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日本版グリーン・リカバリーのゆくえ:小泉環境大臣とJCIが意見交換会を開催

日本版グリーン・リカバリーのゆくえ:小泉環境大臣とJCIが意見交換会を開催

2020年06月26日

小泉進次郎環境大臣と気候変動イニシアティブ(JCI:Japan Climate Initiative)は、2020年6月10日、新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした経済活動の停滞からの回復を脱炭素社会への転換に貢献する、「グリーン・リカバリー(緑の回復)」について、意見交換会を開催した。
この意見交換会は、JCIが5月13日に発表した「コロナ危機を克服し、気候危機に挑む『緑の回復』へ」という提言を受け、開催されたものである。会合には小泉環境大臣はじめ、佐藤ゆかり環境副大臣、八木哲也政務官のほか、JCIからはメンバー企業7名と末吉竹二郎代表および事務局3団体が参加した。意見交換会の模様をレポートする。

日本はコロナ危機からどのように経済復興すべきか

新型コロナウイルス危機が及ぼす経済社会の停滞から、どのように回復していくのか。国際社会ではコロナ危機からの経済回復は、ただ単に元の世界に戻るのではなく、パリ協定が目指す脱炭素社会の方向性と合致していなければいけない。脱炭素社会への転換に貢献する経済復興を目指す、「グリーン・リカバリー」というコンセプトが広がっている。
経済回復としてのグリーン・リカバリーが世界的に重要視されるなか、日本はどのような経済復興をなすべきか。JCIメンバー企業のリーダーたちが小泉大臣、そして政府に対し、グリーン・リカバリーに向けた提言を行った。参加者は次のとおり。

環境省
  • 小泉進次郎 環境大臣
  • 佐藤ゆかり 環境副大臣
  • 八木 哲也  環境大臣政務官
JCIメンバー企業(50音順)
  • 青井 浩   丸井グループ株式会社 代表取締役社長 代表執行役員 CEO
  • 大関 洋   ニッセイアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
  • 川崎 素子  富士フイルムホールディングス株式会社 執行役員
  • 鈴木 悌介  小田原箱根商工会議所 会頭/株式会社鈴廣蒲鉾本店代表取締役副社⻑
  • 銭谷 美幸  第一生命保険株式会社 経営企画ユニット部長
  • 三宅 香   イオン株式会社 執行役 環境・社会貢献・PR・IR担当
  • 山下 良則  株式会社リコー 代表取締役 社長執行役員・CEO
JCI代表/事務局
  • 末吉竹二郎  JCI代表、国連環境計画・金融イニシアティブ 特別顧問
  • 大野 輝之  自然エネルギー財団 常務理事
  • 森澤 充世  CDPジャパン ディレクター
  • 山岸 尚之  WWFジャパン 自然保護室 気候変動・エネルギーグループ長

参加者それぞれの意見・要望を紹介していく。

3つの移行により、経済社会を再設計する

意見交換会は小泉大臣の発言から始まった。

小泉進次郎環境大臣

環境省としても新型コロナからの経済社会活動の再開を脱炭素社会への移行、循環経済への移行、そして自立分散型社会への移行、この3つの移行を同時に進める、経済社会の再設計(Redesign)の機運を高めていきたいと考えています。

そうした思いを持っていたところ、JCIのみなさんが経済社会の復興と合わせて、ヨーロッパで議論されているグリーン・リカバリーについて、日本版の方向性をしっかりと出すべきだという、思いを寄せてくれました。国や政府の動き以上に脱炭素型企業として取り組みを進めているのがJCIの企業だと思います。政府、そしてわれわれに対して、コロナ危機からの経済復興策をどのように脱炭素型にしていくべきなのか。提言をしていただきたい。

意見交換会の様子 写真提供:環境省

環境系スタートアップ投資に対する優遇措置拡充を

続いて、JCIメンバー企業から自社の取り組みおよび、グリーン・リカバリーに向けた提言が行われた。

青井 浩 丸井グループ株式会社代表取締役社長 代表執行役員 CEO

丸井グループでは、将来世代にかかわる問題として、気候変動対策などの取り組みを進めています。取り組みを進めるうえで、私たちが重視しているのが若い世代のスタートアップとのオープンイノベーションです。若い世代が起業する環境系スタートアップは、大人世代や大企業にはない新しい発想と力強い推進力を備えているからです。

