COP25マドリッド会議、世界は1.5℃を目指す? 日本にとって重要な二国間クレジットの議論のゆくえは? | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

COP25マドリッド会議、世界は1.5℃を目指す? 日本にとって重要な二国間クレジットの議論のゆくえは?

COP25マドリッド会議、世界は1.5℃を目指す? 日本にとって重要な二国間クレジットの議論のゆくえは?

今年(2019年)12月2日~13日、スペインのマドリッドでCOP25(国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議)が開催される。複数の論点のうち最も注目されるのは、パリ協定における削減目標の引き上げの機運の醸成だ。また、海外での温室効果ガス削減の取り組みをクレジットとして移転するルール作りは、二国間クレジットなどを推進する日本にとって重要なテーマとなる。一方、近年のCOPでは、企業や自治体など非国家アクター(ノンステートアクター)によるサイドイベントが盛んに行われている。COP25の注目点を解説する。

IPCC特別報告書のインパクト

COPにおける議論、交渉で、もっとも大きなテーマといえるのが、「野心的な削減目標(ambitious target)」だ。

COP25の議長であるCarolina Schmidt氏

パリ協定においては、世界の平均気温上昇は産業革命以前に比べて2℃未満、努力目標として1.5℃未満にそれぞれ抑制させることが定められている。しかし、各国の削減目標(Nationally Determined Contribution:NDC)をすべて積み上げても2℃未満には届かず、2100年にはおよそ4℃上昇すると見られている。したがって、各国がより野心的な目標を設定することが必要となっている。

一昨年まではこの議論は膠着状態だった。しかし昨年から議論の雰囲気が変わってきている。要因は2つ、「タラノア対話(促進的対話)」とIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の特別報告書だ。

タラノア対話は、COP23の議長国フィジーによって提案されたもので、議論ではなく、意見・経験を出し合い、共有していくというものだ。日本を含む各国で実施された上で、昨年(2018年)のCOP24でも同様の対話が行われ、報告された。

この対話で明らかになったのは、政府間交渉という枠組みを外した時、各国とも気候変動問題に危機感を持っており、(2℃ではなく)1.5℃未満に抑制することを念頭に置いているということだった。

もう一つのIPCC特別報告書であるが、COPの要請によってIPCCがとりまとめ、昨年10月に公表された。それによると2℃上昇と1.5℃上昇では、気候変動リスクに多大な違いがあるということだった。

象徴的なケースを挙げれば、サンゴ礁への影響だ。2℃上昇では、99%が死滅するが、1.5℃では90%程度の死滅ですむ。そして1.5℃未満に抑制するためには、2050年には温室効果ガス排出量をゼロにしなくてはいけないという。

昨年のCOP24では、タラノア対話の報告やIPCCの特別報告書の扱いは一部の国の反対により大きく扱われなかったものの、サイドイベントも含めたCOP全体の流れとしては、1.5℃に傾いている。

COP24本会議の様子

今年9月に開催された国連気候変動サミット(米国・ニューヨーク)では、アントニオ・グテーレス国連事務総長が気候変動枠組み条約について、各国に2050年カーボンゼロとなる政策をとることを呼びかけた。これに応じて65か国および自治体などが2050年カーボンゼロを表明している。

COP25で注目されているのは、こうした機運に乗じて、各国が削減目標の引き上げにコミットするかどうかだ。すぐに数値目標を出すということにはならないが、来年には各国とも削減目標の再提出が予定されており、そこでの引き上げにつながっていく。

ただし、日本政府についていえば、残念ながら削減目標を見直す体制にはない。したがって、こうした機運に取り残されることが懸念される。

二国間クレジットとワルシャワ国際メカニズムのゆくえ

日本政府にとって、もっとも重要な交渉はパリ協定の6条、いわゆるカーボンクレジットに関するものだろう。

昨年のCOP24では、パリ協定の細則が合意されたが、唯一積み残しとなったのが、6条問題だった。

日本政府が提案する二国間クレジットとは、日本が海外で温室効果ガスの削減を実施したときに、削減した分をクレジットとし、国内の削減に割り当てるというものだ。日本ではすでに国内制度として省エネによる削減をクレジットとする、Jクレジットという制度が運用されているが、これを海外に拡大していくというものになる。

2国間クレジット

論点はいくつかあるが、重要なもののうちの1つはその方法論だろう。ダブルカウントの防止や、事業によって本当に削減できたのかどうかの評価(追加性)などだ。これにより、そもそも二国間クレジットが国際的に認められるしくみとなるかどうか、という点にも関わってくる。追加性についていえば、日本はODA(政府開発援助)を通じて、途上国を支援しているが、こうした事業からクレジットが発行できるかどうかにも関わってくる。また、クレジットの発行にあたって、いわゆる手数料をとり、途上国の支援の資金にまわすしくみもテーマとなる。

とはいえ、日本に限らず各国の産業界は、6条に関する交渉がまとまることを期待している。国際的な削減事業をスタートさせられるかどうかに関わってくるからだ。

この他、気候変動による損失・被害とその対策にフォーカスした、ワルシャワ国際メカニズム(WIM)の包括的な見直しも今回の重要な議題となっている。日本を襲った大型台風をはじめ、干ばつなど異常気象による被害が世界中で起きている。その評価と対策や支援、場合によっては移民ということも視野にいれた対応が必要となってくる。その枠組みは、より被害を受けやすい途上国にとって重要なテーマとなっている。

アメリカ海洋大気庁によると、2018年の米国の異常気象災害で10億ドル以上の損害は14件、合計すると910億ドル(出典:NOAA)

脱炭素をしなければビジネスにならない

非国家アクター(ノンステートアクター)によるサイドイベントは、年々盛り上がりをみせている。特に産業界には、気候変動対策・脱炭素がビジネスになる、あるいは脱炭素をしなければビジネスにならない、という認識が広がっていることも要因だろう。

ビジネスセクターの牽引役となっているのは、金融と貿易だ。

金融についていえば、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の広がりがある。これはそもそも、持続可能ではない企業や事業に投融資しないという考え方が背景にある。例えば、日本に対しては、石炭火力発電所に対する投資が批判されている。だが、そもそも気候変動が進むことで石炭火力発電所の閉鎖を余儀なくされる事態となれば、石炭火力は座礁資産となる。

貿易も重要だ。国連気候変動サミットでは、フランスのマクロン大統領は、気候変動対策に資する貿易の枠組みについて発言している。具体的には、温室効果ガスを大量に排出する国に対しては高い関税をかける、といったようなことだ。

環境関連条約に対し、WTO(世界貿易機関)ルールが優先することはない。つまり、脱炭素に取り組まなければ、世界市場でビジネスできないということにもなりかねないということだ。

硬直した政府間交渉から脱却できるか

米国は、トランプ政権こそパリ協定の離脱を表明し(正式離脱は2020年11月4日になる)ているものの、世界市場にコミットする企業はパリ協定の順守を表明している。

政府間交渉は硬直し、なかなか議論が進まない中、産業界や自治体には先進的な動きがみられるのが、近年のCOPだ。こうした中、やはり最大の注目点は、閣僚級会合が、どこまで削減目標の引き上げにコミットするか、ということだろう。

国連COP 25ウェブサイトより

(執筆:EnergyShift編集部 本橋恵一)

もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

気候変動の最新記事