今この瞬間に、地球上で永久に失われてしまうものがある。
温暖化によって地球上の壮大で記憶に残る風景が消失している。果てしない氷河、動物の楽園、海の産物──。コロナで海外旅行がままならない今、地球上のかつてあった美しい風景、地球の宝を守るべく、かの地に想いを巡らせてほしい。
連載「変わりゆく地球」
トンネルを使わない登山列車としてはヨーロッパ最高所を走るゴルナーグラート鉄道。車窓からマッターホルンや氷河を見ることができる ©Hiroaki Oyamada(クリックすると別ウィンドウで開きます)
スイスは公共交通機関が発達しており、山岳交通網もよく整備されている。そのため標高3000mのエリアにも簡単にアクセスすることができ、アルプスを流れ落ちる氷河観光も容易だ。ルートによっては氷河を車窓から見ることもできる。
これぞスイスという景色が見られるツェルマットの村。教会すぐ近くにある橋はマッターホルン撮影の絶好のスポットで早朝から観光客が集まる ©Hiroaki Oyamada(クリックすると別ウィンドウで開きます)
スイスで最も印象的な山といえば三角形の独立峰マッターホルンだ。スイス南西部の村ツェルマットが観光拠点で、奥まった立地ながら世界中から観光客が訪れる。村はきれいな空気と静寂さを保つため、ガソリン車の通行が禁止されており、電気自動車が走っている。
3000mを超える展望台も複数あり、登山列車やロープウェイなどでアクセスできる。ハイキングコースもよく整備されており、総延長距離は400kmにも及ぶ。冬もスキーコースとは別に圧雪されてハイキング路が整備されるので、年間を通してハイキングが可能だ。
5年ごとの氷河の変化を追ってみた。いずれもゴルナーグラート展望台からの撮影。ゴルナー氷河に流れ落ちる2つの氷河の末端を比較するとわかりやすい。右側のブライトホルン氷河の減少度合いが大きい。2014年は氷の量が増えているように見えるが、アイボリー色の部分は残雪だ ©Hiroaki Oyamada(クリックすると別ウィンドウで開きます)
ツェルマットの標高は1620m。周囲には38座の4000m超の山々がそびえ氷河も多い。1865年7月14日に初登頂されたマッターホルンは現在も登山家憧れの山で、登頂目的にツェルマットを訪れる人も多い。しかし気温上昇による永久凍土の融解で落石の危険が増している。2019年には落石が原因の死亡事故が複数発生した。
ほかのエリアに比べれば氷河後退などの様子は目立たないが、人気展望台ゴルナーグラートから見られる氷河も融解が進んでいる。2019年7月は村の北西部にある氷河の融解が原因と思われる小さな洪水が発生し、トリフト川を伝って村に流れ込んだ。
Google Earthでは氷河融解の度合いを確認できる場所がある。45.964444, 7.799389で検索すると、記録年度の異なるデータが混在している部分が表示され、それがゴルナー氷河の途中にかかっている。氷の滝のように見えるが、左奥は年度の古い写真とデータ、右側の鮮明な写真の部分は2020年に入ってからの写真とデータが反映されているため、氷河の厚みに差が生じている。右奥に見える氷河はシュヴァルツェ氷河
©2021 Google、Maxar Technologies、Landsat / Copernicus、Data SIO, U.S. Navy, NGA,GEBCO
氷河の融解は行方不明者の発見につながっている。何十年も前に遭難した人々が氷河から見つかっているのだ。2014年には1970年に遭難した日本人登山家の遺骨がマッターホルン麓の氷河で発見された。さらに古い時代のものを含む発見は今後も続くとみられる。
夏の暑さとは無縁と思われるような奥座敷の山岳リゾートも気温上昇の危機にさらされている。短期間の訪問者がそれに気づくことは少ないだろうが、状況の変化は明らかだ。このままでは2100年には、アルプスの氷河が消失してしまうという予測もある。
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