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「新エネルギー車への財政補助政策に関する通知」をめぐって 中国における燃料電池・水素エネルギーの開発動向と将来展望(4)

「新エネルギー車への財政補助政策に関する通知」をめぐって 中国における燃料電池・水素エネルギーの開発動向と将来展望(4)

2020/07/27

中国では当初、燃料電池自動車を電気自動車などとともに新エネルギー自動車というカテゴリーに入れて補助金の対象としていたが、現在は補助金の対象から外されている。だが、開発・普及がストップしたということではなく、燃料電池自動車用に、新たなフレームワークが用意された。そこには、電気自動車の開発・普及におけるこれまでの政策の反省もみられる。新たな「通知」はどのようなものなのだろうか。デジタルリサーチの遠藤雅樹氏が詳しく解説する。

中国の電気自動車のいびつな産業構造への反省

中国政府は燃料電池自動車(FCV)を電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)とともに新エネルギー車というカテゴリーに位置付け、補助金を中心とした普及促進政策を進めてきた。しかし、2020年4月23日に「新エネルギー車への財政補助政策に関する通知」を発表し、2020年で廃止が決まっていた新エネルギー車への補助金政策を2022年まで延長するとともに、燃料電池自動車を補助金対象から除外する一方、特定の都市に燃料電池自動車の開発と実証走行試験を集中する新しいフレームワークを決定した。

新エネルギー車への財政補助政策に関する通知を伝える中国政府サイト

中国政府は新エネルギー車(電気自動車、プラグインハイブリッド車)を産業化するにあたり、技術革新と生産台数の確保による国内メーカー育成を両立させる「十城千輌」政策をすすめたが、その結果として500社近い、補助金目当ての、バッテリーなどの技術開発よりも要素技術を集成するだけのアセンブリーメーカーが乱立するという歪な産業構造を生み出した。

バッテリーも、リン酸鉄リチウムイオン電池が主体で、高性能で航続距離を伸ばせる三元系リチウムイオン電池では正負極やセパレータなどの電池材料の開発が遅れた。その結果、中国の電気自動車市場は国内メーカーがほぼ独占していたにもかかわらず、海外自動車メーカーの電気自動車に対抗できる水準に到達したといえるメーカーは数少ない。

中国の新エネルギー車政策は、比亜迪(BYD)や寧徳時代(CATL)といった有力なリチウムイオン電池メーカーを生み出したが、膨大な開発資金を投入したにもかかわらず、政府が期待した自立した新エネルギー車産業の確立にはほど遠い成果しか生み出していない。

こうした電気自動車の産業育成における失敗を反省し、中国の燃料電池自動車開発は、電気自動車産業化の二番煎じになる前に、早期に軌道を修正した。具体的には、購入補助金政策を転換して、膜電極(MEA)、触媒、セパレータなどのスタック材料やコンプレッサーなどの補機類、周辺機器、高圧水素タンクなどの水素供給システム、水電解装置や水素ステーションにいたる産業サプライチェーンを基盤から自主開発する政策に軸足を移すことになった。

中国燃料電池自動車事業におけるビジネスモデルの欠落

中国の新エネルギー車戦略を立案し推進してきた中国科学技術部の元部長である万鋼氏は、2019年1月、中国電動汽車百人会(China EV100)のフォーラムで講演し、「産業界は燃料電池にフォーカスすべきだ。燃料電池は、中国が先行して開発してきた電気自動車ハイブリッド技術にマッチする技術である。また、中国は副生水素や再生可能エネルギーの余剰電力など水素資源が豊富にあるが、それを生かすためのビジネスモデルが欠けている」と語っている。

万鋼氏は中国の燃料電池の商業化について、以下のように指摘をしていた。

  • (1)燃料電池の産業化、商業化は予定より遅れていること
  • (2)膜電極(MEA)、エアコンプレッサー、高圧水素タンクなどの主要部材の開発では海外と大きな差があること
  • (3)スタック材料や補機類、周辺機器のサプライチェーンが弱く、エンジニアリング能力も不足していること
  • (4)水素製造、水素供給、水素充填など一連の技術開発が不足していて、水素コストが高いこと

