世界が気候変動問題の解決に向けて大きく動き出した背景には、多くの市民運動・環境NGOの地道な取り組みがある。同時に、問題の解決を加速させていく必要があり、そのための市民運動の拡大に向けて、どのような点を注目していけばいいのか。リレーエッセイの第3回は、350.org japanの荒尾日南子氏からお届けする。
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世界にはたくさんの国際環境NGOがあります。これらは、一つの国を超えて様々な環境問題を解決しようとしている団体を指しますが、その中で350.org の特徴は二つあると考えます。
まずは、気候変動問題を解決するために発足した団体で、取り組みがそこに特化していること。そして、”People Power(市民の力)“ を集めた気候ムーブメントがこの問題解決に必須であると考え、運動の構築と拡大に取り組んでいることです。
気候危機に直面していることは30年以上も前から科学者から明確な警鐘が鳴らされ続けていました。それに対し世界のリーダーたちの対応は完全なる失敗、問題の先送りの繰り返しだったことを考えれば当然です。
気候危機を回避するために市民活動を行ってきた人は常にたくさんいましたが、なかでもグレタ・トゥーンベリさんの始めた学校ストライキは、近年その運動が拡大し、大きなうねりとなったきっかけの一つです。2018年8月にたった一人で始めた学校ストライキは、7ヶ月後には、125ヶ国、100万人以上の若者が参加し、その6ヶ月後には大人も参加するグローバル気候マーチとなって185ヶ国から760万人以上が参加しました。このとき日本でも、23都道府県から5,000人の老若男女が参加しました。グレタさんの学校ストライキから始まったFridays For Futureは日本にも広がり、現在確認のとれるもので国内で29団体となっています。
今年、2021年3月19日には、グローバル気候マーチが進化した、「世界気候アクション0319」が世界中で開催されます。今年は、コロナでも気候危機の緊急性は変わらない!たとえ離れていても、共に手を取り合い、決して私たちの未来を手放さない。そんな思いからメインアクションとして、「Climate Hands Action」を行います。ぜひ、ご参加ください。
Fridays For Futureをはじめとする、若者の素晴らしいリーダーシップによって、日本での市民運動も拡大していますが、この運動の中にいる人でこの拡大に満足している人はいないでしょう。
なぜなら、気候危機による壊滅的ダメージを免れるためには、やっと重い腰を上げスタートラインに立った政府に一刻も早く走り始めてもらい、それから間違った方向に進まないようにかなりの注意を払いながら、さらに、トップスピードまで速度を上げてもらう必要があるからです。これには、今よりもっと大きな市民の力が必要です。
では、どうやったら日本で気候変動解決に向けた市民運動を拡大していけるのでしょう? この問いに対し、明確な答えをもっている人はいないかもしれませんが、多くの活動家が次の点に注目をしています。
一つ目はバランスです。政治的なことに参加する習慣がなく、また人と違うことをすることを励まされない文化の中で、多くの一般の人に市民運動に参加してもらうのは至難の技です。例えば、世界的に、グローバル気候ストライキと呼ばれていた前途の催しも、日本では政治的になることへの抵抗感を煽らないよう、グローバル気候マーチと訳しました。
また、危機を伝えるのと同時に、その深刻さに一人で直面しなくても良いよう、横のつながりを大切にしたコミュニティー形成にも力を入れています。Fridays For Future をはじめとし、350 クルー・コミュニティーやGreen TEA(TEA=Team Environmental Activist)が良い例です。
二つ目はインターセクショナリティー、社会問題と社会問題の交差点です。
女性蔑視、障がい者差別、子どもの貧困、地方と都市部との格差、など日本にもたくさんの社会問題があり、ある問題が他の問題よりより重要だ、ということはできません。ただ、気候危機はあらゆる問題を覆っている傘のような問題だともいえます。理由はその緊急性と影響力にあります。
もし、この危機が早急に回避されず、壊滅的なダメージを受けることになれば、それぞれの問題を解決するチャンスがなくなるのです。
気象災害や食料危機など、気候危機の影響がより顕著になり社会が不安定になれば、今ある様々な社会問題はより大きくなることが予想されます。同時にそれらの影響への対処に政府や人々が手いっぱいになれば、他の問題解決を進めていくことが難しくなります。
この観点から、あらゆる社会問題の解決を志す人々が力を合わせることができれば、日本にも必要とされているスケールでの市民運動のうねりを生み出すきっかけの一つを作ることができるかもしれません。
気候変動問題を解決するための緊急課題は、化石燃料からのエネルギー源のシフト、脱炭素です。ただ、その解決の取り組みに立ちはだかる壁の数々から見えてくることは、この問題を生み出した原因である社会の構造、システム自体を変革する必要性です。
それは、あらゆる人、そして自然環境の搾取の上に一部の人が富を蓄える世の中から、優しさや思いやり、幸せといったお金ではない基準が大切にされる社会の形成でもあります。
日本の気候変動問題解決に向けた市民の運動が、コロナ禍で多くの人が社会の脆弱さに気づいたことに呼応して、緊急性と温かさを力強く発信しながら大きく拡大していけるよう、日々取り組みを続けていきたいと思います。
余談となりますが、市民運動を力強いものにしていくための知識がぎっしり詰まった本、クライメート・レジスタンス・ハンドブックを翻訳しました。オンライン版はどなたでも購読していただけますので、読者の皆さんも、ぜひご一読ください。
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