COP25からCOP26へ、非国家アクターは気候危機対策をリードするか | EnergyShift

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COP25からCOP26へ、非国家アクターは気候危機対策をリードするか

COP25からCOP26へ、非国家アクターは気候危機対策をリードするか

2020年03月13日

2019年12月にスペインのマドリッドで開催されたCOP25(気候変動枠組み条約第25回締約国会議)は、交渉がまとまらないまま終了した。気候変動の政府間交渉の困難さが改めて示されるものだった。しかしその一方で、企業や自治体、NGOなど非国家アクターの存在感が増しており、とりわけグレタ・トゥーンベリ氏に代表される若い世代の活動が注目された。
気候変動対策における重要な存在である、こうした非国家アクターの活躍と、日本の非国家アクターへの期待を中心に、自然エネルギー財団事業局長の大林ミカ氏に話をおうかがいした。

COP25で目立った、若い世代による新しい動き

―最初に、COP25に対する全体的な評価からお願いします。

大林ミカ氏:各国政府の交渉を担当する人たちにとっては、2020年にスタートするパリ協定の準備の合意ができなかったことは残念だったと思います。
開催国がチリからスペインに移り、開催日こそ期日通りでしたが、特に北米のNGOのメンバーなど参加できなかった人も多く、交渉を進めるパワーそのものが足りなかったかもしれません。

その一方で、2020年11月にイギリス・グラスゴーで開催されるCOP26への期待は大きなものがあり、そこに向けて国際交渉を盛り上げようという動きも活発になっています。
同じように合意にいたることができなかった、2009年にデンマークで開催されたCOP15のときは、自然エネルギーが現在ほど安くなっていませんでしたが、現在は再エネが経済性を持つようになりました。むしろ再エネを導入した方が安くなっており、その結果、パリ協定の合意につながっています。現在のCOPの交渉の背景には、こうした違いがあります。

自然エネルギー財団 大林ミカ事業局長

―一方、COPは政府間交渉だけではなく、非国家アクターの活躍も大きなものとなっていると聞きます。

大林氏:特に、スウェーデンの環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんなど、多くの若い人が参加したのは新しい動きで素晴らしいものです。ただ、国際交渉が若い人の力に頼って進められているように見えたのは、個人的には違和感がありました。
開催地がチリからスペインに移ったので、来られなくなった人もいましたが、それでも世界中のビジネスパーソンが集まっていろいろなイベントが開催されました。

年々、気候変動の非国家アクターの存在は高まっています。国連は2019年9月にニューヨークで気候行動サミット2019(Climate Action Summit 2019)を開催しました。このときにも沢山のイベントが開催され、政府と非国家アクターが気候変動への取組を一緒に盛り上げていました。

過去、私にとって印象深かったのは、パリ協定が採択されたCOP21の交渉が終わった日のことでした。すでに会期を過ぎて展示が片づけられ、会場が寂しくなっていくなかで、展示会場でシャンパンをあけてパリ協定の採択を祝っている人たちがいました。それが、ビジネスNGOのWe Mean Businessのブースでした。彼らはパリ協定採択に向けた圧力のひとつとなっていたのです。社会の経済活動を支えるビジネスこそが気候変動に取り組むべきアクターですから、当然のことなのかもしれませんが、当時(2015年)、まだ日本では気候変動の取組に反対している企業が多い中で、わたしには、すべての国が合意したパリ協定の意味を考える、世界の転換を意識した出来事の一つになりました。

もちろん、国連気候変動枠組み条約は大切な器ですから、守っていかなくてはいけません。しかし、個別の国レベルの政策では、日本や米国など、なかなか進んでいません。そうした中で、企業や自治体が率先して行動する動きが増えています。非国家アクターの盛り上がりは、世界の気候変動対策の動きと比例して、特にパリ協定の採択以降、急速に活性化しています。

英NGOのザ・クライメート・グループ(The Climate Group)は、毎年9月の国連のハイレベルサミットに合わせて、クライメートウィーク(Climate Week)を開催しています。特に昨年(2019年)は、国連で気候行動サミットが実施され、クライメートウィークも盛り上がりました。大臣や首相レベルの多くの「国家アクター」が、クライメートウィークのイベントに参加し、議論を盛り上げていくなど、気候行動に先進的な政府側と非国家アクターの結びつきは強くなっています。国連のハイレベルサミットに先だって開催されたクライメートウィークのオープニングに参加しましたが、スペインやコスタリカの大統領、デンマーク首相、米国カリフォルニア州やワシントン州知事、米国元国務大臣のジョン・ケリーなどに加えて、ユニリーバやエンジーなどのCEOなどが登壇、気候変動への熱い意気込みを語っていました。


