自動車や造船、産業機器に建築、情報通信機器まで、あらゆる産業基盤を支える日本の鉄鋼業が脱炭素に揺れている。鉄鋼業界から排出される二酸化炭素(CO2)は日本全体の14%を占め、産業部門でもっとも多いためだ。一方、製造過程のCO2排出を実質ゼロとした「ゼロカーボンスチール」の世界市場は2050年には40兆円に達するという。日本製鉄やJFEホールディングス、神戸製鋼所の3社は脱炭素に向け、水素から鉄をつくる水素還元製鉄で世界展開を目指す。水素で伸びる企業はどこなのか。今回は鉄鋼分野の最新動向をまとめた。
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日本製鉄、JFEホールディングス(HD)、神戸製鋼所の今期業績は好調だ。
日本製鉄は2021年度の売上高が前期比39%増の6兆7,000億円、最終損益は5,200億円の黒字(前期は324億円の赤字)になる見込みだ。JFEHDでは2021年度売上高が4兆3,400億円(34%増)、最終損益は1,057億円の赤字だった前期から2,500億円に黒字転換する見込み。神戸製鋼も2021年11月、業績見通しを上方修正し、売上高2兆900億円、500億円の最終利益を予想する。
鋼材値上げが浸透し、鉄鉱石や原料炭など資源高の影響を補う。3社の合計利益が8,000億円を超えるのは、2012年の新日本製鉄と住友金属工業の統合後初だという。
だが、最高水準の利益も手放しでは喜べない。
鉄鋼3社にとってどれだけ稼げるか。収益力の重要性は今までになく高くなっている。脱炭素の切り札とされる水素製鉄などの実現には、日本製鉄1社だけで研究開発に5,000億円、設備投資に4〜5兆円かかるからだ。
出典:日本製鉄
しかも、足もとでは原料炭の価格が「過熱しており」(JFEHD)、400ドル前後で推移する。さらに鉄鋼市場をめぐる環境は厳しくなる模様だ。モーター性能を左右する「電磁鋼板」や通常の鋼板の3倍の強度を持つ「超ハイテン鋼板」などの高級鋼は、電気自動車(EV)や風車など脱炭素の流れから需要は拡大する見込みだが、その一方で、人口減少などに伴い国内需要は減少、海外市場の競合が激化し輸出採算性が悪化すると想定されている。
鉄鋼市場の激変が予測される中、3社は脱炭素に向けた投資資金の確保に急ぐ。
日本製鉄では、2025年度までに高炉5基の休止などを進め、全体の2割強にあたる1万人規模の人員を合理化し、年間1,500億円のコスト削減を目指す。
また日本製鉄やJFEHDは電磁鋼板の生産能力を上げ、収益力の上積みを図る。それだけ脱炭素に向けた製法革新は資金がかさみ、その技術ハードルも高い。
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