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期待される逆潮流アグリゲーションの調整力

期待される逆潮流アグリゲーションの調整力 第53回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」

2020年10月27日

審議会ウィークリートピック

電気事業全体において、発電所の電気を需要家に届けるだけでなく、分散型エネルギーリソースをとりまとめて(アグリゲートして)需給安定に資する価値を提供する事業の重要性が増している。アグリゲーションをめぐり「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」で重要な議論があった。

アグリゲーター:太陽光発電などの再エネや蓄電池、省エネ・節電設備などの分散型エネルギー設備を束ねてとりまとめ、あたかもひとつの発電所のように運用する事業者。運用する設備をとりまとめたものは、仮想発電所(VPP)とよばれる。電気事業法改正によりアグリゲーターはライセンスが必要になった。

参考
変動する電源を運用・取引するためには、集合化(アグリゲーション)が重要 京都大学 安田陽特任教授に聞く

進展したポジワット・アグリゲーションの整備

また新たに、アグリゲーション活用の環境が整備された。「ポジワット(逆潮流)・アグリゲーション」(ポジアグリ)に関する進展である(本稿では逆潮流アグリと略す)。

再エネや蓄電池等のリソースによる逆潮流量をアグリゲーションしたものを、相対契約や卸電力市場を通して小売電気事業者の供給力として活用することは従来から可能であった。

他方、逆潮流アグリゲーションを一般送配電事業者が調達する調整力として活用することは現時点、認められていない。現行の調整力公募では、電源Ⅰの募集単位は「原則としてユニットを特定した上で、容量単位による応札を受け付ける」とされているためである。

第53回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」では、その解決策が1つ提示された。

最近の供給計画や需給バランス検証では、需給状況に十分な余力があると言える状況ではなく、供給信頼度維持の観点から、新たな調整力・供給力の創出が期待されている。その1つが現在は未活用となっている逆潮流アグリゲーションである。逆潮流をアグリゲートし活用する際には、①ポジワット(逆潮流)だけをアグリゲーションするケースと、②逆潮流とネガワット(需要抑制量)を組み合わせてアグリゲーションするケースの2つが考えられる。

資源エネルギー庁「逆潮流アグリゲーションの調整力としての活用」 2019年10月4日 第10回 エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会より

逆潮流アグリの調整力としての活用については、資源エネルギー庁のERAB(エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス)検討会で、検討が進められている。まずは電源Ⅰ´の公募において高圧以上のリソースからの逆潮流アグリを目指して、技術的な課題への対応については電力広域的運営推進機関(以下、広域機関)にタスクアウトされている。

逆潮流アグリの評価方法とその課題

調整力公募において本来、調達された電源Ⅰ(Ⅰ´を含む)は、一般送配電事業者専用の電源、調整力である。もし他の事業者が別の目的で使用済みであれば、いざ調整力を活用しようとした際にそれが活用できないこととなり、電力の安定供給に支障を及ぼすおそれがあるためである。

ところが逆潮流アグリされたリソースは、何のチェックもおこなわない場合には、元々は他の小売電気事業者等の供給力として計上されている可能性がある。

もし供給力のダブルカウントが発生すると、実質的に供給力確保量が減少することとなり、結果として供給信頼度への影響が生じるおそれがある。

電力広域的運営推進機関「逆潮流アグリゲーションの調整力としての活用と供給計画の整合確認について」2020年9月3日 第53回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」

なぜこのようなダブルカウントが発生するのか。
供給計画作成の際、すでに電気事業者間の取引は供給力のダブルカウントがないかを確認しており、その数値は両者の間で整合が取れている。(もし不整合があれば、調査のうえ供給計画が修正される)

他方で、小規模電源や需要家などの非電気事業者との取引については、小売電気事業者等の計上値(グロス値)を確認しているが、その内訳は確認していない。

非電気事業者とは、電気事業者(小売電気事業等の用に供する電力の合計が1万kWを超えるもの)以外の卸供給事業者、特定自家発設置者、再エネ設備認定事業者等をいう。

まさにこれら小規模電源や需要家などのリソースをアグリゲーションしようとしている

現在(2020年10月)はまだ非電気事業者の供給力は約87万kW(H3需要比率0.6%程度)と小さなものであるが、今後はこのカテゴリーの供給力の絶対量・比率は一層の増加が見込まれる。

(電源Ⅰ´におけるDR等の非電気事業者の供給力は約130万kWでH3需要比率0.9%程度)

供給力のダブルカウント防止策

ダブルカウントが発生し得る原因は、その内訳の確認を省略している点にある。相手は小規模な非電気事業者であり、事務手続きを簡略化することが目的であったと推察され、従来は十分合理的であったと考えられる。

よって、対策は単純である。あらたに内訳を確認するのである。具体的には広域機関において、以下のような確認業務等を追加する。

  • 供給計画において、発電事業者および小売電気事業者から、非電気事業者の内訳を新たに取得する。
  • 上記の供給計画での非電気事業者の内訳表と、一般送配電事業者が管理する電源Ⅰ´のリソース内訳表を比較することで供給力のダブルカウントの有無を確認する。

広域機関が、これら新たな内訳情報を取得・確認するということは、小売電気事業者等はこれら情報を作成・提出する、ということを意味する。

現行の供給計画の帳票に、非電気事業者調達分の内訳を記載することは難しいため、以下のような新たな帳票が設けられる。

電力広域的運営推進機関「逆潮流アグリゲーションの調整力としての活用と供給計画の整合確認について」2020年9月3日 第53回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」

アグリゲーションが隆盛になるほど、この新たな帳票の行数は増加すると予想される。供給地点特定番号等の単純な突合だけであれば自動化が可能と思われるが、提出者側である小売電気事業者では、かなりの部分が手作業でExcelと格闘することになるのではないかと担当者の苦労が懸念される。

今後活用するリソースは一層小型化、多数化することを見込んで、なるべく早い段階で何らかの自動化技術(例えばIoT的な技術やブロックチェーン等)を適用することを期待する。

なお本稿のタイトル以降、ポジワット(逆潮流)のアグリを前提として論じてきたが、本節をご覧になってお分かりのとおり、リソースのダブルカウントを防ぐという観点では、ネガワットアグリも同様に重要である。

表1のような「内訳表」が存在しない現在、DR・ネガワットアグリは電源Ⅰ´で既に活用されていることから、電源Ⅰ´と供給計画の間で、一部ダブルカウントが発生している可能性も否定できない。この対策として2021年度供給計画に向けて、供給力計上ガイドラインの見直し等がおこなわれる予定である。

今後のアグリゲーション活用に向けて

今回の委員会の提案と議論を経て、2022年4月からの逆潮流アグリゲーション(高圧以上)の電源Ⅰ´への参入の確度は大いに高まった。逆潮流アグリ実現のためには、一般送配電事業者の実務としては、システム変更をおこなう必要がある。

また2022年4月から特定卸供給事業者としてのアグリゲーターが創設開始される。その2022年からアグリゲーターが提出する供給計画では内訳表も作成する必要がある。

なお本稿では現行の調整力公募における逆潮流アグリについて論じたが、需給調整市場におけるポジワット(逆潮流)についても、現時点ではユニット毎の参入のみが想定されている。アグリゲーションの活用は需給調整市場においても期待されているところであり、今回の「解決策」が同様に展開されることを期待している。

(Text:梅田あおば)

参照

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda

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