Climate Week NYC 2019でのヘレン・クラークソンCEO

COP25でも、急に開催場所が変更されたにもかかわらず、大きなビジネスイベントがありました。例えば、ワールドクライメートサミット(WCS)は、2010年に始まった大規模なサイドイベントですが、ここにも、チリやペルーの大臣とともに、多くの企業が参加をしており、日本からも、自然電力が登壇して、自然エネルギーを増やす取組について紹介しています。COP会場では、グレタ・トゥーンベリ氏の活躍に関心が集まっていましたが、元ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏や、俳優のハリソン・フォード氏、元米国副大統領のアル・ゴア氏なども議論を盛り上げていました。

再エネビジネスが利潤につながる時代に

―先ほど、COP15のときと比較して、再エネが安くなったとおっしゃいました。

大林氏:エネルギーには、化石燃料、原子力、自然エネルギー、省エネルギー・エネルギー効率化の四つがあります。一方で、気候変動対策は、化石燃料からの二酸化炭素排出を減らすことであり、端的には化石燃料の消費を減らすことです。ここ10年で自然エネルギーの価格が加速度的に下がり、量としても拡大しているため、気候変動対策としてのエネルギー選択の道筋が、はっきり見えてきているのです。具体的に言えば、自然エネルギーと省エネルギーで気候変動対策をやっていく、ということです。

COP15の時にはまだ途上国からの対立があったものの、今では、途上国にとって自然エネルギーが最も安いエネルギーの選択肢になってきているため、パリ協定でも合意がしやすかった。途上国にとっては、自然エネルギーの拡大が投資を招く手段にもなっています。

また、気候変動対策だけではなく、都市環境のために、自然エネルギーの拡大が必須となっています。中国やインド、韓国では大気汚染がひどく、化石燃料、特に石炭の利用をやめるのは、人々の健康を守る事につながります。原子力は放射性廃棄物や事故の問題があり進めることが現実的ではない。また、コスト的に非常に高いエネルギー源です。自然エネルギーの拡大は、大きな可能性があるのです。

―日本はなかなか再エネが安くなりません。

大林氏:日本の自然エネルギーが高いのには、さまざまな要因がありますが、太陽光モジュールや風力タービンなどの価格は、世界的な標準まで下がってきつつあるので、建設にかかるコストの低減や、規制緩和などが、自然エネルギー先進国レベルに近づけば、日本の自然エネルギーコストも下がっていくのではないでしょうか。実際に、当財団のスタディでも、太陽光については2030年には欧州レベルのコストになると結果が出ています。

また、これまでの政策では、既得権益、既存の資産をどうやって守るかが中心になっていて、新しい革新的なビジネスを市場で進めていく事がなかなか難しかった。エネルギー産業はその筆頭で、特に電力については、垂直統合型の大手電力会社が地域独占をしてきたために、公正な競争が導入されず、そもそものコストが高い。

しかし、日本では過去8年間で自然エネルギーが拡大したため市場の姿も変わり、太陽光がピークを担う形となり、石油火力などが撤退を迫られています。原発事故以降、相次いで計画が立てられた石炭火力についても、設備利用率の低下などによる不良債権化が予測されます。2020年4月に導入される発送電分離は、日本で電力システム改革の進捗にとって重要な出来事となります。容量市場やベースロード市場、非化石価値取引市場などさまざまな市場が乱立する中、大手電力会社間での競争にとどまらないことが期待されます。

電力システム改革が進み、真に公平・公正・透明な電力市場が確立され、自然エネルギーを望む企業や家庭が、自然エネルギーの電力を購入できるような仕組みが確立されるよう望んでいます。

日本の非国家アクターにも期待

―日本における非国家アクターはどのような活動を展開しているのでしょうか。

大林氏:日本からも自治体や企業の方の参加がありましたし、世界のユースに混じる若者もいました。

米国には、We Are Still In(WASI)という団体があります。米国政府がパリ協定を離脱しても、パリ協定に残ると宣言した自治体や企業によるネットワークです。これをモデルとした日本の団体が、気候変動イニシアティブ(JCI)ですが、JCIはAlliances for Climate Action(ACA)というゼロカーボン経済を目指すアライアンスに、WASIなどとともにメンバーとなっています。

JCIのような非国家アクターの取組は海外でも進んでいて、チリやメキシコ、韓国でも動き始めています。

わたしたち自然エネルギー財団は、WWFジャパン、CDPジャパンとともに、JCIの事務局を担っています。JCIを設立した経緯は、このままでは日本のビジネスが世界の競争から弾き飛ばされてしまうという懸念を、日本の企業の方々が抱いたことがきっかけです。日本にも、先進的な気候行動をとる企業がいることを海外にもアピールしたい、ひいては日本政府に対して、気候変動問題でリーダーシップをとるように働きかけたい、という思いからです。端的に言えば、いつも日本の経済界を代表しているかのような、経団連だけが日本企業の声ではないということです。

実際に、経団連は日本のNDC(パリ協定の国別中期目標)の引き上げには反対していますが、JCIの半分以上の企業が、名前を出して、日本政府にNDCの引き上げを要求しています(2020年2月21日JCI発表)。


