2019年9月20日。世界中で行われるグローバル気候ストライキの当日。東京・青山、渋谷周辺で、東京でのイベント「グローバル気候マーチ」が行われた。日本ではストライキやデモという言葉をあえて使わず、マーチという言葉になっている。
このグローバル気候ストライキ(マーチ)は、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんがはじめた「学校のための気候ストライキ」「FridaysForFuture」のグローバル版で、今回で3回目になる。
日本での開催は2回目。北海道から沖縄まで、20を超える日本各地でイベントが開催された。
東京ではFridaysForFuture Tokyoという都内大学生が中心の団体が主催。同団体はマーチに先立ち9月13日には東京都議会に「気候変動に対する非常事態宣言を求める請願」を提出している。
熱気溢れた当日の様子をレポートする。
16:40 国連大学前にやってくる緑色の人々
東京・青山にある国連大学は無彩色のビルだ。そこに、緑色の人たちが集まってきた。東京でのマーチ参加者は、なにか緑のものを身につけてくるドレスコードがあるからだ。
集まってくるのは若い人たちが多い。高校生のグループがいる。欧米とは違い、学校を休まずとも参加できるようにとの配慮から、日本では夕方からの開催になっている。国連大学前がどんどん緑で埋まってくる。
国連大学ビル前に集まる人々
グループで参加している高校生
フェイスペインティングしている人も
17:10 コールが始まる。「What do you want? Climate Justice!」
中学生、高校生から大学生を中心に、国連大学前は人でいっぱいだ。小学生や社会人もそこかしこにいる。同じ学校から来たというグループは、環境への想いを込めた自作の歌を歌っている。
3月に行われた日本で2回目のグローバル気候マーチでは、東京での参加者が10人だった。今夜は、もう1,000人はいるだろうか。
マーチの前に、コールが始まる。「何が欲しい?」「気候正義(Climate Justice)!」「いつ欲しい?」「今!」これは世界中ほぼ同じ呼びかけで、ベルリンでもニューヨークでも、アフリカでもインドでも同じ呼びかけをしている。
気候正義という言葉はこの1年ほどで急速に広まってきた。いままでの気候変動から、気候危機、そして気候正義を求める声が世界中で上がっている。
肩車されて喜ぶ少年
17:30 マーチが出発。
ゆっくりとマーチが進み始めた。イエーイ、Hoo!と鼓舞する声が上がる。
先頭は手作りの旗を持った学生たちだ。旗には「Climate Revolution / Stop Pollution」と書かれている。「気候革命 / 汚染を止めろ」の意味だ。気候革命とは聞き慣れない言葉だが、イギリスのファッションデザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッドが提唱している言葉だ(もちろんヴィヴィアンもイギリスのグローバル気候ストライキに参加した)*。英語のプラカードが多いのは国連へのアピールか。
もちろん日本語でも「地球はみんなのシェアハウス」「石炭火力止めて地球へのおもてなし」など、工夫を凝らしたプラカードをみんな持っている。
声を上げて国道246を北上し、表参道を原宿方面へ曲がる。表参道ヒルズを右手に、マーチは進んでいく。ここは世界でも有数のファッショナブルな通りだ。そこに、手作りのプラカードを持ち、緑色した集団が声を上げて気候のためにマーチしている。
原宿のキディランド手前の歩道橋から、マーチを見ている数人が参加者の写真を撮り、手を振っている。あたりはだんだん暗くなってきている。
18:10 渋谷スクランブル交差点
マーチは世界中でも有名な、渋谷スクランブル交差点(ハチ公前)に差し掛かった。巨大な電光掲示板と喧騒の中をマーチは進んでいく。
今の先頭にいる高校3年生は顔を青く塗り、地球の着ぐるみ姿だ。その彼がマイクで声をあげている。
「What do you want? Climate Justice!」
信号待ちの人が何事かと通り過ぎる集団を見守っている。
渋谷駅前・スクランブル交差点
宮益坂を国連大学方面へ
18:30 国連大学前に戻る
約3.2kmの行程を終え、マーチの参加者が国連大学に帰ってきた。辺りはすっかり暗くなっている。戻ってからも、参加者の熱気は冷めない。そこかしこで声を掛け合い、環境について議論するグループもいる。ハイタッチをする人も。
「僕は環境問題について話せる友達が全然いなかったんですけど、この活動を通してたくさんの仲間ができた。そういう人たちがいっぱいいると思ったから、人々をつなげるような役割がしたくて今日は頑張りました」FridaysForFuture Tokyoスタッフの高校生の言葉だ。
ここには環境について、次の世代について、真剣に考えている人がこんなに集まっている。マーチの参加者は最終的に東京だけで2,800人(主催者発表)。前回の10人から280倍だ。日本全国では5,000人。世界163ヶ国で400万人。
5,000人は少ないか? そうではないだろう。この日行動した5,000人から、この国の環境意識も変わっていく。
参加者の声:国のトップの言動を私達は気にしているよ
松谷陽花さん
高校2年生
きっかけはグレタさんです。彼女の「本当の力は市民にある」という言葉、一人じゃできないこともみんなでやればできる、ってFFFの活動を通して感じています。
(何か取り組みはしている?)
