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ガスの熱量バンド制検討に関する中間整理 第13回「ガス事業制度検討WG」

ガスの熱量バンド制検討に関する中間整理 第13回「ガス事業制度検討WG」

2020/11/30

審議会ウィークリートピック

エネルギーシステム改革は、電気事業だけではなくガス事業においても進められている。ガス事業制度がどのようになっていくのか、3回に分けて報告する。今回は一般ガス事業(いわゆる都市ガス事業)に関してガス事業制度検討ワーキンググループ(以下、ガス制度WGと呼ぶ)で検討されてきた「熱量バンド制」に関する報告を行いたい。なお、本稿では特に言及しない限り、ガスとは一般ガスを意味する。

現在の「標準熱量制」と熱量調整

現在日本では、ガスの供給条件として単位体積当たりの熱量の標準値(毎月の算術平均値の最低値)を定め、熱量の変動を制限する「標準熱量制」によりガスを供給している。裏返せば、供給段階での熱量を一定に維持するため、導管に注入する段階でガスの熱量を一定に維持している。

標準熱量制により、以下のような需要家メリットを確保することで、ガス利用の普及・高度化が進められてきた。

例えば東京ガスの一般ガス供給約款(東京地区等)においては、13Aとよばれる規格のガスが供給されており、標準熱量が45MJ(メガジュール)、最低熱量が44MJと定められている。

日本はガスの大半をLNG(液化天然ガス)のかたちで輸入しているが、LNGそのものは産地により熱量が異なるため、LNGにLPG(液化石油ガス)を添加するなどして、熱量を調整する必要がある。これを熱量調整(以下、熱調)と呼ぶ。熱調には大規模な熱調設備が必要であるため、この建設運営費用もしくは委託費用が発生し、LPG自体の費用と合わせると、熱調を行わない「生ガス」と比較すれば、一定のコストアップ要因となるほか、ガス小売事業への新規参入障壁の一つともなっている。

これに対して諸外国では、一定の範囲(バンド)内の熱量で都市ガスを供給することができる(ガス導管への注入を認める)「熱量バンド制」が導入されている。日本が熱量バンド制に移行すれば、コストダウンの可能性、新規参入促進の効果が期待されている。

ただし、熱量バンド制への移行により供給されるガスの熱量が変動することは、上記①~③のメリットを一定程度損ねることになるため、制度移行によるメリット/デメリット、費用対効果をしっかり見極める必要がある。

また2018年の第3次規制改革実施計画では、「現行の標準熱量制から熱量バンド制への移行について、諸外国における都市ガスの供給状況等を踏まえて検討し、結論を得る」(2019年度中間整理、2020年度に結論)とされている。

熱量バンド制への移行の調査・検討

ガス制度WGでは、主に①ガス機器の利便性・需要家の実質的費用の観点、②安全性への影響の観点、③公平な料金収受のための初期コスト・運用コストの観点から検討がなされた。

①の利便性等の観点では、以下が挙げられた。

  • 熱量変動の変動幅変化速度によっては、機器の出力低下やNOx排出量の増加等の影響が発生する。
  • 業務用・工業用のガス機器では、使用自体が困難になることや、ガス需要家自身で個別に自社内(オンサイト)で熱量調整を行う必要が生じる場合もある(※スペースの都合上、当該設備が設置できない需要家も存在すると考えられる)。
  • ガス機器自体は使用可能であっても、悪影響を低減するための初期費用や、機器の効率性低下により、ガス需要家側に実質的な運用コストが生じることも考えられる。

②の安全性の観点では、一酸化炭素(CO)の発生によるCO中毒が懸念されている。

③の小売料金の観点では下記が懸念されている。

  • 現在の標準熱量制では単純な流量計でよいところ、熱量課金とした場合、「熱量計」の設置等の追加コストが生じる。
  • 熱量計の設置数、設置場所によっては、正確な熱量と誤差が生じ、小売料金算定に誤差が生じる可能性がある。
  • 体積課金から熱量課金への変更に伴うシステム改修コストが発生する。

熱量バンド制による影響が見込まれるガス機器の例

熱量バンド制に関する機器調査への影響調査報告

ガス制度WGでは、熱量バンド制に移行した場合の燃焼機器(ガスエンジン・工業炉・空調機・業務用燃焼機器・家庭用燃焼機器・燃料電池)への安全面・性能面等の影響、影響のある燃焼機器の対応策の検討等を実施するため、

