Energy×Sportsによる新価値創造 -エネルギー領域での国内外スポーツ活用事例5選- | EnergyShift

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Energy×Sportsによる新価値創造 -エネルギー領域での国内外スポーツ活用事例5選-

Energy×Sportsによる新価値創造 -エネルギー領域での国内外スポーツ活用事例5選-

2020年09月02日

ARTデザイン仮想現実とエネルギーとの関係をそれぞれ実例を交えて紹介してきた好評シリーズ。今回のテーマは「スポーツ」だ。人々の根源的な活動の根にある「運動」と、エネルギーとはどのような関係があるのか。エネルギー診断クラウドサービス「エネがえる」の樋口悟氏が最新事例から解読する。

SOIP(Sports Open Innovation Platform)とエネルギー

日本のスポーツ庁は、「国内スポーツ市場規模を、2012年の5.5兆円から、2025年までに15兆円に拡大する」という壮大な目標を掲げている。そこには「Sports Open Innovation Platform(SOIP)」と呼ばれる戦略があり、スポーツ×他産業の融合がキーワードとなっている。

事業会社の視点で見ると、スポーツには大きく3つのビジネス的価値がある。「エンターテイメント性(人々を熱狂させる力)」「情報発信力(社会を巻き込むアスリートやクラブの力)」「ハブ機能(スタジアムを含む地域を繋ぐ力)」だ。

エネルギー業界を見渡すと、大手・新電力各社がJリーグやプロ野球、バスケットボールチームなどとの提携による共同マーケティングにチャレンジしている。

これらのトレンドに注目し、本記事では海外に目を向け「Energy×Sportsによる新価値創造」のヒントになるような5つの事例を紹介する。

スポーツ庁 スポーツオープンイノベーションプラットフォーム(SOIP)推進会議(第1回)配付資料より

5つの海外事例と応用アイデア

MORRO DA MINEIRA

事例01|世界初の「人力発電」サッカースタジアム

MORRO DA MINEIRA(モーロ・ダ・ミネイラ)(ブラジル/リオデジャネイロ)

概要

モーロ・ダ・ミネイラのスタジアムは、2014年、リオデジャネイロのファベーラ(スラム街)に住む20万人のためにロイヤル・ダッチ・シェル社の協力を得て総工費約10万ドル(1,150万円)で建造された。パネルを踏むだけで電力を生み出すPavegen社*の「床発電システム」の技術を活用。人工芝の下に埋められた200枚以上のキネティックタイルと6つのLED照明により、選手の動きによる振動がスタジアムを照らすための電力に変換されるという仕組み。
1歩あたり7Wを発電し、踏まれないときはソーラーパネルとして出力を補う。Pavegen社のタイルは発電すると同時にそのステップに関するデータも収集することで施設オーナーに付加価値を提供できるという。

モーロ・ダ・ミネイラからの応用アイデア

コンセプトは、「Power To The People」、日本語で言うならば「元気玉」だ。Pavegenはこの代表的な事例をきっかけにすでに世界36ヶ国のスマートシティの開発や小売店、交通のハブ、そして教育機関などに横展開しているという。スポーツと電力・エネルギーを繋ぐ技術を「Power To The People」や「元気玉」というコンセプトで繋ぐ、具体的にはスタジアムや体育館を場として実装する。そんな取り組みは他技術でもいろいろと具現化しやすいだろう。

*Pavegen(床発電システムの技術提供)

Forest Green Rovers

事例02|世界No.1のサステナブルなサッカーチーム

Forest Green Rovers(英国/グロスタシャー)

概要

Forest Green Roversは、2010年、FIFAから世界一グリーンなサッカークラブとして認定された世界一サステナブルなサッカーチーム。英ヴィーガン協会からの認定で世界初の「ヴィーガンなフットボールクラブ」とも呼ばれる。クラブ会長のDale Vince氏は、グリーンエネルギーを推進する英国の新電力Ecotricity社の創業者であり、自身もヴィーガンである。
ホームスタジアムであるニューローン・スタジアムは、ピッチにオーガニック芝を世界で初めて採用している他、電力は100枚のソーラーパネルで賄われる。太陽光発電で動くロボット芝刈り機でピッチのメンテナンスが行われ、雨水もリサイクルされる。選手には完全菜食主義の食事療法を採用し、試合当日には選手や観客にヴィーガン・メニューが用意され、肉類の持ち込み禁止。そのためにヴィーガン食品をつくる関連会社 Devil’s Kitchen を設立。英国の学校給食や大学の学生食堂向けに年間10億食以上の提供を目指すなど徹底している。

