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サステナブルな社会を読者とともにつくる 『VOGUE JAPAN』とVOGUE CHANGE

サステナブルな社会を読者とともにつくる 『VOGUE JAPAN』とVOGUE CHANGE

EnergyShift編集部
2020/06/08

世界的なファッション雑誌であるVOGUEとその日本エディション『VOGUE JAPAN』は、サステナブルに変化している。日本では新たにVOGUE CHANGEというプロジェクトが生まれ、その取り組みには一過性の流行ではない本気が見える。サステナブルに変わるファッション業界と、『VOGUE JAPAN』について紹介する。

VOGUE VALUES

2020年3月、書店に並んでいた『VOGUE JAPAN』3月号は今までと少し様子が違った。最新のモードファッションに身を包んだモデルたちとともに載ったコピーは、「ALL NATURAL あなたと自然と、その未来」。
編集長の巻頭言には「サステナビリティはクリエイティビティ」と書かれ、ステラ・マッカートニーのインタビューや北欧のサステナブルスタイルなど、一号ほぼ丸ごとがサステナブル特集だった。

その号の中に、全世界のVOGUEが採択した「VOGUE VALUES」という宣言が印象的な見開きで掲載されている。

『VOGUEは約束します。(略)私たちは、希望を絶やすことなく未来を見つめ、常にグローバルなヴィジョンをもって、あらゆる文化を讚え、未来の世代のために地球環境を守り残すために活動していくことを約束します。そして、世界の『VOGUE』全26エディションが手を携え、多様性と責任感、そして尊敬をもって、あらゆる人々、コミュニティー、そして自然環境のために向き合うことを表明します。 VOGUE編集長一同』

古い歴史を持ち、世界一ファッション業界に影響を持つファッション雑誌が、なぜ地球環境、自然環境についての宣言をいま、打ち出したのだろうか。

VOGUE JAPAN 2020年3月号に掲載されたVOGUE VALUES

2019年はファッションのサステナブル元年

「2019年はファッション業界がサステナビリティ向上のために本腰を入れて取り組み始めたという意味で、『サステナビリティ元年』だったと思います」。『VOGUE JAPAN』エグゼクティブ・デジタル・エディターの名古摩耶氏はこう語る。

「ファッション業界は他の産業に比べて、サステナビリティに対する取り組みがかなり遅れていました。サプライチェーンはあまりに複雑で完全にブラックボックス状態。それを透明化していこうという試みが加速した年でした」。

例えばそのライフサイクルの環境負荷をCO2排出量に換算した場合、靴だけで世界の総排出量の1.4%、アパレルでは6.7%、合計でおよそ8%・39億トンのCO2排出量に相当するという。これは運輸産業がもたらすCO2排出量よりも多い。生地(テキスタイル)の生産だけで12億トンのCO2排出量換算になるという調査もある。

ファッション業界は今まで、こうした負の側面に対して全く対策をしてこなかったのか。決してそうではない、と名古氏は言う。

「ファッションのサステナビリティを求める消費者の声は、これまでも草の根のレベルではあったと思います。2002年ごろにあったロハスブームもその一つかもしれませんが、より倫理的な消費を心がけようとする動きは徐々に醸成されていました。例えばステラ・マッカートニーのように、こうした市場の声に呼応するようにいち早く行動に移し、ものづくりのあり方を根幹から変革していったブランドもありますが、それがより大きな動きとして可視化されたのが2019年だと思います」。

近年のイノベーションがもたらした、飛躍的にクオリティが向上した代替素材(人工皮革やフェイクファー、人工繊維など)や、ESG投資の動きも多いに後押ししていると言う。「SDGsに真剣に取り組んでいない企業は投資対象にならないというように、企業側も自らの存続をかけて変わらざるを得なかったという面もあると思います」(名古氏)。

ステラ・マッカートニーの「ループスニーカー」は再生ポリエステル100%でバージンポリエステルに比べ使用エネルギーが最大50%少ない。

世界的なデザイナー、ジョン・ガリアーノは2020年5月6日のwebイベント「VOGUE GLOBAL CONVERSATIONS」で、こう語った。「これまでも、時代に合った表現を常に追求してきた。(新コレクションの)レチクラはまさに、昨今のサステナビリティへの関心の高まりから生まれたラインだ。高品質レザーの端切れを使ったオーダーメイド・アクセサリーのコレクションもそう。社会課題に向き合うことで、デザイナーだけでなく商品企画やマーケティング、コマーシャルなどのチームもよりクリエイティブになっている。すばらしいことだよ」。

