「オンライン代理制御」により再エネ出力抑制を低減へ 第26回「系統ワーキンググループ」 | EnergyShift

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「オンライン代理制御」により再エネ出力抑制を低減へ 第26回「系統ワーキンググループ」

「オンライン代理制御」により再エネ出力抑制を低減へ 第26回「系統ワーキンググループ」

2020年08月18日
審議会ウィークリートピック

2012年のFIT開始以降、再エネ、特に太陽光発電の導入が急増している。火力発電所などの出力制御(抑制)が行われるようになり、地域によっては太陽光発電など再エネの出力制御も行われている。この制御、オフライン(人手による)のものも多く、合理的な発電制御となっていない。その対策として、「オンライン代理制御」という手法が考えられている。

再エネ出力制御量の低減に向けた新たな取り組み

前回に続き、今回も第26回「系統ワーキンググループ」(以下、系統WG)からの報告である。

再生可能エネルギー、特に太陽光発電の導入の急増によって、エリア内の電力需給バランスを維持するため、優先給電ルールに則り、火力の出力制御(抑制)は日常的におこなわれるようになった。九州エリアではさらに変動型再エネ(太陽光・風力)に対しても出力制御が実施されており、九州本土においては、2018年10月に初めて再エネ出力制御が実施されて以来、日照が良く需要が少ない低負荷期の休日を中心として2018年度に計26回、2019年度に計74回実施されている。

言うまでも無く、太陽光等は燃料費の掛からない、変動費・限界費用がゼロの電源であるため、その発電量は無理のない合理的範囲で有効に活用することが社会全体としても望ましいことである。よって系統WGや一般送配電事業者各社では、再エネ出力制御量を低減すべく様々な制度や運用ルールについて検討をおこなってきた。 今回紹介する「オンライン代理制御」もその重要な一手法である。

オンラインvsオフライン

現時点、再エネの出力制御がおこなわれているのは九州エリアのみであるため、以下、大半の記述は九州エリア、かつ太陽光発電を想定したものである。

再エネ発電所には、オンラインで遠隔出力制御可能なものと、オフラインで人間が出力制御する必要のあるものが存在する。

九州電力株式会社「九州本土における再エネ出力制御の実施状況について」2019年4月26日 第21回系統WG資料より

出力制御の対象となっている太陽光発電は、2019年3月末時点の導入量853万kWのうち、約55%に相当する約471万kWであり、このうちオンライン制御可能な事業者は約2.3万件、約165万kW(出力制御対象の約35%)となっている。つまり総導入量のうち19%のみがオンライン制御可能な太陽光発電所である。

オンライン制御であれば、一般送配電事業者(以下、一送と呼ぶ)が直前に遠隔制御可能であるのに対して、オフラインは電話やメール等で人間に制御内容を伝達したうえで、当該発電所の職員等が発電所現地まで出向して手動操作する、などの一連の作業を伴うため、ある程度事前に連絡(指令)する必要がある。このため現在はオフライン発電所に対しては、前日段階で気象予測・再エネ出力予測をおこなったうえで前日に指令している。

前日に気象予測・再エネ出力予測をおこなうということは、一定の予測ハズレ、誤差が生じることは不可避である。万一、大きな誤差が生じ、総発電量が需要を超過すると大停電となるおそれもあるため、ある程度安全サイドに立った保守的な計画を作成せざるを得ない。
このため現在は、「柔軟に制御可能なオンライン」と「硬直的なオフライン」を組み合わせた以下の図のような運用をおこなっている。

九州電力株式会社「九州本土における再エネ出力制御状況について」2020年7月16日 第26回系統WG資料より

まず前日の段階で、発生確度が比較的高い「平均誤差量」をもとに、翌日必要となる総出力制御量を算出する。そしてこの出力制御量に対して、オフライン制御を優先し前日に指令をおこなう。そして当日、日照が予想以上に良く太陽光出力が過大となる場合には、実需給2時間前にオンライン発電所に対して遠隔制御を指令する。逆に日照が予想よりも悪く太陽光出力が小さい場合は、予定していた制御を取り消す、ということをおこなう。つまりオンライン制御発電所は、調整用バッファーとしてうまく活用できている。

他方、すでに前日段階で発令済みのオフライン発電所に対する制御は当日に取り消すことは出来ないため、実需給断面で出力制御が不要となった場合でも出力制御が実施されてしまうという課題がある。もちろんこれは無駄な行為である。

この制御方法の違いは、両者の制御回数・制御量の実績にも表れている。

運用方法を変更した2019年10月以降の6ヶ月間においては、1事業者あたりの制御回数は、オフライン発電所が14~15回、オンライン発電所は7~8回であった。

この制御回数の違いについては、昨年の「出力制御の公平性の確保に係る指針」の見直しにより、出力制御量低減の観点から、オンライン事業者の制御回数がオフライン事業者より少ない場合であっても、公平性に反することにならない、と整理されている。