Forest Green Roversからの応用アイデア

日本でもコメダ珈琲がヴィーガン認証取得のヴィーガン専門業態「KOMEDA is □」を銀座にオープンし話題を呼んでる。隠れた巨大市場とも呼ばれるヴィーガン市場の急成長を背景に、日本でもヴィーガンを体現し、スポーツとエネルギー領域を跨ぐスタートアップや起業家が近いうちに出てくることでしょう。素材やサプライチェーン、働き方を含めたヴィーガン志向の太陽光モジュール、蓄電池、新電力など事業開発の方はリサーチしてみてはいかがでしょうか?

SportsArt

事例03|発電型フィットネスマシン製造

SportsArt (台湾・米国)

概要

SportsArt社は、創業40年以上の台湾のフィットネス機器メーカー。運動しながら発電できる「ECO-POWR Line」と呼ばれるトレッドミル(ランニング、ウォーキングマシン)やクロストレーナー、フィットネスバイクを世界各国で販売している。日本では富山県高岡市の株式会社フジモリ*が取り扱いをしている。
SportsArt社の「ECO-POWR」テクノロジーを継続的に利用すれば、他社製品に比べて年間900ドル近くの節約が見込めるという。値段は一式1万ドル程度。スポーツジムや介護施設、大学向け、家庭用モデルも展開中。

行動経済学で著名なダン・アリエリー教授は、「忙しい労働者にとってジム通いは難しいが、自身の発電量が数値化されればやる気が上がり、行動を起こすきっかけになるかもしれない。たとえ、自分自身がエネルギーを消費し、その結果を見ているにすぎないと思わせるだけにしても」と深い洞察を述べている。

SportsArtからの応用アイデア

日本国内における「防災・停電回避のための自立分散型電源」および「医療費削減のための健康促進機器」を繋ぐ一石二鳥ソリューションとして導入できないか?
「通常時:健康促進&電気代削減、非常時:停電回避」というコンセプトの健康と安心を両取りできる新カテゴリーのフィットネス商品を開発しジャパネットたかたで拡販できないだろうか?

*株式会社フジモリ|富山県高岡市 自転車 フィットネスマシン販売 | 自転車とフィットネス機器を通じて環境と体に優しい暮らし。https://fujimori-r.com/

Green Sports Alliance(GSA)

事例04|スポーツによるSDGs実現で、世界最大コミュニティを形成する

Green Sports Alliance(GSA)(米国/ポートランド)

概要

グリーンスポーツアライアンス(GSA)は、2010年にマイクロソフト共同創設者ポール・アレン氏(故)が米国で設立した一般財団法人。北米中心にNHL、MLB、NBA、NFL、MLSなど15団体以上のプロスポーツリーグに加えて、プロ・アマのチーム、スタジアムなどの施設管理企業など計600を超えるメンバーが加盟している「スポーツ×SDGs」の分野で世界最大のコミュニティだ。

GSAは、スポーツに関わるあらゆる関係者(クラブチーム、球場等の施設、関連企業、行政など)に、スポーツによる「SDGs実現」(社会課題解決)への挑戦と、それを継続するための「経済効果の創出」を両立・推進させる各種プログラムを提案する。

たとえば、NBAのポートランド・トレイルブレイザーズは、2010年の本拠地モーダ・センター改修時にプロスポーツ施設としては米国で初めて建築物に関する国際的な環境認証「LEED」のGOLD認証を取得。約6万5,000ドルの費用をかけて認証取得に取り組んだ効果として、水・エネルギー使用や廃棄物処理の分野で年間5万ドル以上のコスト削減につながり、累積400万ドル以上の経済効果を生んでいる。そのほか、2,000トン/年のCO2排出削減、モーダ・センターのカーボンフットプリントの約70%を占めるファンや従業員の移動によるCO2排出を抑制するために、ポートランド市および交通局と連携して公共交通手段や自転車の利用を促進。10年かけてファンの公共交通手段利用率を12%から60%に向上させた。

