『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』『夕陽に赤い町中華』などでおなじみの北尾トロさんの連載。カーボン・ニュートラル?脱炭素?SDGs??という自称・脱炭素オンチの北尾トロさんが、「知らぬが仏」にしておけないキーワードを自ら調べ上げ、身近な問題として捉えなおします。今回のキーワードは・・・
知らぬがホットケない 第4語 シビック・ハッカー(と、オードリー・タン)
ハッカーとかハッキングというIT用語を聞くと反射的に警戒心が沸き起こる人がいる。僕がそうだ。コンピュータの知識に長けていて、いつの間にか情報を盗み、我々の生活を脅かす犯罪者…といったあやふやなイメージなんだけど、聞いた瞬間に答えは出ている。ハッカーは危険、ハッキング怖い。ほら、サイバー攻撃とか仕掛けて国家の機密事項まで盗んだりしちゃうやつだろ?
「いやいや、そういう意味ばかりじゃないって。本来ハッカーというのは、コンピュータや電気回路の知識を駆使して技術的な課題をクリアする人のことを言うんだよ」。
そんなふうに苦笑いする人もいるだろう。でも、ITに詳しくない人の多くは、ハッカー=犯罪者だと刷り込まれている。でなければ、ハッカーによるサイバー攻撃に対抗する人のことを、わざわざホワイトハッカーと呼んで区別したりしないだろう。しかもホワイトハッカーって言葉自体が定着してないので結局よくわからない。金融用語のホワイトナイトもそうだったけれど、"白馬の騎士"は日本人にはイメージ伝わりにくいんだよな。
しかし、いつまでも報道などのせいにしているのは損だと、『オードリー・タンの思考 IQよりも大切なこと』(近藤弥生子著)を読んで思った。
オードリー・タンの名前に聞き覚えのある人は多いだろう。日本では、IQ180以上の天才IT技術者にして民間から重用された台湾のデジタル担当大臣として有名だ。
でも、それだけがオードリー・タンのすごさではないことを、著者の近藤さんは長時間のインタビューと入念な取材を通じて明らかにしている。とてもおもしろい本なので、機会があったらぜひ手に取って見てほしい。情弱な僕でもすらすら読めたのだから誰でも大丈夫なはずだ。
で、僕が驚いたことのひとつが、この本に出てくるシビック・ハッカーという言葉。ハッカーが含まれているのに、犯罪などのマイナス面とはまったく違う前向きな意味がこめられていることだった。
言葉の意味は、"社会問題の解決に取り組む民間のエンジニア"だ。
シビックは民間、ハッカーはエンジニアなのか。うんうん、エンジニア(技術者)なら理解が進みやすいし、さっぱりわからない電脳空間のことと切り離して考えられる。
台湾はシビック・ハッカーの数が世界でも3本の指に入るほどいて、何か事が起きると協力し合い、驚くべき速さで解決策を探るという。政府もそれを奨励し、彼らの意見を政策に取り入れる。
オードリー・タンはその中心メンバーの一人。2020年のコロナ禍で、マスクがいまどこで手に入るかを誰もがスマホで知ることができるようにして初動対策を成功させることができたのも、シビック・ハッカーたちが素早く連携して事に当たった結果だそうだ。その成果は歴然で、人口当たりの死者数がこれまで12人、10万人あたり0.05人と、世界でも突出して少ない(日本は10,019人、10万人あたり7.97人、5月6日現在)。
もちろん守備範囲は労働問題から環境問題まで多岐に及ぶ。
日本でも、テクノロジーを駆使して地域を住みやすくしようとする試みなど、これに近いことは行われつつあるようだが、台湾との違いは、民間と政府との距離感。また、知識や経験をシェアしていこうという考え方が台湾ほど浸透していない点にあるようだ。近藤さんは、オードリー・タンはこう語ったと書く。
<社会問題とは誰かが解決してくれるのを待っていたり、自分一人で解決しようとしても永遠に一部分しか解決できません。異なる能力や角度で物事を見る人が、自分とは異なる部分の問題を解決できるのです。だからこそ、皆で分担して問題を解決するということが非常に大切です。そして解決方法をシェアしていくこともまた、とても大切なのです>
なんというわかりやすさだ。解決方法をシェアする有力な手段のひとつが、シビック・ハッカーの活動なんだなと、情弱オヤジの頭にもすんなり言葉が入ってくる。
僕はこの本を読み終えたときには、ハッカーに抱いていた偏見が消えちゃいましたよ。悪いのはハッカーではなく、IT技術を使って悪事を働くやつらなのだと理解ができた・・・、やっとそこかい!
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