、風力発電に必要な要素技術をフルセットで持っていました。日本の産業インフラの幅広さをみたら当然でした。しかし当時、経済産業省には洋上風力発電を軸とした産業政策の考えはなく、大手電力会社も全くやる気がありませんでした。したがって、日本で洋上風力発電市場は生まれませんでした。その時はまさかこんな社会が来ると思っていないわけです。

しかし現在、洋上風力発電による電力はグローバル企業の需要家が欲しがっています。お客さまのニーズがある以上は、日本としても洋上風力発電事業をやりたいということになります。

― ということは、日本は欧州よりも先行して洋上風力発電市場を形成できる素地があったのですね。

山下氏:鉄も含めてそれに連なるサプライチェーン全体の産業が日本で十分できてました。欧州に先行していたら台湾をはじめとする海外でも展開していたでしょう。日本は結果として、ものすごく大きいビジネスチャンスを失ったことになります。産業技術環境局としては、洋上風力発電市場と同様なことが、再び起きないように注意しています。

水素も同様です。現状のような高コストの現状では大量導入は難しいという人はいます。私も東京電力ホールディングス時代に、燃料として水素を使うには高すぎるので、何とか安くできないかと言っていました。

とはいえ、産業インフラまで含めて考えていくと、欧州に水素まで追い抜かれるわけにはいきません。現状まだまだ、日本の水素・燃料電池関連技術は世界のトップを走っています。要素技術は欧米企業よりもかなり優位性があると思います。

ただ、脱炭素技術は水素に限定する必要はありません。カーボンリサイクルの目玉技術のCCUS(二酸化炭素の回収・利用・貯留)にも可能性はあります。いずれにせよ、分野の限定はできません。環境・エネルギーの世界はこれからのビジネスの中でデジタル化と並んで大きな要素だと思います。

日本は脱炭素の分野における産業政策で負けられないと思います。そうした意味で技術開発を頑張らないといけないし、それをどうビジネスにしていくのか、産業界がこれにどうコミットしていくのか、地球環境のためということもありますが、それだけではなく将来の日本経済のためにとても大事なことだと思います。

環境と成長の好循環につなげるビジネスチャンス

― 産業技術環境局はプラスチックなどのサーキュラー・エコノミー(循環経済)を金融と結びつけて活性化させる施策も検討しています。

山下氏:昔から日本は3R(Reduce:減らす、Reuse:再利用する、Recycle:リサイクル)をやってきました。どうやって内部で回すようにするかが肝心です。日本は規制や各分野のリサイクル法をつくって、守ってきてそれなりに循環経済ができています。

しかし世界規模でみると、循環経済の問題の本質はなんら変わっていない状況です。国内外の経済社会情勢は大きく変化しており、特に世界的な人口増加と経済成長を背景に大量生産・大量消費・大量廃棄型の線形経済から循環経済への移行が世界的に求められています。日本でもあらゆる産業が、これまでの廃棄物・環境対策としての3Rではなく、「環境と成長の好循環」につなげる新たなビジネスチャンスと捉え、経営戦略・事業戦略として循環性の高いビジネスモデルへの転換を図ることが重要なのです。

具体的には拘束力あるハードロウ、あるいは社会的規範ともなるソフトロウなどで法制化で対応するか、あるいはガイドラインをつくるか、はたまた金融側のガバナンスにするのか、いろいろな次元の手法があります。これらの最適な組み合わせでどのように回していくかについて、専門家や有識者と議論しながら知恵を出し合わせます。最初からこういう体系で回していくと決めるのでは、必ず失敗します。プラスチック資源にしろ、ごみ回収リサイクルにしろ、どういう形で循環経済に移行させるかが大事です。今でこそ環境意識の高い人は増えてきました。消費者自身が反応してようやく循環経済が回るようになるのです。

(Text:土守豪)

山下隆一
山下隆一

1989年4月に通商産業省入省、2010年8月に資源エネルギー庁電力・ガス事業部電力市場整備課長、2015年7月大臣官房総務課長、2017年7月東京電力取締役兼原子力損害賠償・廃炉等支援機構連絡調整室長、2020年7月より産業技術環境局長(現在)。東大法卒、鹿児島県出身、56歳。

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