2018年12月、ファッション業界はCOP24の開催に合わせて「ファッション業界気候行動憲章」を発表した。国連と緊密に連携し、パリ協定の実現に向けて業界全体で取り組む提言であり、合意書だ。

また、グッチやサンローランなどを擁するケリンググループは「ファッション協定」を2019年8月のG7に合わせて発表。シャネル、エルメス、H&Mなど、現在は56社が署名している。この協定ではパリ協定に基づき、業界全体として温暖化対策を行い、GHGによる気温上昇を1.5℃未満に抑えるとしている。

ファッション業界気候行動憲章を伝える国連のビデオより PUMA CEOのSTEFAN SEIDEL氏

2019年9月 パリのホテルに 世界中のVOGUE編集長が集まった

ファッション業界の動きと連動するように、VOGUEもメディアとして何ができるのかを模索していた。ファッション業界と同じように、VOGUEもなにもしていなかったわけではない。コンデナスト・スペインは2007年に早くもカーボンフットプリントプログラムを導入。数値目標を定め、カーボンオフセットに取り組んでいた。2018年にはオーストラリア版VOGUEで、2019年にはドイツ版を含む多くのVOGUEで、サステナビリティを特集した。

日本でも2019年2月号や11月号で、サステナブルファッションを特集している。特に11月号では「世界を変える力とは」という特集で社会の変化と活動家をとりあげ、その中の一人には環境活動家であるグレタ・トゥーンベリ氏も登場する(UK版の9月号でトゥーンベリ氏は表紙になっている)。
そうしたひとつひとつの動きが、VOGUE全体として取り組もうという機運に繋がっていく。

2019年9月末、パリのホテルで世界26エディションのVOGUEの編集長が一堂に会し、協議が行われた。ファッション業界のよりよい変化を推進する上で、VOGUEの価値とは何か、役割とは何か。アメリカ版VOGUEの編集長、アナ・ウィンターの呼びかけで行われたこの会合で採択されたのが、冒頭に紹介した「VOGUE VALUES」宣言の作成だった。

名古氏はその目的についてこう語る。
「ファッション業界気候行動憲章が示すように、従来のままだとファッション業界全体が持続可能なビジネスではなくなるだろう、変わっていかなければいけないという意識が業界を大きく動かしました。それを受けて、ファッションメディアとしてより責任のある情報を発信しつつ、私たち自身も学びながら変わっていこうという世界共通の目標ができました。それがVOGUE VALUESという宣言につながったのだと思います」。

VOGUE VALUESは同年12月に正式リリースされたが、その直前の11月にもうひとつ、大きな動きがあった。前述の「ファッション業界気候行動憲章」に、VOGUE発行元のコンデナストが署名したのだ。これはメディア企業としてはじめての同憲章への署名であり、国連気候変動枠組条約事務局長パトリシア・エスピノーザ氏は歓迎のコメントを寄せた。

コンデナスト・グローバルCOO兼コンデナスト・インターナショナル・プレジデント、ウルフギャング・ブラウ氏は語る。「ファッションは、常に社会の大きな変化を反映し、文化的言説の一部であり続けてきました。私たちは、世界最大のファッション誌の出版社として、こうした前向きな努力を支援するために最善を尽くします」。

コンデナスト・グローバルCOO兼コンデナスト・インターナショナル・プレジデント、ウルフギャング・ブラウ氏。Photo: Darren Gerrish

日本でのVOGUE VALUESは、「CHANGE」として発信

ファッション業界のサステナブルへの変化、それを受けての世界のVOGUE VALUES宣言。

では日本で、そのVOGUE VALUESを具現化するときに、何をすべきか。日本と世界ではさまざまな意識、環境も違う。サステナビリティという言葉ひとつとっても、読者のリテラシーは大きく違う。実際、世界中で独自の意識調査をしたところ、日本は台湾、中国、ロシアと並んで、サステナビリティに対する認知度が低かったという。

そこで、サステナビリティという課題を「オープンな場」で読者とともに考えていくことがよいのではないか。日本独自プロジェクト「VOGUE CHANGE」はそのような発想からはじまった。

