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2022年の脱炭素トレンドに迫る オフサイトPPA、EV、再エネ100%電力?

省エネでゲームのルールが変わる小売電気事業

2020年から2021年にかけて、冬期の電力のスポット市場価格が高騰し、多くの小売電気事業者がダメージを受け、経営が破綻する会社もありました。そして2021年秋から冬にかけても、スポット市場価格が高い状態が続いています。

なぜこうした状態になっているのか。理由の1つは、電力広域的運営推進機関(OCCTO)の供給計画が明らかにしていますが、旧一電は採算のとれない老朽火力の休廃止を進めており、その結果として十分な供給力が確保できない状態になっています。これは2022年度まで続く見込みです。

しかしそれだけではなく、世界的にはLNGの市場価格が高騰しており、供給そのものもタイトになっています。これにより、電気料金が値上がりする傾向にあります。

一方、脱炭素ということでいえば、非化石証書というしくみを導入したことで、「実質再エネ100%」の電力を供給しやすくなりました。

しかし、2016年に電力小売り全面自由化となって以降、日本の小売電気事業者は価格競争こそしてきましたが、顧客に省エネをうながすことはほとんどありませんでした。電気をたくさん使う顧客ほど、価格メリットを出せるというのが新規参入者の料金メニューであり、省エネを提供するインセンティブがなかったわけですが。

これに対して欧米の小売電気事業者は、顧客に省エネ情報を提供することがあたり前となっています。行政からそのように義務付けられているというケースもありますが、その場合は小売電気事業者に対して省エネで減った売上げをカバーするようなインセンティブも用意されています。

実は脱炭素でもっとも優先されるべき取り組みは、再エネではなくコストメリットを得やすい省エネです。特に欧米は建物の断熱性能の向上による省エネは、GHG削減で真っ先に取り組む方策となっています。

ここにきて日本政府も小売電気事業者に省エネとなる提案を顧客に提供することを求めるようになりました。しかし、それだけではなく、スポット市場が値上がりし、すぐに値下がりすることがない状況では、小売電気事業者にとっても顧客に省エネサービスを提供することがより大きな価値となっていくはずです。すでに価格競争の時代は終わっており、今後は適正な価格による質の高いサービスの競争となっていくことでしょう。その意味において、2022年は小売電気事業の事業モデルが明確に変化しはじめることになります。

世界的には農業が気候変動の新たな重要課題に

ここまで日本の話を中心に書いてきました。世界的にはよりダイナミックな脱炭素化が進む一方で、短期的なエネルギー供給リスクが価格を押し上げる、いわゆる「グリーンフレーション」が起こっています。これに対する対策として、化石燃料の開発ではなく省エネと再エネの促進でのりきろうというのが、世界のおおよその合意です。

電気自動車(EV)の普及も飛躍的に進むでしょうし、日本はその後を追いかけていくことになります。

そうした中、気候変動対策の重要な課題として浮かび上がってくるのが、農業です。農業は気候変動に対し脆弱である一方、森林伐採は土壌喪失などGHGの発生源ともなっています。

したがって、持続可能で土壌回復にもつながる農業にしていくことが、これから重要となってきます。また、このことが途上国における支援として重要なものとなってきますし、貧困の解決にもつながります。

農業のうちでもとりわけ畜産への風当たりは強くなるのではないでしょうか。

それから、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次報告書のうち、第2作業部会と第3作業部会の分が公表されます。それぞれ、気候変動による影響、そして気候変動対策についてまとめたものです。2021年にはすでに第1作業部会の報告書が公表され、気候変動が人間の活動によるものだと断定されました。第2作業部会では気候変動がどのような深刻な問題を引き起こすのかが示されたものとなり、注目されます。また、気候変動対策として第3作業部会が示す方策に対し、世界は応えることができるのかどうかも問われます。

年末にエジプトで開催されるCOP27(気候変動枠組み条約第27回締約国会議)は引き続き、GHG排出削減をめぐる政府間交渉がチキンゲームのように続くことでしょう。

しかしそうであったとしても、世界は脱炭素に向かって動いています。1997年のCOP3(京都会議)の頃から比べると、政府以上に金融と若い世代が危機感を抱えるようになってきました。その意味では、脱炭素をリードしていくのは金融界になっているといっていいでしょう。とはいえ、途上国への持続可能な投資がいかにして可能になるのか、この点はまだまだ頭を悩ませているところです。金融そのものが持続可能であるために、更なる変化も必要なのかもしれません。

もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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