気候変動イニシアティブによるNDC引き上げ要求の記者会見

―環境NGOが訴える緊急のテーマに、石炭火力の削減があります。

大林氏:国際社会はCOP26に向けてすでに大きく動き始めています。ホストするイギリス政府は石炭火力の削減に非常に熱心で、2025年に石炭火力発電をやめる計画です。国際的な働きかけも行っていて、カナダやドイツと脱石炭連盟(Powering Past Coal Alliance:PPCA)を組んでいます。

イギリスは着実に気候行動を進めていて2019年の国の電力のうち32%を自然エネルギーで供給しています。原子力が16%あるため非化石電源でみれば48%と化石電源比率43%を上回っています(あとは国際送電による輸入電力)。また、イギリスは、洋上風力産業とセクターアグリーメント、という協定を結び、洋上風力の拡大を行うだけでなく、国内への洋上風力産業の誘致も成功しています。

日本は2045年には再エネ100%にできる

―日本政府、日本企業に期待することは。

大林氏:日本のエネルギー基本計画やエネルギー長期需給見通しは、見通しであって義務ではなく、強いしばりのあるものではありません。一方で、気候変動目標は国家的約束ですから、パリ協定にあるように、見直しの度により野心的な目標を導入することが必要です。日本の環境省も、発信力のある小泉進次郎さんが大臣になっているのですから、野心的な政策を打ってくれればと大きく期待しています。有識者会合委員として、一昨年(2018年)提言をまとめた外務省についても、日本が世界に誇れる気候外交をとることを期待しています。経産省も、先進的なエネルギー市場の展開に向けて、大胆だが繊細かつ周到な改革を進めて欲しいと思っています。

2019年の20ヶ国・地域首脳会合(G20)大阪サミット開催に合わせて、多くの日本企業が気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に加盟しました。加盟企業のなかには、社内のなかで排出量取引を実施すると宣言し、取引実績を公表するという企業もあります。TCFD宣言した企業は目標を達成する仕組みを確立させることが必要ですが、こうした仕組みやルールによって、企業の取組は大きく変わっていくことでしょう。

日本政府は、日本の企業が、先進的気候行動がとれるような枠組・仕組み作りを用意するべきです。そのためには、有効性あるカーボンプライシングの導入が必須です。日本の企業は、そうした新しいルールの中で、十分に力を発揮できる、海外に遜色ない取組ができると信じています。

―日本の再エネを増やすには、どうすればいいのでしょうか。

大林氏:まず、政府が目標値の引き上げを行うべきです。今後も引き続き自然エネルギーを増やすという意志が明らかにされれば、市場は安心して自然エネルギーの投資を行うことができます。例えば、2030年の目標を現状の22~24%から40%や50%にする、と宣言するだけで、全く状況が変わるでしょう。

「コネクト&マネージ」も2022年を待たずして各電力会社がどんどん実施するべきで、新しい電源にのみ適用するのではなく、既存の電源への適用が必要です。また、現在の優先給電ルールを見直し、自然エネルギーが市場で一番先に取引されるような仕組みを整備し、出力抑制率を減らしていきます。各電力会社の天候予測技術の向上とそれに準ずる自然エネルギーの発電予測を、ITを利用して市場に組み込んでいくことが必要です。

そして、2020年4月から始まる発送電分離は、送電事業者が独立性を持って運用を行う契機になるはずですし、送電線へ設備投資できる仕組みの導入もそれを加速するでしょう。政府も送電網拡充計画には全体の「グランドデザイン」が必要と言い始めていますが、託送料金で連系線や地内送電線を含めた送電線の強化を行うことを基本とし、自然エネルギーの賦存量に応じた開発を進めます。自然エネルギー電力が40%ないし50%になるころには、低価格のバッテリーの利用や、運輸部門や熱部門の電力化=セクターカップリングや、自然エネルギーから作る水素も現実味を帯びてくることでしょう。自然エネルギー100%の未来は可能です。

(Photo:岩田勇介、Interview:本橋恵一、Text:土守豪)

参考サイト
大林ミカ
大林ミカ

公益財団法人 自然エネルギー財団 事業局長 2011年8月公益財団法人自然エネルギー財団の設立に参加。財団設立前はアブダビに本部のある「国際再生可能エネルギー機関 (IRENA)」で、アジア太平洋地域の政策・プロジェクトマネージャーを務める。2008年から2009年まで駐日英国大使館にて気候変動政策アドバイザー。2000年に環境エネルギー政策研究所の設立に参加、2000年から2008年まで副所長。1992年から1999年末まで原子力資料情報室でエネルギーやアジアの原子力を担当する。2017年に国際太陽エネルギー学会より「グローバル・リーダーシップ・アワード」を受賞。大分県中津市生まれ、北九州市小倉出身。

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