VOGUE CHANGEティザーサイト

VOGUE JAPANのウェブサイトに新設された「CHANGE」セクション、そして「CHANGE」単独のTwitterアカウントを通じて、環境問題やダイバーシティ&インクルージョンなど、持続可能性をテーマにしたコンテンツ群を展開する。

「持続可能な社会を実現するためには、いわゆる環境問題の改善だけではなく、私たちが生きる社会そのもののあり方を見つめ直すことが必要だと思います。CHAGNEの中には大きく3つのテーマがあります。サステナビリティ(環境問題)、ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包括)、そして、ワーク&ライフです。ワーク&ライフでは、持続可能のための働き方であるとか、お金との向き合い方なども取り上げています」と名古氏は語る。

たしかに、サステナビリティとは環境問題だけを指すものではない。サステナブルとは目的であり、環境問題対策はそのための手段のひとつである。サステナブルという目的のためにはCO2対策「だけ」ではないということだ。では、VOGUE CHANGEではどのような記事が読まれているのだろうか。

「ジェンダーダイバーシティやセクシュアルウェルネスを扱った記事が多く読まれている実感があります。日本ではまだこうしたテーマの記事が少ないからなのか、高い関心を寄せられていると感じています。サステナビリティについては身近で気軽に読めるような記事の方が、自分の生活に取り入れてみようと思うのか、よく読まれているようです」と、デジタル・エディターの大庭美菜氏は語る。

3月30日のローンチからまだ2ヶ月ほどだが、各記事は他の記事に比べ滞在時間が長いなど、既に手応えはあるようだ。既存のVOGUE読者に加えて、VOGUEが今までやっていなかったコンテンツを展開しているという意外性で新たな読者も集まっているという。

日本では、読者と共有できる広場をつくる

VOGUE CHANGEでは海外事例を紹介するだけではなく、日本の環境を考えたコンテンツづくりがなされている。前述の通り、テーマによっては読者の知識量が比較的多くないという前提で「一緒に考えていこう」という姿勢を大切にしている。

例えば、ダイバーシティを取り上げるにしても、日本や東アジアは、(基本的には)シングル・エスニティック・グループ(単一の民族)であるため、欧米のように多様な人種が共に生活している環境とは「多様性」という言葉が与える印象が違う。日本社会独自の文化・環境の中で、ダイバーシティなり、サステナブルなりを、日常の視点でともに考えていく。

「これはグラスルーツ(草の根)の運動だと思うんです。莫大なマーケティング予算をかけて啓蒙するというよりも、根幹で共感してもらえなければ意味がない。ですから、なにかを教えてあげる、という姿勢ではなくて、こんなことってあるよね、という読者視点を尊重した記事作りを肝に銘じています」(名古氏)。
「例えば日本社会では人称代名詞についてもまだ知られていないことが多い。海外では初対面の人に、あなたの代名詞はなんですか、と聞くのが礼儀になってきています。s/heの言い方ひとつでも読者とともになんどでも考えていきたい」(大庭氏)。なによりも読者とともに考える「場」であることを非常に大事にしているのだ。

日本社会の問題を取り上げる際には、行政に疑問を持つことも多いというが、「直接オーディエンスと繋がることができるという強みを生かして、仲間をどんどん増やしていきたい。それが解決のスピードを上げるうえでも、一番大事なことではないかと思います」(名古氏)。

VOGUE CHANGEウェブサイト エシカルと選択的夫婦別姓の記事が並ぶ。

VOGUEが変わるのか、読者が変わるのか

このような変化はファッション業界からの影響だけでなく、読者も自ら変わってきているのをVOGUEでは感じている。「特に若い世代は、自分の消費行動が与える環境負荷についての知識も豊富ですし、人権問題にも感度が高い。むしろ業界にいる私たちが、読者の変化に追いついたのかもしれないと感じることもあります」と名古氏は語る。

ファッションブランドやメーカーも、ビジネス的な観点からサステナビリティをマーケティングに活用しようと意識している面もあるのだという。
「それは決して悪い意味ではないんです。実際に向き合わなくてはいけない巨大な環境問題に対して、自分たちのアティテュード(姿勢)を明確にする方がマーケティングにも効くし、相乗効果もある。もちろん一方ではグリーンウォッシュの問題もあるので、それを見抜ける目を養うという意味でも、私たちの情報発信には責任が伴います」(名古氏)。

