2019年9月、世界中で気候変動対策を国に求める国際的な同時ストライキ、「グローバル気候ストライキ」(日本では気候マーチ)が行われた。9月20日だけで400万人以上の人々がこの気候変動抗議行動に参加した。中心人物であるグレタ・トゥーンベリさんはメディアで発言し、各国政府や国連にプレッシャーを与えた。11月のCOP25の直前にもこの抗議行動は行われた。そして今、世界はコロナウイルスで一変した。しかし、抗議行動はデジタルに移行して続いている。2020年4月にはアースデイとともにオンライン上で抗議行動を行った。Fridays For Futureの現在を追った。
私たちの家は(まだ)燃えている
2020年4月22日、Youtubeに一本のビデオが投稿された。約1分間のその映像は、ホラーそのものだった。朝6時に目覚まし時計が鳴り、一日が始まる。家族は目を覚まし、朝食を食べ、学校に出かける子どもたちをにこやかに見送る両親。しかし、その家は大火事なのだ。今にも焼け崩れるだろう。
このビデオはFridays For Futureの新しいキャンペーンビデオだった。キャンペーンタイトルは「私たちの家は燃えている」。一週間で7万回以上再生された。
コロナウイルスの猛威により、昨年1千万人以上を動員したFridays For Futureの運動も変更を余儀なくされている。なにしろ、デモができない。大規模なデモはグレタ・トゥーンベリさんが参加した3月6日のブリュッセルでの気候ストライキから行われていない*。この3月6日は、グレタさんの「気候のための学校ストライキ」、81週目の金曜日でもあった。
*3月5日、トゥーンベリさんはヨーロッパ会議で演説を行った。バングラデシュでは3月10日に集まりがあり、その後もアフリカなどでは小規模の集まりがあった。
デジタルストライキの始まり
3月11日、トゥーンベリさんのTwitterとFacebookではじめて「#DigitalStrike」「#ClimateStrikeOnline」というハッシュタグが使われた。
「私たちは、危機を危機として扱わなければ、それを解決することはできません。これはすべての危機に言えることです。(略)私たち若者はウイルスの影響を受け難いといわれていますが、最善と思われる社会への行動には、最も脆弱な人々と連帯して行動することが不可欠です。(略)私たちは変化を主張するための新しい方法を見つけなければなりません。(集まれる)数は少なくても、意識を保ちながら、毎週の行動につなげましょう。今後はデジタルストライキに参加できます」。(3月11日の投稿より)
この日は、WHOが新型コロナウイルスがパンデミック相当であると表明した日でもある。同日までに、世界五大陸すべてで11万8千人の感染者が出て、4,291人が亡くなった。その後4月に入ると世界累計で感染者は100万人を超えた。
3月13日には82週目の「学校ストライキ」がトゥーンベリさんの自宅で行われ、彼女の隣に2匹の飼い犬がいる写真が投稿された。翌週3月20日も自宅でのストライキ。各国では集会の写真ではなく、参加者ひとりひとりが自宅近くでプラカードを持つ写真が投稿された。
3月25日の投稿では、13日と20日のストライキが自宅からだった理由が明かされる。「COVID-19のテストは受けていないが、感染していた可能性が非常に高い」。
彼女はすでに回復していること、咳や疲れはあったものの、以前にひいた風邪よりも軽症であったこと、一緒にブリュッセルにいった父親もかかっていたこと、母親や妹とは別のアパートで自主隔離していたことを明らかにしている。そしてこれを明かすことで、ウイルス保持を知らずに、他の人に感染させるかもしれないリスクを知って欲しいと書いている。
回復してから、トゥーンベリさんは活動をデジタルの領域で広げていく。3月28日にはTalks For Futureというオンライン中継の第1回目を行った。彼女に加えて米ジャーナリストのナオミ・クラインさん、WHO気候変動チームリーダーのDiarmid Campbell-Lendrumさん、ギリシャの16歳の気候変動活動家、Ariadne Papatheodorouさんの4人によるミーティングで、再生回数はyoutubeで35,000回、Facebookで28,000回を超えている。コロナウイルスへの対応と、環境対策の両立や途上国の状況、コロナウイルスと気候変動危機から世界はどのように回復できるのかが討論された。
「最善の方法ではないにせよ、世界のネットワークを活用するべきでしょう。気候危機はコロナウイルスと同じで国境はありません。COVID-19の発生後に"ノーマル"に戻るという話が多いが、ノーマルは"危機"だったのです」(ナオミ・クラインさん)。
Naomi Klein & Diarmid Campbell-Lendrum | Talks For Future #1アースデイとグローバル気候ストライキの成功
4月22日、この日は世界中で行われる環境イベント「アースデイ」の日で、今年は50周年にあたる。Fridays For Futureは、アースデイと合同でさまざまなイベントを22日からその週の金曜日である24日まで行った。
アースデイの今年のテーマは「気候行動:CLIMATE ACTION」。2020年11月に予定されているCOP26とパリ協定への「野心的な」コミットメントを世界に求めるこのテーマは、Fridays For Future、そしてグローバル気候ストライキにも合致した。
