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パリ協定5周年に思うこと 350Japan

「画期的」だったパリ協定、5周年に思うこと 350Japan

2020/12/18

1992年に発効した気候変動枠組み条約においては、先進国と途上国との間の「共通だが差異ある責任」という考え方が取り入れられている。2020年の現在では、先行世代と若者との間でも同じ考え方が成り立つ。温暖化する未来を生きることになるかもしれない、若者たちは何を思うのか。350Japanのスタッフによる連載コラムの第一回をお届けする。

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画期的だったパリ協定の採択

2020年12月12日はパリ協定5周年でした。この協定では、世界の平均気温を産業革命以前と比べ2.0℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすることが合意されています。

現在、世界の平均気温は産業革命以前からすでに1.1℃上昇しています。すでに、地球温暖化を背景とした異常気象が増加しています。では、平均気温を下げることはできないのか?

大気中のCO2などの温室効果ガス(GHG)の濃度が高くなると、気温が上昇するため、地球温暖化が起こります。

現状はGHG排出の方が森林などによる吸収量を上回っているため、大気中のGHGの濃度が上昇を続けています。しかも今すぐGHG排出を止めることができないので、今の平均気温を下げることができません。

つまり、ある程度の気温上昇はもはや避けられない状況です。したがって、現在の問題は、その気温上昇をどこまでに抑えるか、ということになっています。

地球温暖化の解決に関しては、最新の科学的知見を報告するIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の1988年の設置や、1997年に採択され先進国のみにGHG排出削減を義務付けた京都議定書など、様々な取り組みがされてきました。しかしそれでも、地球温暖化の原因であるGHGの排出は増加を続けました。

また、パリ協定採択以前の国際交渉では、化石燃料を燃やしてGHGを排出して経済発展したことで温暖化の原因を作った先進国と、これから経済発展のために排出せざるを得ない発展途上国との公平性の問題(気候正義)があり、合意を取ることが困難でした。

そういった対立がある中で、2015年のCOP21(気候変動枠組み条約第21回締約国会議)におけるパリ協定の採択は、先進国と発展途上国の196ヶ国が合意するという画期的なものになりました。


Heads of delegations at the 2015 United Nations Climate Change Conference in Paris.

2.0℃目標から1.5℃目標へ

各国の合意を取り付けるために、パリ協定におけるそれぞれの国の削減目標は、気温上昇の目標から逆算して割り当てるのではなく、自主的に設定することに落ち着きました。

その結果として、各国が国連に提出した削減目標は、現状ではすべての国が達成しても、3.0℃の上昇になると分析される状況でした。しかも残念なことに、各国がその目標を遵守していないためにGHGの排出はなおも急激な増加を続けており、このままの状況が続けば世界の平均気温が4.8℃上昇してしまうという予測もあります。

因みに、気候正義には上述の経済成長段階の観点からの不公正だけでなく、地球温暖化による異常気象が発展途上国に、より大きな損害を与える不公正や、若い世代は排出の責任が小さいにもかかわらず将来大きい影響を受けるという世代間の不公正、異常気象や食料生産が経済的に貧しい人たちをさらに追い詰めるという経済格差に関する不公正があります。

また、先進国が消費している商品が途上国で生産されている場合、GHG排出の主体は途上国ですが、大きな恩恵を受けるのは先進国だという不公正もあります。このように温暖化の解決には先進国に大きな責任があります。

パリ協定発効後の2018年に、2.0℃上昇と1.5℃上昇の場合を比較した、IPCCの「1.5℃特別報告書」が提出されました。

これは本当に衝撃的な内容でした。例えば1.5℃ではサンゴ礁の消失が70~90%であるのに対し、2.0℃では99%以上が消失すると予測。また、生物種の生息域の消失については、1.5℃と2.0℃では、昆虫の場合6%消失が18%消失に、脊椎動物は4%消失が8%消失に拡大すると分析されています。

この報告以来、世界は1.5℃上昇に抑える方向に転換しつつあります。そのためには2050年に、GHGの排出をネット・ゼロにする必要があり、菅首相のネット・ゼロ宣言で日本もやっと土俵に乗りました。

世界最大の排出国である中国も2060年ではありますが、ネット・ゼロを発表。米国の次期大統領バイデン氏も、トランプ大統領が離脱したパリ協定に復帰し、温暖化対策を進めることを宣言するなど、世界的に脱炭素社会への動きが加速しているように見えます。

「ネット・ゼロ」宣言はすでに127ヶ国(世界のGHG排出量の63%)が表明し、宣言通りに実施された場合、最も楽観的な見通しで2.1℃の気温上昇に抑えられる可能性が今年12月に示されました。それでも、1.5℃との乖離はいまだに大きく、これらの宣言が具体的な政策などに落とし込められ、実施されるまでは全く楽観視できない状況です。

