近年、大気中の CO2を直接回収する「DAC(Direct Air Capture)」という技術が、注目を集めている。DACは欧米のベンチャー等が取り組んでいるが、日本においても「2050年ネットゼロ」に向けて、温室効果ガス排出削減策の一つとして活用されそうだ。DACの実用化に向けた動向を追ってみた。
DACは、温暖化ガスの排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)への有力な手段として存在感を出し始めている。CO2の排出量と吸収量を相殺することで過去に排出され大気中にたまったCO2を回収し、地中に貯留する「ネガティブ・エミッション(負の排出)」を実現する技術として研究されてきた経緯がある。DACの利点は、限られた土地と水の使用で空気中のCO2を回収できることだ。DAC運用にあたって必要な敷地は、植林や他のCO2削減技術と比較して圧倒的に小さな面積ですむと言われている。そのため、CO2の貯留や利用など用途に合わせた回収場所が選択でき、より効率的にCO2の回収が実現できるとされている。
また、回収したCO2を利用する場合、工場を適切な貯蔵場所や利用場所の近くにDACを設置すれば、回収したCO2を長距離輸送する必要がなくなる。カーボンオフセットにはCO2を吸収してくれる植林などの手法が用いられてきたが、DACを用いるとより効率的にCO2の回収が実現できるとされている。
DACでは、固体や液体を用いてCO2を回収している。吸収液や吸着材に空気中のCO2を吸収・吸着させ、その後加熱や減圧などの操作で吸収液や吸着材からCO2を分離・回収する方法「化学吸収・吸着法」が代表的だ。他にイオン交換膜などを用いて空気中からCO2を分離する「膜分離」や、CO2が含まれたガスを冷やしてドライアイスとして回収する「深冷法」もある。
DACは、貯留技術などと組み合わせることで、すでに大気中にあるCO2を除去する、先にも述べた「ネガティブ・エミッション」を可能にする。回収したCO2は、地下に貯留されたり、化学品、燃料、セメントなどの製造に使われたりする。CO2が地下に貯留される場合、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)と組み合わされることから、「DACCS」と呼ばれる(図1)。DACは排出源からの排ガスではなく、大気からCO2を回収・除去するため、DACCSは一般のCCSと異なる。DACで回収する大気のCO2濃度は0.04%で、火力発電所の排ガスの100~300分の1しかないため、化石燃料燃焼時に排ガス等からの回収と比べ、より大きなエネルギーが必要だ。
図1:DACで回収した低純度CO2を地中貯留する模式図
出所:九州大学
DACは運用が始まったばかりの新しい技術で未知の部分も多いが、世界の平均気温の上昇を1.5℃以内に抑えるという「パリ協定」の目標を達成するには、温室効果ガスの排出を減らすだけでなく、回収が不可欠であり、世界的な企業もDACに注目し、プロジェクトを具現化しようとしている。
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