2020年12月4日、スイスに本社を置く資源採掘の世界最大手グレンコアは、2050年カーボンニュートラルを宣言した。石炭採掘事業を生業とし、世界最大の石炭輸出企業である同社も、脱炭素化の波には抗えないのか。資源採掘大手のカーボンニュートラル戦略とはどのようなものなのだろうか。気候変動対策レポート「Pathway to Net Zero」を詳しく紹介する。
グレンコアは、スイス・バールを拠点とする資源採掘の世界最大手だ。世界中で石炭や天然ガスなどの化石資源や、銅、コバルト、ニッケルといった金属資源の採掘を手がけている。2019年には35ヶ国・150ヶ所以上で採掘事業を行い、16万人を超える従業員を有する。
世界最大の石炭採掘事業者であるため、これまでも同社への環境面での風当りは強かった。たとえば機関投資家の集まりである「Climate Action 100+」には、2017年の発足当初からターゲットとしてリストアップされている。
このClimate Action 100+ とは、世界の545の機関投資家が主導するイニシアチブで、グローバル企業に向け、気候変動対策のアクションを促している。その投資総額は52兆ドル(約5,400兆円)を超えるとされ、発言のインパクトも大きい。
ちなみに、2020年月12月17日に発表された2020年の進捗レポートでは、CO2排出量の多い167社がターゲットとされ、日本企業は10社が名を連ねる。対象企業のCO2排出量は、世界の産業部門の約8割にのぼる。
グレンコアはClimate Action 100+と長く対話を続け、カーボンニュートラルへの道を探ってきた。今回の発表はその成果のひとつとして大きな意味を持つ。
そのグレンコアは、12月4日に発表された2020年の気候変動対策レポート「Pathway to Net Zero」において初めて明確に2050年にカーボンニュートラルを目指すと高らかに宣言した。
Gelncore "Pathway to net zero" Climate Report 2020
レポートのプレスリリースは「グレンコアは本日、2050年までにカーボンニュートラル企業となる野心を宣言します(Glencore today announces its ambition to be a net-zero emissions company by 2050)」という書き出しで始まる。
グレンコアはまず、2035年までの中間目標として、2019年比で40%のCO2削減を目指す。その道程は、IEAのエネルギーとCO2排出シナリオを参考に、3つの移行シナリオを用意した。ただし、3つとも目標自体は変わらない。
ネットゼロとなる対象は、スコープ1(事業者の直接排出)、スコープ2(他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出)、スコープ3(それ以外の間接排出)のすべてとなる。
サプライチェーンも含めたスコープ3については、石炭から採掘資源ポートフォリオと投資対象の変更。石炭産出の削減、低炭素技術の開発支援などをおこなうことで目標達成を目指す。
再生可能エネルギー関連では約400MWのPPA契約を検討しており、鉱山内での車両の電動化も進めていく。さらに顧客やサプライチェーンと協力しながら、低炭素金属の利用拡大や技術支援に力を入れるという。
この「Pathway to Net Zero」レポートでは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)ガイドラインに沿い、戦略やガバナンス、リスク管理や指標などに焦点が当てられている。グレンコアのアイバン・グラゼンバーグCEOは「2050年までにカーボンニュートラル企業になるという野心は、パリ協定達成のための世界的な取り組みに貢献する我々のコミットメントを反映している」と述べた。
2017年、グレンコアは前述のClimate Action 100+の要請を受け、初めての気候レポートを発行したが、2020年までにスコープ1とスコープ2の排出量を2016年比で5%削減するという目標設定にとどまった。スコープ3についても「ポートフォリオの見直しによって、CO2排出量も必然的に減少する」という表現にとどまっていた。
同社は2020年2月には、スコープ1、スコープ2の削減は当初の目標の2倍近い約10%で進捗していると発表。一方、スコープ3については依然として「2035年までには、化石資源の枯渇によってスコープ3による排出量は約30%削減される」という消極的なレビューだった。
それだけに、今回の全スコープにおける2050年カーボンニュートラルという目標は、大いに歓迎すべきニュースだといえる。
今回の「Pathway to Net Zero」レポートで協調されたのは、グレンコアが採掘する金属資源が、低炭素社会の実現にどれほど役立っているかという点だ。
例えば、送電網や蓄電池、再エネ発電設備に使用される銅は、全世界の需要22.6Mtのうち1.26Mtをグレンコアがまかなっている。CO2排出削減のいかなるシナリオにおいても、銅やコバルト、アルミニウムやニッケルといった金属資源の需要が一層高まるとも主張している。
Gelncore "Pathway to net zero" Climate Report 2020より「わたしたちの採掘資源が低炭素社会にどれだけ貢献しているか」
一方、石炭採掘に関しては、鉱山を売却する意向はなく、耐用年数を終えるまで今後も生産を続けるという。つまり、グレンコアが炭鉱を売却したとしても、(買い取り先が採掘する限り)CO2排出量は変わらないと主張。自らが責任を持って、石炭ポートフォリオを適切に管理・減少させ、CO2排出量の削減に取り組むとした。ポートフォリオの組み換えとしては、オーストラリアの高品質石炭資産にフォーカスを充てることが示唆されている。
同社の火力石炭事業は全体の収益の5%未満であり、現時点では、中期的なEBITDA(earnings before interest, tax, depreciation, and amortization:税引前利益に特別損益、支払利息、および減価償却費を加算した値)の10~15%の範囲内にある。
レポートを公表した同日、アイバン・グラゼンバーグCEOは2021年前半での退任を発表した、後任には、石炭生産部門出身のゲイリー・ネーグル氏が就く。同社の石炭生産量は世界の約2%を占めることから、その動向が大きく注目される。
このレポートの通りにスコープ3においてもカーボンゼロにしていくということは、当然のことだが、販売した商品からのCO2もゼロにするということを意味する。石炭生産部門出身の新たなCEOとなることでグレンコアの取り組みがどのように変化していくのか、こうした点も注目される。
アイバン・グラゼンバーグ Glencore CEO
参照
Glencore
Glencore Press Release "Climate Report 2020: Pathway to Net Zero" 2020.12.4
Gelncore "Pathway to net zero" Climate Report 2020
Climate Action 100+
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