大統領選へ議論加速。若者の声を受けるグリーン・ニューディールとトランプ(上) | EnergyShift

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大統領選へ議論加速。若者の声を受けるグリーン・ニューディールとトランプ(上)

大統領選へ議論加速。若者の声を受けるグリーン・ニューディールとトランプ(上)

2019/11/14

2020年米大統領選が1年後に迫り、民主党の候補者選びに向けた論戦が熱を増してきた。中でも共和党との間で対応に温度差がある気候変動問題は、大きな争点の1つとなっている。政策論争の中心となっているのが、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員らが打ち出した「グリーン・ニューディール」だ。ニューヨーク在住のジャーナリスト、南龍太氏が解説する。

グリーン・ニューディール

オカシオ=コルテス氏の打ち出したグリーン・ニューディール(Green New Deal; 以下GND)は「決議案の提出により目標の9割は達した」(オカシオ=コルテス氏)としている通り、既に党内外で賛否を巻き起こし、共和党からも対案が出るなど議論が活発化している。今後、本選に向けた候補者の絞り込みが進むにつれ、民主党の総意としていかに具体策を煮詰め、どこに着地点を見いだせるか、それに対して気候変動を軽視する傾向のトランプ現政権と共和党はどう応戦するのか、出方が注目される。

気候変動対策がなければ世界は12年で終焉

現在30歳、議会内最年少のオカシオ=コルテス氏は2019年2月、ベテランのエド・マーキー民主党上院議員と共にGNDの決議案を発表した。再生可能エネルギーや温暖化防止への公共投資により雇用創出や格差是正につなげる経済刺激策だ。1930年代にフランクリン・ルーズベルト大統領が、世界恐慌で落ち込んだ米景気に対して公共投資を通じて浮揚させようとした「ニューディール政策」になぞらえている。

今年発表されたGNDの主な柱は下記の通りである(当初案*1)。

  • 温室効果ガスの排出ゼロ(ゼロ・エミッション)
  • 再生可能エネルギーをはじめとするゼロ・エミッション電源に100%移行
  • ゼロ・エミッション車や公共交通へ投資、交通システムの抜本的見直し
  • クリーン製造業振興、農家や酪農家との協調

こうした温暖化対策に10年かけて取り組んでいくことに加え、国民の完全雇用や国民皆保険を通じた貧困層への対策を同時に充実させようと訴えている。

気候変動によって害を被る人々や、エネルギー政策の転換で失業する恐れのある労働者向けの支援策も盛り込み、気候変動への対処を社会保障と一体的な問題として捉えようと試みた。

「気候変動対策に取り組まなければ、12年以内に世界は終わる」と危機感を募らせていたオカシオ=コルテス氏は「民主的社会主義者」を自認する。そんな彼女がかつてスタッフとして仕えた重鎮、バーニー・サンダース上院議員もまた同じ主義を掲げ、GNDに共鳴している。他にエリザベス・ウォーレン上院議員やカマラ・ハリス上院議員など、党内の大統領選候補者はリベラル派を中心に相次いでGNDへの支持を表明している。

GNDが勢い付く契機となったのは2018年11月の中間選挙、民主党の下院議会での勝利だ。多数派を占めて主導権を取り戻したことを潮に、番狂わせを経て政界入りを果たし、最年少という若さもあって話題に事欠かないオカシオ=コルテス氏が「グリーン・ニューディール特別委員会」設置の検討を公表。GNDがにわかに市民権を得るようになった。

民主党内にも異論、共和党は強く警戒

ただ民主党内はGND支持の一枚岩ではなく、事情はもう少し複雑だ。決議案の中身が具体性に欠けるとか、10年の短期間に巨費を要するといった批判から、その実現を疑問視する向きは少なくなかった。オカシオ=コルテス氏にとって、よき理解者であってほしいはずの民主党ナンシー・ペロシ下院議長でさえ、GNDを「グリーンの夢」と呼んで懐疑的な見方を示していた。

こうした民主党の不調和を察知するや、保守政党の動きは早かった。GND決議案が示された翌3月には、共和党のミッチ・マコネル上院院内総務は同案を採決に付した。温暖化ガスの排出源となる石炭を産出する州選出の民主党議員の造反を誘い、内部分裂をより鮮明にしようとたくらんだのだ。

このたくらみは、公聴会も議論もしないままでの採決強行に民主党が猛反発。逆に結束力を強める事態を招いた。民主党指導部は全ての議員に「賛成」「反対」のいずれでもない「出席」票を投じるよう号令を掛けた。その結果、大半の議員が出席票を選ぶ。そうしなかった一部議員や共和党側の反対により、決議案は否決された。