2020年5月に発表された「燃料電池自動車モデル普及に関する通知」は、万鋼氏の指摘を全面的に踏まえた形で政策の変更がなされている。

具体的には、燃料電池自動車の発展のための条件に合致した都市をモデル都市として選定し、補助金を支給することに変更された。燃料電池自動車の開発基盤の有無、これまでの燃料電池自動車走行実証試験実績の有無、水素ステーションなど水素インフラ基盤の有無により、燃料電池自動車の開発・走行実証地域を限定して、その地域に資金を集中して投入し、産業チェーン育成と走行実証による燃料電池自動車の量産規模を確保していく政策を向こう4年間実施する。補助金を獲得するには、あらかじめ決められたモデル目標を達成する必要がある。

中国電動汽車百人会(China EV100)2019のウェブサイト

新たにスタートする燃料電池自動車版「十城千輌」政策

「燃料電池自動車モデル普及に関する通知」で示された燃料電池自動車開発と実証試験を推進する地域・都市の条件は以下のとおり。このプログラムに従って2020年から4年間、中国の燃料電池自動車版「十城千輌」政策が実施されることになる。

1.モデル都市

  • 北京市、山西省、上海市、江蘇省、海南省、湖北省、広東省、四川省(正式決定はまだこれからになる)

2.補助金支給条件

  • (1)産業基盤整備状況
    燃料電池自動車の開発能力、産業化能力(原材料、主要部品、試作、試験・検査等のいずれか)を保有していること。
  • (2)燃料電池自動車の実証運営状況
    燃料電池自動車産業発展計画、行動方針等の支援政策を発表し、これまでに燃料電池自動車50台以上を導入していること。
  • (3)水素エネルギー資源供給状況
    水素インフラ整備、支援政策を発表し、1ヶ所以上の水素ステーション(供給能力500kg以上/日)を建設、運営開始していること。

3.モデル目標

  • (1)関連指標に到達する燃料電池自動車を1,000台以上導入、走行距離が累積で3万km以上/台に到達すること。
  • (2)スタック部材や補機類などの技術開発で得た成果を産業化し、関連企業に開発能力、産業化基盤があり、実証地区において燃料電池自動車500台以上の実証走行を実施すること。
  • (3)水素ステーション15ヶ所を建設、運営すること。
  • (4)水素ステーションの建設、運営、燃料電池自動車の普及とアプリケーション開発、安全性確保等の政策支援体系を構築すること。

こうした条件に基づいて、中国の燃料電池自動車の産業育成は、新たなスタートを切ることになる。

参照

連載:中国における燃料電池・水素エネルギーの開発動向と将来展望

遠藤雅樹
遠藤雅樹

(有)デジタルリサーチ代表取締役。(株)矢野経済研究所でガスタービン、燃料電池などの産業分野で市場調査に従事したあと、2001年に燃料電池市場をフィールドにした市場調査会社デジタルリサーチを設立して代表取締役に就任。主な仕事として「燃料電池新聞」(2004~2016年)、「週刊燃料電池 Fuel Cell Weekly」(2009年~)、「中国燃料電池週報」(2019年~)、「燃料電池年鑑(Ⅰ)日本市場編、(Ⅱ)海外市場編」(2014年)、「定置用燃料電池の現状と将来展望(Ⅰ)家庭用燃料電池、(Ⅱ)分散電源・コージェネ、(Ⅲ)Power to Gas」(2016年)、「Transportation燃料電池の現状と将来展望」(2018年)、「中国の燃料電池(Ⅰ)市場編、(Ⅱ)企業編」(2019年)、「世界の燃料電池(Ⅰ)市場編、(Ⅱ)企業編」(2020年近刊)などの調査レポート、有料ニュースレターを発刊している。2019年から中国の水素・燃料電池の現状調査を開始、上海、北京、仏山、如皋などに足を運んでいる。早稲田大学文学部仏文科卒。

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