① 43~45MJ/m3(中央値±2%)、② 42~46MJ/m3(中央値±5%)、③ 40~46MJ/m3(中央値±7%)の3種類のバンド幅での影響を調査した。

ガス機器の熱量変動による影響を「性能」「安全性」「製品品質」の視点にて評価したものが表1である。40~46MJのようにバンド幅が大きい場合に、「影響あり」との結果が大きくなっている。

表1.熱量変動によるガス機器への影響

例えばガスエンジンの場合、±5%と±7%では大半のガスエンジンにおいて影響が出るという結果になった。

今後新しく導入される製品に対しては、新技術の開発により対策可能であるが、数年の開発期間と開発費が必要となる。また、既設製品への対策としては、型式の古いエンジンを除いて、部品交換や機器追加、制御変更により対策は可能と考えられる。

熱量バンド制の効果

では、熱量バンド制への移行により、どのような要因でどの程度の効果が期待できるだろうか。
まずは増熱材としてのLPGの添加コストが低減すると考えられる。LPG価格を直近5年平均とするなどの仮定を置くと、バンド幅40~46MJ/m3の場合、年間45億円程度の効果が得られると試算された。

またLNGそのものも、一層の調達多角化が可能となり調達価格自体の低減と供給安定性の向上が期待されるが、このガス制度WGではこの効果の金銭的評価は試算されていない。

未熱調ガスも一般のガス導管に注入できるようになれば、主に未熱調ガスを扱う電力会社とガス会社の導管を相互に接続することにより安定供給の向上や、LNG基地と導管網の接続による競争活性化が期待される。しかしこれらについても現時点では定量的評価が難しいとして、金銭的評価は試算されていない。

さらに将来的には、バイオガスや水素等をガス導管に注入することも想定されるが、熱量バンド制への移行は、標準熱量制を維持した場合と比べると水素等の受け入れ可能性が高まると考えられる。

熱量バンド制移行に伴うコスト

上述のガスエンジンの例のように、熱量バンド制移行に伴い、機器側での対策コストやガス需要家側オンサイト熱調設備の設置コストが発生すると考えられる。

これはバンド幅40~46MJ/m3の場合、総額で約5.4兆円と試算された。

これらはほぼ機器だけの費用であるが、この他に熱量変更対応に要する人件費、需要家への周知コスト等が発生すると考えられる。具体的な金額は試算されていない。

また熱量バンド制移行に伴い、従来の「体積課金」から「熱量課金」に移行する場合、個々の需要家すべてに熱量計を設置することは費用面から現実的ではない。よって高中圧ガバナ・高圧需要家に限って(計349ヶ所)、熱量計・流量計を設置すると仮定した場合、初期費用は971億円と試算された。

ガスの体積当たり熱量の低下に伴い、これまでと同等の総熱量を供給するために送出するガスの体積が増えることから、ガス製造設備や導管設備の増強・新設が必要となる。また、体積課金から熱量課金とした場合、料金システムの改修も発生する。ガス会社側でのこれらの対応費用はバンド幅40~46MJ/m3の場合、総額で約1,294億円と試算された。

以上より、バンド幅を大きくする場合、効果に比べてコストが大きく超過する、つまり現時点では経済性が無いことが明らかとなった。ただし、バンド幅が小さい場合には対策コストを小さくできる可能性がある。

よって、ガス制度WGでは今後、現行の標準熱量制と比較しつつ、標準熱量の引き下げ案(44MJ/m3等)、および小さいバンド幅案(44~46MJ/m3、43~45MJ/m3)の計3つの選択肢について優先的に取り上げ、具体的な制度設計の検討を進めながら、引き続き検討を行うこととされた。

気候変動対策として迅速な脱炭素化が求められており、ガス体エネルギーの脱炭素化にはバイオガスや水素等の導入が有力な候補となると考えられる。しかしながらバイオガスや水素は相対的に熱量の小さなガスである。

ガス制度WG熱量バンド制の検討に関する中間整理では、標準熱量を大きく引き下げることやバンド幅を大きく許容することは費用対効果の面で困難であることが示された。

ガス導管等を通じた一般ガス事業として、大幅かつ迅速な脱炭素化をどのように進めるのか、今後も注視したい。

(Text:梅田あおば)

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda

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