連載「変わりゆく地球」スヴァールバル諸島 ホッキョクグマ【第6回】 | EnergyShift

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連載「変わりゆく地球」スヴァールバル諸島 ホッキョクグマ【第6回】

連載「変わりゆく地球」スヴァールバル諸島 ホッキョクグマ【第6回】

2021/08/21

地球全体の気象にも大きな影響を与える北極圏の氷の融解は、ホッキョクグマの生存を脅かしている。狩場を失ったホッキョクグマが飢え、子育ても難しい環境になっているのだ。北極の王者は真っ先に気候変動の影響を受け、絶滅が危惧されている。

連載「変わりゆく地球」

薄氷の上で生きる北極の王者
ホッキョクグマに残された未来は


2015年8月末にスピッツベルゲン島のピラミデンPyramiden近くで出合ったホッキョクグマ。この時期、この場所での遭遇は1%にも満たない確率と、ガイドも興奮気味だった ©Hiroaki Oyamada(クリックすると別ウィンドウで開きます)

海氷の消失で狩りができない時期が長くなっている

ホッキョクグマの狩りは氷上で行われる。氷原に空いた穴のそばで、息継ぎのために海面に顔を出すアザラシを待ったり、氷の中に巣を作るアザラシの子供たちを狙ったりする。ホッキョクグマは泳ぎも得意で1日に数十キロも移動できるが、アザラシほど機敏ではないため、待ち伏せスタイルで狩りを行う。

北極では氷の融解速度が早まり、その範囲も急速に広がっている。そのため、ホッキョクグマたちは狩りを行う場を失い、飢えに苦しんでいる。また海洋汚染の結果、北極の食物連鎖の頂点にいるホッキョクグマの体内には有害物質がたまり、健康を害している。

国際自然保護連合(IUCN)の2015年発表の推測によれば、2050年までにホッキョクグマは3分の2まで個体数が減るかもしれないとされている。現在、ホッキョクグマの生息数は2万頭から3万頭の間と推測されている。


わずか数分のことだったが、様々な姿と表情を見せてくれた。ごめん寝や香箱座りしている姿はまるでネコ。最後は泳いで去っていった。4コマイラストのようだ ©Hiroaki Oyamada(クリックすると別ウィンドウで開きます)

ホッキョクグマの生態は

ホッキョクグマは日本ではシロクマと呼ばれることが多い。ふわふわの白い毛皮をまとった子グマは特にかわいらしいが、肌の色は黒く、毛の色も白くはない透明色だ。毛は中空になっていて空気を蓄え、断熱性を保っている。

ホッキョクグマは視覚、嗅覚ともに優れており、足も早い。巨大な体だが気配を消して動くことができる優秀なハンターだ。現地ガイドのひとりは、スノーモービルドライブの休憩中に、いつの間にかホッキョクグマが近くにきており肝を冷やした体験を教えてくれた。

ホッキョクグマの主食は脂肪たっぷりのアザラシ。氷がある時期に狩りを行い、脂肪を蓄え、次の冬まで代謝を抑えながら生き延びる。母グマはそこに子育てが加わるのでたいへんだ。2~3年に渡り子供たちに栄養を与えながら教育し、ときには雄グマから我が子を守る必要がある。人間と同じく手のかかる子育てが必要だ。

サブスクリプション契約で、極地の動物たちの生態を追ったドキュメント映画「アース」や、ホッキョクグマとセイウチの子育てにフォーカスした「北極のナヌー」などを配信しているサービスがある。「ホッキョクグマ」をキーワードに検索して視聴してみるといい。この地域の自然がいかに厳しいものであるかがわかるだろう。

人間とホッキョクグマとの共存


ロングイェールビーンの町外れにある、この先ホッキョクグマ注意の道路標識。ロングイェールビーン近郊では、2011年と2015年、2020年に人間がホッキョクグマに襲われ、死者も出た ©Hiroaki Oyamada(クリックすると別ウィンドウで開きます)

スヴァールバル諸島にあるスピッツベルゲン島は、個人旅行でも訪問が可能な、世界最北の国際空港がある島だ。ロングイェールビーンという町があり、町外れに出るときには、銃の携帯が必須とされている。ホッキョクグマとの遭遇の可能性があるからだ。ホッキョクグマに狙われたら、徒歩では逃げることができない。もし襲ってくるような素振りがあれば、まずは音や照明弾で追い払い、それでも向かってくるときは正面からのみ発砲を許されている。ツアーガイドたちは常にライフルを携帯している。ホッキョクグマは1973年まではハンティングの対象となっていたが、現在は北極圏の各国が協力し合い、その保護に務めている。

ホッキョクグマはコロニーを作らず移動しながら生活するので、めったなことでは遭遇しない。しかし、近年は餌場がないため、人間の住むエリアに現れる頻度が増えている。ロシアでは複数の極北の村に50頭近いホッキョクグマが押し寄せたことがあった。つい最近の報道では、グリーンランドで人間の居住エリアを繰り返し訪れる個体が発見され、その射殺許可が下りたという。

ホッキョクグマの飢餓の原因は、人間が引き起こした気候温暖化による海氷の狩場喪失だ。人間は彼らを絶滅危惧種として保護しようとしているが、上記のように人間の生活圏に現れ危害を加えた場合は駆除せざるを得ないという皮肉な現実がある。スピッツベルゲン島も気候温暖化の影響を受け、猛暑に襲われている。夏の最高気温10度程度のところ、2020年7月26日には21.7度の史上最高気温を記録した。動物園の人気者の彼らの未来は残念ながら悲観的なものだ。

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小山田浩明
小山田浩明

スイス・北欧に強い旅行ジャーナリスト兼カメラマン。 株式会社ダイヤモンド・ビッグ社で、海外旅行ガイドブック『地球の歩き方』プロデューサーとして52ヶ国のガイドブックを担当。特にスイス、北欧、オーストラリアの取材経験が豊富で、プライベートでも頻繁に渡航。各エリアをそれぞれ25回以上、200泊以上滞在する。 1990年代頭の第一次オーロラブームの頃から極地を訪問してオーロラの撮影を行っていたが、2015年8月にホッキョクグマの王国スヴァールバル諸島を訪れ、流氷でお昼寝中のホッキョクグマと遭遇。以降、極地の気候変動にも強い興味を抱き、現地取材を継続しその変化を追い続けている。 2018年からはVR動画によるロケもスタート。アイスランドやスイス、グリーンランドでの収録を実行し、ガイドブックや雑誌からVR動画を見られる仕組みも作った。 現在はフリーランスのフォトグラファー、VRクリエイターとして活動。バーチャル旅行やウィズコロナ時代の旅行の楽しみ方を模索している。 ●YouTubeチャンネル Travel the world in VR https://www.youtube.com/c/TraveltheworldinVR