グリーンスポーツアライアンスからの応用アイデア

2017年12月に日本でも一般財団法人グリーンスポーツアライアンスが設立され活動が始まっている。大規模なスポーツスタジアムはもちろん地域の小さなグラウンドや倉庫等も当然ながら今後のレジリエンス強化のための重要な避難拠点であり太陽光・蓄電池などの設置が見込まれる拠点となることは間違いない。グリーンスポーツアライアンスと日本の太陽光・蓄電池・新電力などエネルギー関係者が、新しい価値を創造できる分野は数多いのではないだろうか?

Uncharted Power

事例05|発電型サッカーボールから事業転換した再エネ技術のスタートアップ

Uncharted Power(米国)

概要

米Uncharted Powerは、2011年にナイジェリア系アメリカ人のCEOジェシカO.マシューズが設立した再生可能エネルギー技術のスタートアップ。ジェシカはハーバード大学在学中にクラスメートと、アフリカのオフグリッドの村の電気をまかなうためのSoccketと呼ばれる発電型サッカーボールを発明した。

その後、Soccketで得たインスピレーションをもとに再生可能エネルギー企業であるUncharted Powerを設立。スマートで持続的なインフラ開発(歩道や高速道路など)のためにエッジ側(舗装モジュール)で発電・通信ができる先端舗装ソリューションを提供している。

2020年、そのビジョンと事業性に共鳴した元NBAのレジェンド、マジック・ジョンソンが取締役として経営参画。Uncharted Powerの製品を米国のコミュニティに拡大し、提携先の開拓などを支援している。

Uncharted Powerからの応用アイデア

室内光、振動、廃熱、体温、電磁波等のエネルギーを電力に変換する発電方法は環境発電(エネルギーハーベスティング)と呼ばれ、日本のベンチャー企業も複数チャレンジしている。Uncharted Powerや前述のPavementなど振動を含む環境発電とスポーツを組合せた価値創造はメディアやアスリートの注目を集めやすい。電力供給に困っているエリアはアフリカやブラジルのファベーラといった未電化地域に限らない。日本でも暗い公園でサッカーや野球、あるいはダンスなどの練習に励む少年は数多い。彼ら彼女らをスポーツ業界とエネルギー業界の提携に加え、地方自治体や地域の複数スポーツ団体を巻込みながら支援し、環境発電と電気小売を組合せながら自社の顧客獲得やマーケティングにも繋げるような取り組みは新しい価値の創造に繋がるのではないだろうか。

エネルギーとは、突き詰めればスポーツそのもの

コロナ禍で世界的なスポーツイベントや地域の人々の外出制限が相次いでいる。だが、古来より人々を熱狂させてきたスポーツの人のココロを動かすパワーは偉大だ。

世界の動きやスポーツ庁の動きを見ていても、2020年以降、エネルギー産業とスポーツ産業、スポーツチームやアスリートとの共創は活発化していくだろう。エネルギーとは突き詰めれば運動そのものであり、人が動くところにエネルギーは生まれ、エネルギーを感じる場所に人が集まる。本来、エネルギーとスポーツは出会い系アプリなど不要の、運命の赤い糸で結ばれた相性抜群のカップルなのである。

参照

連載:Energy×X

樋口悟
樋口悟

国際航業株式会社エネルギー部デジタルエネルギーグループ。エネルギー診断クラウドサービス「エネがえる」担当。1996年東京学芸大学教育学部人間科学課程スポーツコーチ学科卒業。1997年ベルシステム24に入社、2000年大手上場小売企業グループのインターネット関連会社で最年少役員に就任。2011年に独立起業。大企業向けにSNSマーケティングやアンバサダーマーケティングを提供するAsian Linked Marketingを設立し30以上の大手上場企業のプロジェクトを担当。5年で挫折。2016年国際航業株式会社新規事業開発部に入社しエネルギー領域の事業開発を担当。

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