また2018年度の実績であるが、九州エリアのオンライン制御発電所は、出力制御予定量1.36億kWhから0.42億kWhを当日解除することにより、出力制御量は約31%削減された。当然これは、再エネ発電事業者の売電収入の減少防止にも役立っている。

そしてオンライン制御のメリットは個々の発電事業者だけのものではなく、エリア全体としても出力制御量を最小化できるという、大きなメリットがある。

よって本来は、すべての制御対象発電所が速やかにオンライン制御化されることが望ましいが、対応機器の設置等に一定の初期費用が発生するため、オンライン化は少しずつ進展しているという段階である。

オンライン代理制御(経済的出力制御)

太陽光等の再エネの更なる増加に伴い、出力制御の回数も今後の増加が見込まれる。
個々のオフライン発電事業者において発電機会損失が増加し、発電所現地へ出向し手動制御することによる人件費等が増加するだけではなく、出力制御実施面での不確実性という課題がある。

発電事業者の業務負担を抑えることや、制御確実性が高く、出力制御総量も最小化できるオンライン制御のメリットを活かすため、実態上の制御はすべてオンラインで行うことを目指す、とされた。

現実にはまだ発電所の2割程度にしかオンライン制御対応装置が設置されていないのに、どうやって「すべてオンライン化」するというのか。この解決策が「代理制御」である。 オンライン機能があるからといって、いつも自社発電所が制御(抑制)されたのでは、発電事業者としてはたまったものではない。よって、現実に制御されたオンライン発電所に対しては「発電したとみなして」売電量相当額を精算することにより、損失が発生しないようにする。

逆に、本来は出力制御されるはずであるが現実の出力制御を免れることになるオフライン発電所がそのまま売電して収入を得るのもおかしな話であるため、「出力制御されたとみなして」この売電金額も精算をおこなう(売電単価を支払わない)。
現実の物理的な制御と異なるかたちで金銭的に解決する手法ということで、経済的出力制御とも呼ばれている。

九州エリアでオンライン代理制御を導入した場合、一定の前提条件のもとの試算によると現状に比べてエリアの総制御量が17%程度低減すると見込まれている。

資源エネルギー庁「再生可能エネルギー出力制御の高度化に向けた対応について」2020年7月 第26回系統WG資料より

なお風力発電については、現時点ではオフライン発電設備を代理制御できるだけの十分な量のオンライン発電設備が存在しないことから、当面の間はオンライン代理制御の対象外である。

オンライン代理制御の実務的課題

オンライン代理制御の概要は以上のとおりであるが、具体的に実務化するには幾つかの課題がある。

課題① -1:代理制御されたオンライン発電設備の逸失電力量(みなし売電量)をどのように算定するか。

課題① -2:制御を免れたオフライン発電設備の出力制御量(みなし制御量)をどのように算定するか。

課題②:代理制御時にオフライン発電設備が現実に発電した電気に関してどのように発電計画を作成するか。

課題③:代理制御時にオフライン発電設備が現実に発電した電気の売電対価をどのように取り扱うか。

課題① -1についてはもちろん実測することは出来ないうえ、① -2について実測値を得るためのスマートメーターの普及率はまだ6割程度である。

よって現時点では、個々の発電所の事情を考慮するのではなく一律に、各エリアの発電設備容量や制御量等からオンライン発電設備及びオフライン発電設備の本来の制御量を算定することとした。具体的な算定式は以下のとおりである。

10万kWhに1.017083を乗じて得られた101,783kWhがみなし発電量となる。

10万kWhに0.96を乗じて得られた96,000kWhが調整後の発電量となる。

この算定制御量に対してオンライン事業者・オフライン事業者双方から納得感が得られることが不可欠であるが、仮にオフライン事業者が不満を感じるならば、自主的にオンライン制御に移行するという解決策があることに留意すべきである。

課題②に関しては、FIT電気であれば現在の特例制度を用いれば、発電計画作成は免除される。では、オフライン発電所が現実に発電した電気はFIT電気なのか。この答えは現時点で明確になっていないが、オンライン代理制御はFIT制度における出力制御の一つである。よって、オフライン発電所の発電者による発電計画作成は免除する(つまり一送が計画を作成する)こととした。

課題③に関しては、代理制御調整金算定にあたっては考慮しないことが合意されたが、発電された電気の売電対価の取り扱いについては今後の検討とされた。

以上、一部未定の課題も残っているが、オンライン代理制御システムの導入時期は2022年早期を目指すこととされた。それまでの間で発電事業者への周知をおこない、必要に応じた契約の改定やシステム改修等をおこなう予定である。

(Text:梅田あおば)

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda

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