例えば、再生可能エネルギーに関して、みんな電力に出資し、オープンイノベーションを進めており、新宿マルイが丸ごと再エネに転換したのをはじめ、全国に約30店舗あるマルイの約25%がすでに再エネに切り替わっています。

今後は約700万人いる私どものクレジットカード会員のみなさまへ、再エネへの切り替えを促していきます。 また、脱プラスチックに関して、「アイカサ」というスタートアップに出資し、使い捨てビニール傘のシェアリングサービスを進めるためのオープンイノベーションに取り組んでいます。

しかしながら、環境系のスタートアップへの投資はインパクト投資に近く、経済的なリターンが見込みづらいことが、私たち企業にとって課題となっています。そこで日本独自のグリーン・リカバリーの一環として、環境関連のスタートアップ投資について、減税幅を大きくするなどインセンティブ強化を検討していただきたい。

グリーン・リカバリーの一環として系統網の拡充を

三宅 香 イオン株式会社執行役 環境・社会貢献・PR・IR 担当

新型コロナのような国家危機を乗り越えるときにまず必要なのが国のリーダーシップであり、そのあと、私たちのような民間企業が日常に新しい生活様式を取り入れるという、それぞれが果たすべき役割があると思います。
環境問題も同じで、これは地球規模の危機です。この危機を乗り越えるためには国のリーダーシップ、そして民間企業が実践することでようやく社会を変えていける、と私たちは考えています。

今、私たち企業にとって一番難しいところのひとつが、脱炭素社会の構築です。小売業であるイオンにとって、一番大切なことがエネルギーの確保です。私たちは脱FITの再エネ転換に向けて3つの取り組みを積極的に進めています。そのひとつがオンサイトPPAです。これはイオンの店舗の屋根に太陽光発電を設置し、自分たちで電気を作り、使うという方法です。オンサイトPPAは比較的簡単にできるので、どんどん進めていますが、これだけでは電気がまったく足りません。

そのため、オフサイトPPAが必要です。オフサイトPPAには2種類あり、例えば、うち(自社)の敷地の隣で作った再エネ電力を自分たちで自営線を引いて流す、という自営線・自己託送型のオフサイトPPAがあります。自己託送型は2020年、数ヶ所実現する予定です。

しかし、オンサイトPPAや自己託送型を実施しても電力はまったく足りず、北海道や東北などで作った再エネを系統連系して持ってくる、オフサイトPPAが必要です。ただ、この系統連系型オフサイトPPAは、現状の法整備では系統容量が足りず、不利益がありできない状況です。グリーン・リカバリーの一環として、系統連系の拡充を通じて再エネがより普及するよう、国のリーダーシップを発揮してほしい。

日本では再エネ電力の調達が難しい

山下 良則 株式会社リコー代表取締役 社長執行役員・CEO

世界では、エネルギー消費量の減少や人間活動の停滞により、一時的に大気や河川の汚染が改善されています。これはまさしく現代社会が地球に与えている負荷が非常に大きいということを炙り出したのではないでしょうか。
脱炭素はニューノーマルの重要なテーマのひとつです。ただ、2008年の金融危機の翌年、2009年はCO2排出量が1.4%減少したものの、2010年には5.1%増加しました。目先の経済回復にとらわれ、脱炭素を意識しない経済対策を行うと、再び大きなリバウンドが起こるのではないかと危惧しています。

やはり経済の回復と緑の回復は同軸でなければならない。リコーは2017年、日本企業として初めてRE100に加盟し、脱炭素社会の実現に向け、取り組んでいます。2020年3月には、2030年の温室効果ガス削減目標を従来の30%から63%(2015年比)に上方修正しています。ただ脱炭素に向け、取り組めば取り組むほど、課題が見えてきます。それが海外と比べ、日本における再エネ電力の調達の難しさです。

