企業の温室効果ガス排出削減対象は、これまでのスコープ1、スコープ2だけではなく、サプライチェーンや製品のライフサイクルなどを含めたスコープ3にまで広がっている。また、スコープ3での削減が進むことの社会的な意味合いは大きい。こうした中、小売店におけるサプライチェーンでの削減は、今後、大きな課題となってくるだろう。一方で、小規模なサプライヤーは脱炭素に関する調達パワーに欠け、課題が多い。こうした課題に対し、多くの関連サプライヤーを抱える米国のウォルマートは、サプライヤーの削減を支援することを開始した。イオンやセブン&アイなど、日本の小売流通業にとっても刺激となる取組みだといえる。
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スーパーマーケットチェーン世界大手のウォルマートは、日本では西友に出資していることで知られる。今年3月に楽天などに株式を売却したが、今も15%を保有する。
同社は2005年にハリケーンにより、多くの従業員や店舗が甚大な被害を受け、これを機に気候変動や食料資源をはじめとする環境・社会問題を解決すべく、ESG経営に力を入れており、スコープ1(直接排出)とスコープ2(間接排出)の排出量を2040年までにグローバルでゼロとすることを目指している。サプライチェーンを含めたスコープ3については、2030年までにCO2排出量を10億トン(1ギガトン)削減する「Project Gigaton」が進行中だ。
Project Gigatonは、ウォルマートのサプライチェーン全体で2030年までに10億トンのCO2排出量(2015年比)の削減を目指すプロジェクト。スコープ3における脱炭素化の主要な戦略と位置付けられている。2017年4月にスタートした。
プロジェクトの柱は、現在、エネルギー、廃棄物、包装、自然、製品利用の5つのテーマだ(当初は「自然」が「農業」「森林破壊」に分けられており、6テーマだった)。これらのテーマは、ウォルマートが取り扱う商品を横断的にカバーする。
プロジェクト初年度は400社超のサプライヤーが参加し、200社以上が排出削減量を報告。排出削減量はトータルで2,000万トンにのぼった。今年でプロジェクトは5年目になるが、参加企業、報告企業ともに順調に増えている。
2021年7月のウォルマートのESGレポートによれば、2020年には3,100社以上が参加し、そのうち報告を行ったのは1,500社超、排出削減量は4億1,600万トンとなった。10億トンという目標の4割をすでに突破し、プロジェクトは好調のようだ。
Project Gigatonには、商品や原材料の生産、製品利用に関するサプライヤーはもちろん、サプライチェーンの川上・川下のすべてのサプライヤーが参加できる。参加は強制ではなく、参加後の目標設定や排出削減量の報告なども各サプライヤーの自主性にゆだねられる。
参加した全サプライヤーには、専用のポータルサイト「Sustainability Hub」のアカウントが付与される。このポータルサイトでProject Gigatonの目標設定や削減量の集計、報告などを行う。また、削減活動のワークショップに参加したり、必要なリソースにアクセスしたりもできるようになっている。
参加者はこのポータルサイト上で、具体的で、測定可能で、実行可能で、関連性があって、期限付きの目標を設定するよう推奨される。これは英語の頭文字をとって「SMART(Specific, Measurable, Actionable, Relevant and Time-bound)な」目標と呼ばれている。
では、5つのテーマの一つ「エネルギー」は具体的にどのように対応しているのか。
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