この「読者とともに考える」姿勢はエネルギー問題を取り上げる時にも一貫している。

エネルギーという言葉からは「産業」が連想されがちだが、それをより消費者の立場から捉えることで、読者にも関心を持ってもらうことができれば、より大きなニーズに繋がる可能性があるという。

「プロダクト、サービスとして、ユーザー目線で取り上げた上で、例えば実際に再生可能エネルギーがつくられている現場を紹介するなどです。電力業界ではこんなサステナブルなイノベーションが起きているんだ! といってしまうと、読者にとって遠い話になる懸念もありますし、説教臭く聞こえる可能性も(笑)。あくまで読者がアクセスできるサービスであり、プロダクトのひとつだということを踏まえて、ではその背景は、という伝え方を心がけたいと思っています」(名古氏)。

新型コロナウイルスはファッション業界をも変えていく

新型コロナウイルスの影響はファッション業界にも大いにあるが、この影響はサステナブルに強く結びついている。今回の危機で、さらにアグレッシブにサステナブルを推進していこうという機運が高まっているのだ。

「ファッション業界はとにかくスピードが速い。一年の中で大きなコレクションが春夏、秋冬とある。それ以外にもさまざまなコレクションがあるんです。デザイナーも生産を請け負う工場も年がら年中異常なスピードでものを作っている状態。誰もがほんとうにこれでいいのか、このままやっていけるのか、疑念を持っていた。デザイナーの立場で言うとクリエイティブな時間が持てない。工場側も膨大な数の受注を一気に請け負って、それが劣悪な労働環境にも繋がり、深刻な問題になっていた。それを強制停止したのがコロナです。その停止した状況で、今までみんなの中に渦巻いていた声にならない不安が一気に表面化したのかもしれません」と名古氏は語る。

ファッション産業全体がスローダウンしないと業界が持たないのではないか、それこそ持続可能ではない状態だということが今、大きな議論になっているというのだ。今まで自分たちがやってきたモノづくりの方法ではもはや持続可能ではないと考える関係者は多いようだ。

「業界サイクルのペースも議論されるべきですし、それは地球環境の改善にも繋がると。単に流通や人の移動など、個別の問題ではなく、すべてがつながっているわけなので、ファッション業界は地球に対してどのように責任を取っていくのかという、より大きな議論になればいいなと思います」(名古氏)。

VOGUEは、サステナブルにも、オプティミスティック且つポジティブに立ち向かう

サステナブル元年を経た後、コロナでさらにサステナブルな動きが加速する。日本の読者はこの変化を受け止めていくのだろう。

名古氏には現在17歳の娘がいるが、若い世代には多いに期待しているという。「今の若い人たちはかなりクレバーに生きていると思っています。非常に心強い。VOGUEも彼ら・彼女らと絆を築いていくこと、コミュニケーションを取っていくことが大事だと思っています」(名古氏)。

「私はいま30歳ですが、私が環境問題の記事を書くとフィードバックをもらえる友人が多いんです。思っていた以上に皆さん意識を持っている。ファッションを導入として環境問題や社会問題を考えるのは非常に重要なポイントだと思います」(大庭氏)。

「VOGUEは歴史的に「美しい」ものを読者と共有してきたメディアだ。だからこそ、読者とコミュニケーションを取るときに、なによりも大事にしていることがある」と名古氏は言う。それは、社会問題を扱うとき、否定の議論になりがちだがそれを避けることだ。〜をしてはいけない、例えば、消費しすぎてはいけない、という論調にならないことだ。

VOGUEは、あくまで今ある文化を肯定し、さらにより良く発展させていくために何ができるかを考え、提案していきたいという。

「VOGUEはオプティミスティック、且つポジティブな視点で情報を発信していきたい。これは渡辺(三津子編集長)も大切にしている視点です。なので、問題を悲観的に伝えるのではなく、それをいかにポジティブに解決していくことができるのかという問題提起ができるよう、これからも発信が続けていけたらいいなと思っています」(名古氏)。

VOGUE CHANGEの「オプティミスティックな」チャレンジで、人々のサステナブルな意識はよりポジティブに変わっていくだろう。

最新号の特集は「POSITIVE ENERGY」

(Text:小森岳史)

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