FSCマークに注目しています。そのマークがついているノートが無いのが不満です。そういったマークがついている商品を買っていきたい。
(国連サミットの首脳に何か言いたいことは?)
国のトップの言動を私達は気にしているよ、っていうことに気づいてほしい。
参加者の声:実際の空気感や盛り上がりは想像以上
鶴田さおりさん
会社員(右)
こうした活動があることは知っていましたが、自分では行動に移していませんでした。今回は知人に誘われたので来てみました。
(実際に参加してみてどうだった?)
「(雪山を)滑れない人生なんて」というプラカードが印象に残りましたね。ニュースでは見ていたけれど、実際の空気感や盛り上がりが想像以上でした。海外の方も多く参加していて、世界的なムーブメントになっているんだなと感じました。
自分に何ができるんだろうと向き合うきっかけになったと思います。再エネ関係の仕事なので、仕事をしっかりすることが私の役割なのかなと。
参加者の声:Recycle or die
國仲杏さん
大学1年生(右)
インスタ広告を見たことと、(大学の)環境科学の授業で主催の学生からアナウンスがあり、参加しました。私は沖縄出身ですが、東京では普通にレジ袋をくれるので驚いています。沖縄はサンゴやウミガメもいるし、より身近に温暖化を感じているのかも。
(実際に参加してみて?)
鳥肌が立ちました!一人が行動しても何も変わらないっていうけど、グレタさんがきっかけでこうしてみんな集まり、行動していることに。
(何か取り組みはしている?)
マイボトルを使っています。普段このトートバッグ(Recycle or dieと書かれている)を持ち歩いて、無言の圧力をかけることも(笑)
参加者の声:メリーランドと日本
ワイルマン萌和さん
大学2年生(左)
アメリカのメリーランドに住んでいたのですが、ゴミは分別しないし、買い物に行くとレジ袋を何十枚も渡される。その点では日本の方が進んでいると感じます。一方、こういった活動やデモはアメリカの方が早いですね。日本では”何かが変わった”ということをあまり聞かないですね。悲しいです。
取材を終えて
今回の東京のマーチの参加者は、実に多様だ。ヒジャーブの女性もいれば、ドレッドヘアのお兄さん、制服の女子高生、孫の手を引いたおばあちゃんもいる。海外からの参加者も多い。ポルトガルからたまたま日本旅行中に参加したご夫婦もいた。人種・年代を問わず、同じ目的の為にマーチをする姿は素直に胸を打つ。
マーチから3日後、グレタさんの国連スピーチは激しい怒りがあらわになったものだった。日本の環境大臣のニュースとともに、日本でも大きく報道され、注目が集まっている。日本はG7の中で唯一石炭火力発電を新増設する予定のある国だ。
グレタさんは「このムーブメントは私一人のものではない」「活動に参加してくれるみんなで作っているものだ」と繰り返し言う。そして、グレタさんは一貫して大人に行動を求めている。
東京でのマーチは一見ピースフルで楽しい印象かもしれないが、次世代の怒りが内包されていることを大人は忘れてはならない。
高校生が声を枯らして渋谷で「気候の正義を」と叫んでいるのは、決して楽しいからだけではない。彼らに背中を押されて、次に行動をするのは大人の側だ。
この記事は、EnergyShift編集部がまとめました。