2021年2月15日、電力広域的運営推進機関(OCCTO)において、第57回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」が開催された。2020年12月から2021年1月にかけて続いた電力需給ひっ迫について、経済産業省だけではなく、OCCTOでの検証も行われている。実際に電力供給の運用を担い指示する立場からは、どのようなことが見えてくるのだろうか。
審議会ウィークリートピック
今冬(2020年度)の全国的な電力需給逼迫やそれに伴うスポット価格高騰に関しては、資源エネルギー庁や電力・ガス取引監視等委員会が調査をおこない中間報告がなされているところである。電力の広域的運用を司る電力広域的運営推進機関(OCCTO、以下、広域機関)からも、「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」において、中間報告がなされた。
今冬に発生した事象やそれに対して広域機関がおこなった対応、およびそれによって得られた効果、今後の検討課題について以下ご報告したい。
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今冬は12月後半から1月前半の日平均気温は平年よりも約1~5度低めになったことにより、電力需要は増大した。
今冬の全国9エリア(沖縄を除く)合計の最大需要実績は1月8日の15,498万kWであり、これは至近5ヶ年(2016~2020年度)の冬季で最も高い需要となった。また日電力量実績の最大値の約33億kWhは、至近5ヶ年で2番目に高い数値であった。
表1.至近5カ年の9エリア計の最大需要・最大日電力量実績
年度 | 月日 | 9エリア計最大需要 | 9エリア計最大日電力量 |
2016 | 1月24日(火) | 14,819 万kW | 31.34 億kWh |
2017 | 1月25日(木) | 15,483 万kW | 32.88 億kWh |
2018 | 1月10日(木) | 14,522 万kW | 30.67 億kWh |
2019 | 2月7日(金) | 14,517 万kW | 30.18 億kWh |
2020 | 1月8日(金) | 15,498 万kW | 32.74 億kWh |
出所:調整力及び需給バランス評価等に関する委員会に基づき筆者作成
今冬の実績として、日電力と日平均気温の気温感応度は68GWh/℃(6,800万kWh/℃)と推定されていることから、需要は1日あたり約70GWh~340GWh程度高い傾向であったと考えられる。
夏季の電力需要は、1日のピーク需要(kW)が大きいものの夜間需要は小さくなるため、1日の電力量(kWh)は比較的少なくなるが、冬季は1日の中でのピーク需要(kW)とオフピーク需要の差が小さいため、需要の総量(kWh)が多くなるという特徴がある。
需要の増加のほかに、複数の石炭火力発電所において設備トラブルによる計画外停止が発生したことが特にLNG消費を早めることとなった。
すでに別稿【2021年1月のスポット価格高騰、その原因調査すすむ 中間報告を読む 第55回「制度設計専門会合」】でお伝えしたように、今冬LNG発電所は、LNGが枯渇することを防ぐため燃料の消費を抑制する、つまり出力を抑制した稼働計画とせざるを得ず、燃料制約による供給力の減少が発生した。
このことにより、設備容量(kW)自体が不足していたわけではないにも関わらず、発電量(kWh)の不足が長期間にわたって発生した。
特定のエリアで需給逼迫が発生した際、広域機関は一般送配電事業者に対して、需給状況改善のためにエリア間で送電・受電をおこなうよう指示(融通指示)を発出してきたが、従来、その指示回数は年間で数回程度と少数であった。
ところが今冬はその融通指示回数は合計218回となり、桁違いの回数・頻度で融通指示が発出された。融通量は合計で約3.1億kWhにも及んだ。
図1.今冬の融通指示回数(日別)
出所:調整力及び需給バランス評価等に関する委員会
表2.受電エリア別 融通指示の回数
東北 | 東京 | 中部 | 北陸 | 関西 | 中国 | 四国 | 九州 | 全体 |
1回 | 9回 | 1回 | 22回 | 94回 | 42回 | 25回 | 24回 | 218回 |
出所:広域機関
今冬は、①不足エリアが複数に及んだこと、②1日の中で供給力不足が長時間に及んだこと、③他エリアの余剰供給力も十分ではないなど複数の要因が重なり、一日の中でも受電エリアと送電エリアが時間帯により入れ替わるなど、複雑かつきめ細やかな融通指示が実施された。
このことが1日の中で数十回もの融通指示が発出され、合計218回にもなった一因である。
従来の融通指示は、比較的短時間の供給力(kW)不足を補うために発出されてきたが、今冬はkWh不足に対応するための融通指示が大半であった。例えば今冬の最大需要となった1月8日には、kW融通受電は1エリアのみであったのに対して、kWh融通受電は5エリアで指示された。
表3.1月8日の融通指示分類
目的 | 受電エリア | 融通量 | |
kW融通 | 供給力確保 | 1エリア(中国) | 40万kWh |
kWh融通 | 揚水ポンプ原資 | 5エリア(東京、北陸、関西、中国、九州) | 3,460万kWh |
