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価値が上がっている非財務情報 日本企業の「サステナビリティ経営」の現状と課題とは

2022年03月16日

取締役参加の「サステナビリティ委員会」を設置した企業

味の素は2021年4月1日、取締役会の第4の組織として「サステナビリティ諮問会議」を設置した。取締役会の下にサステナビリティ諮問会議、執行側の経営会議の下にサステナビリティ委員会をそれぞれ設置(図1)。

図1:サステナビリティ委員会 組織体制


出所:味の素株式会社の資料をもとに編集部再編集

サステナビリティ諮問会議は、社外有識者7名、社外取締役2名、代表執行役社長を含む社内役員3名で構成されている。諮問会議は会社法で規定された組織ではなく、特定の権限は持たない。中期経営計画策定の前提となる経営環境の変化や企業の対応すべき課題などを取締役会に提言する。味の素は指名委員会等設置会社という統治体制をとっており、提言に基づいて社外取締役が過半を占める取締役会で実際の戦略を決める。

一方、サステナビリティ委員会は、CSR活動のなかでも重要課題を意味する「マテリアリティ」及び戦略的方向性に基づき、全社経営課題のリスクや事業戦略への反映に向けた討議を行い、経営会議に報告している。

会議の議題は、2050年を見据えた経営の重要課題や対応方針である。会議は半期ごとで既に2021年の5月、12月に開催され、議論の内容を同社サイトで公表している。議論を経てマルチステークホルダー視点を反映した企業の在るべき姿を示す考えだ。

三井住友フィナンシャルグループは2021年7月に、取締役会の内部委員会として「サステナビリティ委員会」を設置した(図2)。同年8月には2050年までに投融資ポートフォリオ全体で温室効果ガス排出量をゼロとするコミットメントを公表。同分野を経営戦略の中核に位置付けている。カーボンニュートラルの実現に向け、資金面だけでなく、グループのシンクタンク機能も活用して企業の事業構造転換を支援する方針だ。

図2:サステナビリティ推進計画の審議と進捗管理の体制


出所:三井住友ファイナンシャルグループの資料をもとに編集部再編集

今後も多くの企業で同様の動きが広がりを見せそうな一方で、執行側を監督する位置付けとしてサステナビリティ委員会を設置している日本企業はほとんどないのが現状だ。

日本企業のサステナビリティ委員会が抱える課題、委員会に求められていることは? 

サステナビリティを意識した取締役会の運営で一歩進んでいるのが、米国と英国だ。両国では、取締役会でサステナビリティを議題にする動きが進んでおり、取締役会の中にサステナビリティ委員会を設け、経営陣から独立した社外取締役が委員に就いて推進する形態が主流になっている。

日本においても、TOPIX100企業における8割以上の企業がCSR委員会などサステナビリティ関連の委員会を設置しているものの、これらの委員会の多くは、社長やCEOの「諮問機関」である(図3)。一部の企業は取締役会の諮問機関としているが、委員長は執行側から出されている。取締役会の下に委員会を設けると、委員会任せにするという懸念があるため、取締役会でしっかり議論することが求められる。

図3:JPX400対象企業における サステナビリティ委員会の設置状況


※委員会が取締役会の諮問機関として位置づけられていることを表す
出所:経済産業省の資料をもとに編集部再編集

ESG投資が活発化するなど、上場企業においては、ESG情報を含むサステナビリティの開示対応がますます求められている。各企業では、法定開示の有価証券報告書における記載の充実、サステナビリティ報告書などの任意の報告書作成や自社WEBサイトを通じた情報開示などの取組が進められている。

「コーポレートガバナンス白書2021」によると、機関投資家の非財務情報に対する関心の高まりから統合報告書等を通じて自社の価値創造ストーリー等の非財務情報を開示する企業が近年増加しており、2020年10月時点で565社が統合報告書を発行している。 

ESGの課題への向き合い方が上場企業に問われるなかで、サステナビリティ部門だけで対応せず経営者、あらゆる事業部門、財務部門の参加が求められ、事業活動のあらゆる部分に織り込むことが必要だ。サステナビリティに関する議論をリードし、適切な監督を行うため、客観的に監視・監督する体制づくりが求められる。今後もサステナビリティ委員会の機能強化をはじめ、取締役会や社外取締役の関与を強めたりする動きが活発になりそうだ。

 

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東條 英里
東條 英里

2021年8月よりEnergyShift編集部にジョイン。趣味はラジオを聴くこと、美食巡り。早起きは得意な方で朝の運動が日課。エネルギー業界について日々勉強中。

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