リコーグループの再エネ電力比率は、欧州で50%を超え、アジアでは40%、中国も30%を超えました。そうしたなか、日本の割合は2%程度です。

環境価値証書の調達も並行して進めていますが、日本の価格は欧州、アジアに対して10倍です。厳しい現実を突きつけられながらの取り組みとなっています。コロナ危機によって、気候変動対策を後退させてはならず、脱炭素社会づくりに向けた機運を高めていただきたい。

グリーン商品運用拡大には個人投資家が不可欠

大関 洋 ニッセイアセットマネジメント株式会社代表取締役社長

資産運用の観点から、グリーン・リカバリー、気候変動に対応する場合、間接的アプローチと直接的アプローチの2つがあります。

まず間接的アプローチの代表的なものが、企業との対話を通じた働きかけ、エンゲージメントです。2020年3月に再改定されたスチュワードシップコードによって、気候変動対策をより考慮した対応が求められています。気候変動関連リスクと機会が財務に及ぼす影響やシナリオ分析など、投資家は企業のサステナビリティを評価・分析するための情報開示を要請し、経営層との対話を通じて、取り組み事例や将来に向けた方針などを聞いています。
こうしたエンゲージメントは、気候変動対応を投資家と企業が一体となって推進するドライバーのひとつになっています。

2つ目が脱炭素社会の実現に資するグリーン運用商品の開発です。私どももESGファンド、SDGsファンドを開発・運用し、ファンド規模は約3,000億円になりましたが、まだまだ規模としては小さい。個人投資家による運用拡大が必要です。

日本の個人金融資産は1,903兆円、そのうち現預金が1,008兆円です。日本経済に対する将来的な悲観論もありますが、この膨大なストックが日本の強みのひとつになります。こうした個人投資家が持つ、膨大な資金を脱炭素社会の実現へインパクトを持つ運用商品に振り向けるためには、政策対応が必要です。その際、重要なのが、幅広い資金が着実に脱炭素社会の実現につながる投資に振り向けられることです。それらを勘案しますと個人投資かつ積立型のグリーン運用商品にインセンティブを付与することで、投資拡大を加速させることができると考えています。

直接的アプローチにおいては、アセットオーナーが直接、脱炭素社会の実現に資する投融資を行います。再エネをはじめとした、長期プロジェクトに長期で投資できる投資家の存在が不可欠です。その代表が年金基金、生保、個人ですが、日本では年金基金によるESG投資が進んでいないという印象があります。
UNEP(国際連合環境計画)は2015年にESG課題を考慮しないことは受諾者責任に反すると一段とトーンを強めた報告書を出しています。日本でもUNEPのレベルにまで踏み込むことができれば、年金基金によるESG投資が一段と加速するだろうと思われます。

脱炭素社会の為に今こそ、政府の長期戦略と政策を示すべき

JCI企業に続き、末吉竹二郎JCI代表、そして事務局のCDPジャパン、自然エネルギー財団も意見を表明した。

末吉竹二郎 JCI代表、国連環境計画・金融イニシアティブ特別顧問

今日のテーマであるグリーン・リカバリーは、これから始まる話ではなく、世界ではすでに始まっていた議論です。
今回のコロナ危機でどうなるか、危ぶまれましたが、コロナ危機がむしろグリーン・リカバリーへの流れを一層押したと思います。理由は簡単です。いずれもサステナブルな社会をつくらなければ、やっていけなくなったという共通認識があるからです。

世界の企業の取り組みは、非常に先鋭に、激しいものになってきています。例えば、BPやシェルなどエネルギーの攻撃を受ける企業は何を始めているかというと、「創業以来の大掃除をするんだ」、「会社を全部入れ替えるくらいのことをやるんだ」と、言い始めています。また、150兆円の時価総額を持つマイクロソフトは「カーボンのネットゼロじゃない、カーボンマイナスだ。1975年の創業以来、排出してきたCO2を全部チャラにする」と言い始めています。

金融の世界でも、ニューヨークの保守本流が姿勢を変え始めています。ブラックロックは「金融も気候も根底から変わる時代が始まった」と言い、BNPパリバはOECD加盟国の取引先に対して「2030年までに石炭から手を切れ」と言っている。JPモルガンは自ら石炭と手を切るという。