揚水発電抑制 | |||
燃料消費抑制 |
出所:調整力及び需給バランス評価等に関する委員会
巨大な電力貯蔵装置である揚水発電は、今冬の融通指示において大いに活用された。
揚水発電所で発電するには、計画的にあらかじめ水を汲み上げておく必要があり、汲み上げる(揚水する・ポンプアップする)タイミングが重要である。このタイミングを判断するには、電力量不足エリア・余裕のあるエリアの発電機の余力、燃料在庫状況などの情報が不可欠である。
今冬は、相対的に需要が少ない夜間帯に不足エリアに対して融通を行うことにより、不足エリアの揚水発電所で汲み上げをおこなった。翌日にその水を落として発電することにより、当該不足エリアの燃料を節約することが可能となった。
また地域間連系線の送電容量には上限があるため、必要なタイミングで必要な電力量を送電できるとは限らないが、不足が見込まれるエリアに向けて連系線混雑時を避けてあらかじめ送電することで、不足エリアは汲み上げ・蓄電することが可能となる。これにより、地域間連系線の運用を平準化し、エリア間融通量kWhを最大化することが出来る。
またこれは実質的に、燃料そのものを融通・輸送することの代替として効果があった。
ただし今冬の場合、揚水発電活用による地域間連系線の効率的運用だけでは十分ではなく、連系線の運用容量そのものの拡大措置も緊急的に実施された。
平常時の地域間連系線の最大運用容量は、長期的・安全に連系線を使用する観点から設定されている。今冬は連系線の空き容量不足により、必要な電力量を送電することができず需給が悪化するおそれがあったため、緊急措置として一時的に連系線の運用容量を拡大した。
具体的には、中部関西間連系線(三重東近江線)(順方向:中部→関西)を平常時には103万kWであるところ、延べ6回、一時的に運用容量を拡大した。
この緊急措置による効果は、約5,600万kWhと推計されている。
表4.連系線の運用容量拡大による効果
日付 | 拡大後の運用容量 | 融通実績(中部以東送電分) | 効果(停電回避量) |
1月8日 | 最大133万kW | 3000万kWh | 610万kWh |
1月9日 | 平均107万kW | 2500万kWh | 580万kWh |
1月10日 | 平均106万kW | 1950万kWh | 780万kWh |
1月11日 | 平均106万kW | 2500万kWh | 1180万kWh |
1月12日 | 平均111万kW | 2100万kWh | 530万kWh |
1月13日 | 平均115万kW | 4300万kWh | 1940万kWh |
合計 | 約5600万kWh |
出所:調整力及び需給バランス評価等に関する委員会に基づき筆者作成
さらなる供給力不足対策として広域機関は、非調整電源を保有する発電事業者や小売電気事業者に対して、電気事業法の規定に基づき、焚き増し指示を発出した。これにより、JEPX供出量は最大1,800万kWh/日程度が増加したと推計されている。
図2.焚き増し指示による非調整電源効果量
出所:調整力及び需給バランス評価等に関する委員会
また広域機関だけではなく各エリアの一般送配電事業者からも自家発事業者に対して、発電余力の焚き増しを要請したことにより、最大約1,400万kWh/日の供給力増加の効果があったと推計されている。
図3.自家発焚き増しによる増発電力量
出所:調整力及び需給バランス評価等に関する委員会
一部の送配電事業者は、台風などの災害時に用いる高圧発電機車(数百kW程度)を複数運転するなどして供給力の上積みを図ったが、これ以上の発電側での増加が困難なことから、広域機関はすべての一般送配電事業者に対して、供給電圧調整の実施を依頼した。
例えが適切ではないかもしれないが、電力を少し「薄めて」送り出すような行為である。
「電圧」は電力の品質を測る重要な要素であり、電圧を下げることは、計画停電を回避するための最終手段のようなものである。供給電圧の調整は1月6日から22日まで実施されたが、具体的にどの程度、電圧が調整されたか(品質が悪化したか)具体的な数値は、現時点公開されていない。
広域機関は毎年、『電気の質に関する報告書』を作成・公開しており、全国数千地点で電圧を測定しており、標準電圧からの逸脱の有無を確認している。他方、この措置により最大約1,800万kWh/日の供給力増加の効果があったと推計されている。
図4.供給電圧調整による効果量
出所:調整力及び需給バランス評価等に関する委員会
広域機関は猛暑・厳寒等による需給逼迫に備え、毎年定期的に夏季・冬季の開始前に全国的な電力需給を評価し、報告書を作成・公表している。
ところが従来は主に供給力kWの観点で需給バランスが評価されており、電力量kWhの観点での検証は不十分な状態であった。
今冬の経験を踏まえ、今後は全国的な燃料確保状況も含めたkWhでの検証をおこなったうえで、検証から実需要期まで継続的にモニタリングをおこなう方向性が示されている。
また単にモニタリングをおこなうだけでなく、制度的な措置として、電源Ⅰ´を拡充することや容量市場のリクワイアメントの見直し、発電事業者が燃料在庫を確保する取り組みに向けた制度的な措置の是非などについて、検討を開始する予定である。
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