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国際政治の視点から気候変動を考える

国際政治の視点から気候変動を考える

2021/03/24

これまで半年にわたって、エネルギー問題と関連が深い、中東や米国をめぐる地政学と国際テロについて述べてきた。今回はその区切りとして、清和大学講師でオオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザーの和田大樹氏が、地政学の視点から気候変動問題について検討する。

国際テロとエネルギー安全保障(6)

誰もが気候変動を認識する一方で、残される国際政治での懸念

近年、酷暑やスコール並みの豪雨や台風が日本を襲い、筆者の住む多摩川周辺でも床下浸水が報告されるなど、地球温暖化や気候変動が我々の日常生活を脅かしている。

また、世界でも北極や南極の生態系がおかしくなり、南太平洋などでは海面上昇が進み気候難民(気候変動によって住環境を追いやられる人々)という問題も深刻化している。

今日では、気候変動によって地球がおかしくなっているとの認識は皆が共有することだろう。それに伴い、各国政府やNGOだけでなく、企業も温暖化対策や持続可能な開発、グリーンエコノミーなどを本格的に進め、次世代の人類へ悪影響をできるだけ残さないよう努めている。

しかし、国際政治の視点からみると、気候変動問題に対しては未だに多くの懸念事項が残されている。今回の論考では、国際政治の視点から気候変動を考え、主にどういった課題があるのかを簡単に説明したい。

気候変動で米中は協調できるか

まず、短期的に注目点がある。トランプ政権からバイデン政権になったことで、地球温暖化など気候変動に関する国際政治上の優先順位が大きく転換した

バイデン大統領は就任直後、気候変動対策の国際的枠組み「パリ協定」に復帰するための文書に署名し、“脱トランプ”、“気候変動重視”の姿勢を鮮明にした。バイデン政権は中国を最大の競争相手と位置付け対抗していく構えだが、気候変動などグローバルな課題については中国と協調していく余地を残している。

米中両国は世界最大のCO2排出国であるが、気候変動問題が今後進展するかどうかは、ずばり、米中対立の中でどこまで両国が協調できるかによるだろう。

ちなみに、筆者は非営利シンクタンク言論NPOで「地球規模課題への国際協力の評価」外部委員(筆者は国際テロ対策で参加)を務めているが、国際協調に関する専門家たちの見方は厳しい

例えば、国際協調の現状に対し、専門家たちの41.6%が“国際協調は崩壊しつつある”、19%が“そもそも、これまでも国際協調は機能していなかった”と回答している。また、今年気候変動問題で前進がみられるかとの問いに対して、“大きく前進する”が1.4%、“一定程度前進する”が64.1%、“変わらない”が26.8%になり、バイデン政権に対する期待はあるものの、大きなトリガーになるとの見方は少ない。


バイデン大統領 2021年2月

気候変動に関する先進国と途上国との大きな隔たり

国際政治の世界では、気候変動について先進国と途上国との間で大きな隔たりがある。

簡単に説明すると、日本や米国などの先進国は、“地球温暖化や気候変動が進んでいるから防止していこう”とのスタンスだが、アジアやアフリカの途上国の中には、“これまでの地球温暖化は経済発展を成し遂げた先進国によってもたらされたのであり、温暖化対策は先進国が主導すべきだ”、“我々にも経済発展する権利があり、それを成し遂げる前に環境対策を強化しろとの先進国の言い分には納得できない”といった不満を持つ国々も少なくない

近年、アジアやアフリカでも高い経済成長率を記録し、経済発展や都市化が進む国々も多い。そういった国々で増加する富裕層や中間層からすると、さらなる豊かさを求める声が強まってくるのは自然な流れであり、そういった人々にとっては先進国の考えが“環境>経済発展”に映ることも少なくないだろう。

むろん、持続可能な開発やグリーンエコノミーといったものが全世界的に普及できるのであれば、そういった不満も少なくなるかも知れないが、今後の途上国を中心とする人口爆発を考えると、現実はそう簡単ではないように思う。

筆者も最近、気候変動と安全保障に関する国際ウェビナーに参加したが、やはり途上国の専門家たちからは先進国への不満が多く聞かれ、依然として先進国と途上国との間には大きな隔たりがあるのを強く実感した。

気候変動と紛争・テロの関連性

最後に、気候変動と紛争・テロの関連性である。冷戦後の安全保障研究の世界では、人間にとっての脅威に、貧困や飢餓、疫病や人権侵害、失業などが挙げられるが、実は気候変動もその1つなのだ。

研究上、気候変動と紛争・テロとの間に因果関係がある明確な根拠が示されているわけではない。しかし、気候変動が貧困や飢餓、疫病や人権侵害、失業などあらゆる安全保障上の脅威を拡大させ、それが民族対立や宗教対立、内戦やテロなどを誘発するとの見方は根強い。

また、気候変動が国家間競争・対立を高めるリスクも指摘される。例えば、温暖化によって北極の解氷面積が拡大するなか、米国や中国、ロシアなどの大国は北極海の海底に埋蔵されるエネルギー資源に注目を集めている。

北極海には世界で未発見の石油の13%、天然ガスの30%が眠っているとされる。特に、北極沿岸国ではない中国が2018年に北極白書を公刊するなど強い関心を示しており、今後、温暖化によって姿を変えた北極を舞台とした大国間による資源獲得競争が激しくなる可能性がある。

以上、国際政治の視点から3つの問題を紹介した。むろん、環境開発や環境経済の発展がこういった国際政治の課題をますます払拭していくことを願って止まない。だが、こういった懸念事項も現実として重視し、どうリスクを最少化していくかという視点が、気候変動問題に取り組んでいくにあたって今後さらに重要になっていくだろう。

 

連載:国際テロとエネルギー安全保障

1. 中東に現れる新たな地政学的変化と今後の行方
2.「イスラム国」(IS)指導者死亡から1年 今後のイラク情勢の行方は
3.バイデン政権の中東政策はどうなる
4.アメリカ・バイデン政権の海外戦略を見る 対イラン政策の変化はどうなる
5.カタールとサウジアラビアの国交回復が石油市場にもたらす影響とは
6.ミャンマークーデターを中国はなぜ静観するのか エネルギー安全保障から見えてくる思惑

和田大樹
和田大樹

清和大学講師/ オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー 岐阜女子大学特別研究員、日本安全保障・危機管理学会主任研究員を兼務。専門分野は国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論。日本安全保障・危機管理学会奨励賞を受賞(2014年5月)、著書に「テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策」(同文館2015年7月)、「技術が変える戦争と平和」(芙蓉書房2018年9月)、「2020年生き残りの戦略 ー世界はこう動く!」(創成社2020年1月)など。

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