私たちが生活するうえで欠かせない電気。2019年時点、国内で使用される電気のうち、約75.1%が火力発電によって生み出されています。
「脱炭素社会」や「カーボンフリー」という言葉が叫ばれるなか、なにかと目の敵にされがちな火力発電。しかし、本当に火力発電は環境に悪いのでしょうか?
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火力発電とは、石油・石炭・天然ガス・廃棄物などの化石燃料を燃やし、その熱エネルギーを発電設備によって電力に変換する発電方法です。発電出力を細かく調整でき、そのうえ安定した電力量を供給できることから、再生可能エネルギーの普及が進んでいく今後も重要な役割を担うといわれています。
火力発電にはいくつかの種類がありますが、基本的には以下のしくみ・順序で発電しています。
*電気事業連合会「汽力発電」
火力発電はその発電方式の特性上、蒸気機関車に例えられることが多いです。使用されるおもな燃料は3種類あり、それぞれコストや二酸化炭素の排出量が異なります。
燃料の種類 | 燃料の特徴 |
LNG(液化天然ガス) | 二酸化炭素排出量が少なく、長期契約によって安定的に供給されるが、輸送費・燃料費は高額 |
石油 | 貯蔵・運搬は他の燃料よりも容易である一方、価格変動が大きく石炭に比べて高額 |
石炭 | 他の燃料より安価であり、資源量が豊富であるものの、発電により排出する二酸化炭素が多量 |
近年、火力発電の技術開発はさかんに行われています。とくに石炭火力発電は進歩が進み、以前よりも大幅な環境負荷の改善に成功しました。以下の資料は、神奈川県横浜市にある磯子石炭火力発電所のデータです。磯子石炭火力発電所は、クリーンコール技術と呼ばれる方法により、大気汚染物質の排出量を大幅に削減しました。
*資源エネルギー庁「なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み」
資料右上のグラフから読み取れるように、リプレース(建て替え)後はNOx(窒素酸化物)・SOx(硫黄酸化物)・PM(粒子状物質)がそれぞれ80~90%削減されています。また、右下のグラフを見てみると、NOx・SOxが世界的に低い水準にあることがわかります。環境保全の観点から、火力発電には悪いイメージを抱きがちですが、日本の火力発電は時代にあわせて進化しているのです。
環境エネルギー政策研究所が作成した資料によると、国内の2019年度の電源構成は以下のようになっています。
*環境エネルギー政策研究所「2019年(暦年)の自然エネルギー電力の割合(速報)」
2019年時点では、火力発電が電源構成の75.1%を占めています。政府は、2030年度に火力発電の割合を56%(LNG27%・石油3%・石炭26%)に近付けることを目標にしていました。しかし、2020年10月に菅首相が「脱炭素社会の実現へ注力する」と宣言。2050年に日本の温室効果ガスを実質ゼロにすると表明しており、今後、火力発電の立ち位置がどのように変化するのかに注目が集まっています。
一方、日本以外の国における電源構成は、以下のような割合になっています。
*自然エネルギー財団「統計|国際エネルギー」
上記グラフは2019年時点のもので、火力発電の割合は黒(石炭)、灰色(石油)、薄灰色(ガス)3色の合計です。このデータを見てみると、原子力発電や再生可能エネルギーの割合が大きい国があるものの、いまだに火力発電に頼っている国が多いことがわかります。
火力発電には悪いイメージを抱きがちですが、メリットが多いからこそ現在まで主要電源として活用されてきました。まずは、他の発電方式と比較して、火力発電がどのようなメリットを持っているのか確認していきましょう。
火力発電のエネルギー変換効率は、水力発電に次いで2番目に高いです。エネルギー変換効率が高いほど、元のエネルギーから電力に変換される際に失われるエネルギーが少なく、効率的に発電できます。
*関西電力「再生可能エネルギーへの取り組み」
火力発電は出力の微調整を得意としており、電力の需要にあわせて発電量を変えられます。太陽光発電や風力発電など、発電量が天候に依存する発電方式は微調整が難しく、水力発電や原子力発電などの「長期固定電源」と呼ばれる発電方式も、短時間で細かく出力を調整できません。そのため、刻々と変動する電力需要へ対応するために、火力発電は重要な役割を担っているのです。
出力の微調整が可能である点は、再生可能エネルギーが普及しても火力発電がなくならない、おもな理由の1つでもあります。