彼らはなんとしてでも他社より先にいきたい。CEOが覚悟をし、より難しい、大胆な目標を掲げることで、自分たちの企業を引っ張っています。

では、なぜこうしたことが海外では可能なのか? それは、それぞれの国の中央政府が、きちんとした戦略を持ち、政策を出しているからです。もうひとつは、社会の懐が深く、社会には何が不足し、何を求めていくべきなのか、という深い議論が社会の中でされていることです。

そして、金融が大きく変わり始めたことがあります。お金の流れが変われば、ビジネスが変わります。こうした相互作用がよい結果をもたらしていますが、やはり中心にあるべきものは、中央政府の長期戦略とそれに基づく政策です。

私は長年、日本企業を見てきましたが、日本政府の支援のない日本企業を非常に気の毒に思ってきました。政策支援がある中で、国際競争をする海外企業に対し、日本企業は孤立無援の中で競争を強いられている。ぜひ、グリーン・リカバリーの中でこうした状況を変えていただきたい。

カーボンプライシングの導入議論を

森澤 充世 CDPジャパン ディレクター

日本における特殊性は再エネです。脱炭素に向かうにしても再エネが問題になっています。世界中の国々でほぼ同時期に再エネ需要が拡大しましたが、電力自由化と再エネ需要の拡大が同時期に起こったのは日本だけです。電力自由化が進んだ国においては、再エネがどんどん普及しています。
2020年、日本企業38社がCDPのAリストに入り、世界最大となったわけです。脱炭素に進んでいく、という環境大臣のリーダーシップがあれば、日本は環境先進国に戻れます。リーダーシップを発揮していただきたい。

大野 輝之 自然エネルギー財団 常務理事

IEAは2020年のCO2排出量は8%減少すると推計しています。
しかし、リバウンドしてしまう恐れがあります。大事なことはエネルギーの供給方法を変えることです。ひとつは再エネを増やす。もうひとつ重要な問題は、日本の石炭火力発電を減らすことです。
石炭火力の輸出を減らすだけではなく、日本国内の石炭火力を減らすことを、小泉大臣のイニシアティブで進めていただきたい。
英国ではカーボンプライシングを導入した結果、石炭火力の導入メリットがなくなり、コロナ禍の2ヶ月間、1kWhも発電しませんでした。日本でもカーボンプライシングの議論を進めて、エネルギー供給の方法を変えることをグリーン・リカバリーの中心としてやっていただきたい。

環境省、グリーン・リカバリーを全力で旗振り

JCIメンバーからの提言を受け、最後に小泉環境大臣は次のように語った。

小泉環境大臣

大臣就任時には、2050年ゼロカーボン宣言をした自治体は4自治体だけでしたが、今は約100自治体が宣言し、人口規模では6,300万人まできました。
国際社会においても、ノンステート(非国家)アクターの役割は非常に評価が高く、自治体の宣言を増やしていくことが、再エネ需要を地域で掘り起こすことにつながっていきます。エネルギー政策を所管していない環境省としても、再エネを導入促進するひとつのアプローチだと考えています。さまざまな地域で再エネの導入がしやすくなるような環境づくりを後押ししていきたい。

今日のひとつの合言葉は「決してリバウンドをさせない」。また、コロナにはいずれワクチンができるでしょう。しかし、「気候変動対策にはワクチンはない」。特効薬がないからこそ、今回のコロナ危機で加速させなければいけない。グリーン・リカバリーを政府としていかに大きな経済社会の再開に向けた柱として位置づけていけるか。環境省として全力で旗を振っていきたい。

写真提供:環境省

末吉JCI代表は、「JCIが支援するノンステートアクターズと政策決定をするステートアクターズによるオープンかつ、双方向のダイアローグから、日本政府の新しい政策が生まれてくる。そのきっかけが始まった」と語ったが、日本版グリーン・リカバリーは実現するのか。そのゆくえに注目が集まる。

(Text:藤村 朋弘)

藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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