性急さゆえに共和党のもくろみは外れた。民主党内で熟議しようとの機運が醸成される前に先手を打とうとした強行策は、彼らの焦りとも警戒感の表れとも映った。

トランプは気候変動を信じない

「とんでもなくクレイジーだ」。GND決議案を初めて耳にした際の所感を、トランプ氏はそう述懐した。

産業セクターにGNDの受けが良くないことを背景に、ツイッターでは「民主党はいわゆる『カーボンフットプリント』のために全ての航空機、自動車、牛、石油、ガス、軍隊を永久に消し去ろうとしている。素晴らしい!*2」と茶化す。一事が万事この調子で、GNDの実現は土台無理な話だと決めて掛かっている。

2019年2月9日のトランプ氏のツイート

オカシオ=コルテス氏を「若いバーテンダー」と議員になる以前、ローン返済のために働いていた職業で呼んでからかうトランプ氏。かつて、気候変動は「でっち上げだ」との持論も展開していた。気候変動に警鐘を鳴らす科学者には政治的意図があると指弾し、地球温暖化が人為的活動によるとの説にも頑として肯(がえ)んじなかった。そうした思想の持ち主は2017年、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を「公約通り」宣言した。その後11月5日にパリ協定離脱を国連に正式通告した。

パリ協定にしても医療保険制度改革(オバマケア)にしても、現政権はオバマ前政権の取り組みを次々に否定、撤回している。それらトランプ側が講じた措置を見直し、再び前オバマ政権時代の姿に戻そうというのが、今の民主党のモメンタム(方向性)であり、統一的な見解とも言える。民主党の各大統領候補が最低でもパリ協定への復帰を掲げており、気候変動問題を取り上げる中で、GNDが話題に上るのは自然な流れだ。

気候変動問題に対するこうした民主党の姿勢とは決定的に相容れないトランプ氏だが、GNDは望むところだと、迎え撃つ構えを見せている。GNDを民主党への格好の「攻撃材料」と捉えているようだ。

トランプ氏は来る大統領選を、民主党との対決というよりも、「社会主義」との闘い、イデオロギーの選択という構図に置き換えたいらしい。そのため、「クレイジー」で急進的な案だとGNDを印象付けることにより、それに賛成する民主党議員に「社会主義者」のレッテルを貼りやすくなると目論む。

GNDを「まだ生かしておくことだ」(Don't kill it)とあえて争点にしたい考えで、「もし民主党がGNDで勝ったら、潔く敗北を受け入れよう」(If they beat me with the Green New Deal, I deserve to lose)と自信を見せている。

グリーン・ニューディールは本当にクレイジーか

ただ、トランプ氏の目算通りに行くかというと、そう簡単な話ではなさそうだ。

かつて、2016年大統領選でサンダース氏が国民皆保険制度を提案した際、その実現の難しさから否定的だった対立候補も次第に、そして否応なしに対案を示すように迫られていった。保険制度の在り方は、それこそいつの時代も米国の課題であったと同時に、現在ほどその充実が求められている時代はないと誰もに認識されていたためだ。

そうした時代の要請、社会の要請という意味では、気候変動問題もまさに重なる部分がある。

オカシオ=コルテス氏のGNDは、国民皆保険制度を含む各種福祉政策までを内包しながら、脱炭素社会に向けた規制などにより失職するかもしれない労働者への支援策も検討する内容となっている。

昨年(2018年)11月公表の「第4次全米気象評価第2巻*3」によると、気候変動が米国の経済に与える損害は今世紀末までに数千億ドルに達する見通しだ。トランプ氏が懐疑的な見方を示す、気候変動の原因と影響に対する科学者の分析だが、後述の調査結果が示すように、気候変動は年を追うごとに現実的な脅威として受け止められるようになっていることも、社会の一側面を反映した実相だ。

第4次全米気象評価第2巻 表紙

保険制度の議論で言えば、民主党有力候補のウォーレン氏やハリス氏も国民皆保険を公約としている。16年の発案当初こそ急進左派的とされた国民皆保険のアイデアは、いまや中道派の案だとする見方さえ出ている。

同様に、GNDの議論も今後、理想主義的、総花的といったネガティブな意見も吸い上げながら、具体策が煮詰まっていく可能性を持つ。GNDは急進的で社会主義的でクレイジーだと、悠長に構えていられる余裕が、トランプ氏にいつまであるだろうか。

(下に続く)

参照
南龍太
南龍太

政府系エネルギー機関から経済産業省資源エネルギー庁出向を経て、共同通信社記者として盛岡支局勤務、大阪支社と本社経済部で主にエネルギー分野を担当。現在ニューヨークで執筆活動を続ける。著書に『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』(いずれも産学社)など。東京外国語大学ペルシア語専攻卒。新潟県出身。

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