火力発電は、燃料さえあれば安定的に発電できます。太陽光や風力などの自然に依存する発電方式では発電量が安定しません。また、現在多くの原子力発電が稼働停止となっているため、その分の供給量を火力発電でまかなっています。
風力発電を行う場合、設備は一定以上の風速が期待できる場所に設置しなければいけません。水力発電では河川やダムが必要です。地熱発電の場合は火山近くの平地が好まれるなど、それぞれの発電方法には制約や条件があります。
その一方で、火力発電は小規模の土地でも建設できるなど、設置場所の自由度がとても高いです。都市部に近い場所でも建設できるので、送電ロスを抑えながら都市部に電力を供給できます。
原子力発電所で事故が起こった場合、有害な放射能により長期間にわたって人体や自然環境に重大な影響を及ぼします。一方で火力発電は放射性物質を生成しません。そのため、事故が起きたとしても被害は限定的で済みます。
放射性物質という、管理次第では危険を招く燃料を使わない点で、火力発電は比較的安全だといえるでしょう。
長らく日本の主要電源として活用されてきた火力発電にも、多くのデメリットがあります。ここでは、火力発電が抱えるデメリットについてご説明します。
燃料を燃やして発電する特性上、火力発電は他の発電方式より多くの二酸化炭素を排出します。以下は、燃料を燃やした際に発生する二酸化炭素のほか、燃料輸送や設備建設などから発生する二酸化炭素の総量である「ライフサイクルCO2排出量」を発電方式ごとにまとめたデータです。
*電力中央研究所「日本における発電技術のライフサイクルCO2排出量総合評価」
燃料を燃やす火力発電は、他の発電方式に比べて大幅に二酸化炭素の排出量が多いことが分かります。LNGを使った火力発電は、石油や石炭を使うより二酸化炭素排出量を抑えられますが、 それでも他の発電方式とは比較にならないほどの二酸化炭素を排出しているのです。
二酸化炭素を始めとする温室効果ガスの排出は、生態系や私たちの健康へ悪影響を及ぼす地球温暖化を招きます。地球温暖化によってもたらされる問題や、地球温暖化を解決するための取り組みは、以下の記事で解説しています。本記事とあわせてご参照ください。
火力発電に利用する燃料は海外からの輸入に依存しており、燃料の価格や供給量は国際情勢によって変動します。とくに原油は80%以上が中東地域からの輸入です。トラブルが発生した場合、私たちの生活にも大きな影響を及ぼしかねません。こういった理由から、燃料を海外からの輸入に頼るのは非常に危険なことなのです。
海外情勢による私たちの暮らしへの変化を減らすためにも、日本はエネルギー自給率を改善しなければいけません。そのためにも火力発電の割合を減らし、再生可能エネルギーによる発電を普及させる必要があります。
火力発電が燃料とする、LNG・石油・石炭といった化石燃料は、すべて採取量に限りのある資源です。
2018年時点では、天然ガス・石油は今後50年程度、石炭は132年後に尽きてしまう計算です。今後も火力発電を利用し続ければ、やがて化石燃料は底をつき、つぎの世代に資源を残せなくなってしまいます。
日本では再生可能エネルギーの普及が徐々に進んでおり、2030年には電源構成の20%超を再生可能エネルギーが担う計画となっています。これに伴い、火力発電の割合は2030年に56%に縮小する見込みです。菅首相の「エネルギー基本計画の見直しを行う」といった表明により、さらに縮小のスピードが速まる可能性はあるものの、出力調整の柔軟性や発電量の安定性が優れているため、完全に廃止されることはないものと考えられます。
国内外における最新動向や企業の取り組みを解説した記事も随時更新していきます。本記事とあわせてご参照ください。
>> 三菱重工、火力発電から脱炭素事業に転換 不振が続く子会社を統合
>> 住友商事、石炭火力発電の事業終了を発表 2040年に撤退へ
>> 速報:日本、2030年温室効果ガス排出削減目標50%の見通し 米NYT紙が報道
>> IRENA発表:2020年、世界の再エネ導入容量が過去最高に
>> 日経の「石炭火力輸出支援停止」報道は、日本の脱炭素転換の立ち遅れの象徴だ
日本の主要な発電方式である、火力発電についてご説明しました。メリットだけでなく、デメリットもある発電方式ではあるものの、なぜ火力発電が主力電源とされているのかお分かりいただけたはずです。
なお、私たちが火力発電の課題に直接アプローチすることは難しいのですが、再生可能エネルギーの普及に貢献したり、消費電力の削減に努めたりすることは可能です。それぞれ、個人でも始められる取り組みですので、以下の記事を参考にしてください。
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