2050年ネット・ゼロには、2030年GHG45%削減が必要

多くの国がパリ協定発効後でも解決を先送りしてきた歴史を考えると、より近い時期、具体的には2030年を目指した削減目標と実行計画が、各国の真剣度を見る試金石になります。現時点でEUは55%、英国は68%の削減を発表していますが、日本は26%という不十分な状況です。

2050年ネット・ゼロ実現のためには、2030年にGHGの45%削減が必要です。下図はそれを達成するための2020年から2030年までの削減率の比較です。


国連環境計画「排出ギャップレポート2019」

上図は今から削減を始める場合で、毎年、対前年比で7.6%の削減をする必要があります。しかし、もし今までの排出を4年間放置すれば、2030年の目標を達成するためには、下の図のように2025年から毎年15.4%の削減を続けなければなりません(国連環境計画「排出ギャップレポート2019」)。これは実現不可能なシナリオだと思われます。


国連環境計画「排出ギャップレポート2019」

7.6%と言っても簡単ではなく、コロナ禍で経済が低迷しても、世界のGHGの削減は7%と試算されています。来年さらにそこから7%以上の削減となれば、経済や社会の在り方を大幅に変革しなければならないのは自明です。

このシナリオの比較で分かる通り、もう無駄にする時間はありません。従って、現時点で実用化されている技術に基づいた計画を立てなければ、将来当てにしていたイノベーションが実現しないときに目標が達成されないことになります。

各国には、自国だけではなく世界全体のGHG排出を念頭に置いた計画が求められます。例えば、日本政府は英・独・仏などにならい、2030年代前半にガソリン車の新規販売を禁止する方向です。

それぞれの国において、新車は電動自動車や燃料電池車(日本はハイブリッドも含む)に置き換わりますが、その電気や水素が化石燃料の採掘や輸送、燃焼を経て製造されていたら、GHGの大幅削減にはなりません。

また、日本や中国や韓国は、海外で石炭火力発電所の新設を計画していますが、これもGHGを大量に排出することになり、地球温暖化の制御に全く逆行しています。日本国内でも「高効率」と呼ばれる石炭火力発電所(高効率でも通常、LNG火力の2倍のGHGを排出する)の新設が計画されています。

キャンペーン「あと4年、未来を守れるのは今」

この切迫した状況に基づいて、当団体をはじめとする気候関係のNGOや、地域で自然エネルギーを普及する市民団体、アウトドアスポーツ・プレイヤー、脱原発の活動を行う団体、若者団体など67団体が呼びかけて、今年12月10日に「あと4年、未来を守れるのは今」というキャンペーンを開始しました。

政府は今年10月からエネルギー基本計画の改定作業に入っています。キャンペーンの第一弾は、政府の改定に対し、市民の広範な意見を取り入れること、2030年までに50%以上の排出削減をすること、原発や石炭火力に頼らず再生可能エネルギーに転換することなどを求める署名です。

世界は、欧州各国を中心にGHGの削減目標を上積みする傾向にありますが、その背景の一つにはスウェーデンのグレタ・トゥンベリさんが始めた大規模な学生や市民の運動があります。

日本はこの第二の産業革命ともいえる変革を前に、世界のリーダーになれるかどうかの岐路に立たされています。

市民の力で、次世代に安心、安全な地球環境を残すとともに、サステナブルなビジネス分野で日本企業が活躍し、また災害に強く、レジリエンシー(回復力)の高い地域社会を構築するためにも、市民の声を結集する機会を創っていきたいです。

署名はこのリンクから簡単にできます。
http://ato4nen.com/皆さんのご署名と拡散をお願い致します。


あと4年 未来を守れるのは今 プレスリリースより

350.org Japanリレーエッセイ

横山隆美
横山隆美

350 Japan代表 1976年東京大学経済学部卒。新卒で米国保険グループであるAIGに入社。その後1992年から25年に亘り、AIG傘下の、アメリカンホーム保険会社、AIU保険会社、富士火災海上保険(現:AIG損保)の代表者を歴任。元々環境問題に関心のあったことに加えて、米国人の同僚の「立派な市民となるためには、仕事人の責任、家庭人の責任、社会人の責任を果たすべきだ」という言葉が胸に刺さり、2017年末退任後、「これがすべてを変える」の著者ナオミ・クラインが当時理事をしていた、国際環境NGO「350.org」を知りボランティとして活動を開始。2020年から日本支部の代表を務める。 350.orgとは ニューヨークに本部を置く国際環境NGO。世界約180の国と地域で気候危機の解決に取り組んでいる。(1)新たな化石燃料関連プロジェクトを止める、(2)既存の化石燃料ビジネスに対する資金提供を絞る(ダイベストメント)ことで化石燃料使用を止める、(3)再生可能エネルギー100%の社会への公正かつ迅速な移行を目指す。という3つの目標を掲げ、それらを草の根の市民活動で達成しようというのが特徴。 https://world.350.org/ja/ https://350jp.org