4月24日はもともとアースデイに合わせてグローバル気候ストライキを予定していたのが、グローバル「デジタル」ストライキになった。
「多くの国で大きな抗議行動を行う予定でしたが、屋外でのデモはありません。しかし、気候危機がそうでないように、私たちの抗議もなくなるわけではありません」トゥーンベリさんはそうFacebookに投稿した。
例年では多くの人が集まるアースデイも、今年の参加はデジタルミーティングだった。オンラインイベント、zoomミーティング、アーティストパフォーマンス、SNSでの参加などにより、22日だけで世界192ヶ国中で数千万から1億を超える人々が参加した。
同日はノーベル財団主催のトゥーンベリさんとスウェーデン出身の環境学者、ヨハン・ロックストロームさんとのオンラインイベントもあった。2万を超える視聴があり、その中で彼女は「今の私たちには一度にふたつの危機に取り組む必要がある」と語った。
24日にはグローバル気候ストライキのイベントが世界中で行われた。Fridays For Futureの24時間ライブストリームには世界中の活動家から報告があり、1万人以上の視聴者が参加した。
特筆すべきはベルリンの活動だ。ライブストリームに23万の視聴者があり、ツイート数は4万を超えた。ドイツ議会の前に、1,000を越えるプラカードを人の替わりにおいて抗議を行ったのだ(ハンブルグでもこのプラカードデモは行われた)。
ベルリンの「プラカードデモ」日本でも全国のFFF支部や350.org JAPAN などが、さまざまなオンラインイベントを行った。ツイートマーチと呼ばれるSNSで一斉に同じハッシュタグを投稿するアクションでは、「#気候も危機」が日本のTwitterトレンド2位になった。モデルの水原希子さんもインスタグラムの自身のアカウントから参加した。
日本で行われた「デジタル気候マーチ全国中継」水原希子さんのInstagram投稿大規模な行動は難しい、別の道が必要だ
英ガーディアンのルポによると、ロンドンの20歳の活動家、パーマーさんは2019年の街頭デモを振り返り「たくさんのコールが沸き起こり、そのエネルギーはいつも素晴らしかった。その瞬間にみんなと一緒にいることは、ほんとうにしびれるような感覚でした。今となってはまったく違ったものになりました」と語っている。
スコットランドの15歳のハミルトンさんは「今は少しモチベーションが下がっている」という。コロナウイルスの影響で、今後中長期的には「いつになったらまた大規模な行動ができるかわからない」からだ。
それに対して、パーマーさんは違う意見を述べる。「(パンデミック対応で)緊急事態への迅速な対応が可能だということがわかった。気候危機は同じように緊急事態であり、差し迫った驚異なので、そのように(正当に)扱えば、気候危機を乗り越えることが可能なのです」。
前述のヨハン・ロックストロームさんとのオンラインミーティングで、トゥーンベリさんはこう語った。
「私たちが好むと好まざるとにかかわらず、世界は変わってしまい、数ヶ月前とはまったく違って見えます。もう二度と同じには戻らないかもしれない。新しい道を選択しなくてはいけません。コロナウイルスの危機が私たちに示唆するのは、私たちの社会が持続可能ではないということです。たった一つのウイルス、たった数週間で経済が破壊されるのであれば、私たちはリスクを検討せず、長期的な視点も持っていないのです」。
これに対し、ロックストロームさんは「私はコロナ危機の中から新しい何かが生まれると信じています。私たちはこの状況から回復するでしょうが、古い世界に戻ることによってではありません」と応答した。
トゥーンベリさんはさらに「このような危機の時には、その緊急事態を利用して都合の良いアジェンダや利益を押し付けようとする危険性があります。そのようなことが起こらないように、危機への対応が間違った方向へと進まないようにするためにも、私たちは積極的な民主主義下の市民であることが重要なのです」と指摘した。
同日、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、パンデミックは第二次世界大戦以来の危機だが、環境面の緊急事態も同様に深刻だと述べた。新しい投資や雇用は環境対策でもあるべきだということだ。
英ガーディアンの調査によると、英国人の66%が気候はコロナと同様の危機であると考えており、58%が景気回復のために気候危機対策を行うべきだと考えている。他のEU諸国でも同様で、気候変動対策に後ろ向きな米国でも過半数がグリーン政策が景気刺激になると答えた。
持続可能な将来は、政府やビジネスからは生まれない
間違いなく、世界の世論はFridays For Future以前とは変化している。以前、アル・ゴア元米副大統領の映画が公開されたときや、50年前のアースデイが行われたときと同じように。しかし、トゥーンベリさんの目にはそう映っていない。実際には、各国政府はまだ大きな動きを見せてはいないからだ。更なる気候変動対策がすぐに必要だ。同時にウイルス対策も。彼女はSNSで医療関係者への十分な賃金と労働条件を(拍手だけではなく)求めている。
彼女は求めすぎだろうか? そうは思わない。家が燃えているときに言い訳は無用だからだ。彼女は繰り返し言う。「今の私たちには一度にふたつの危機に取り組む必要がある」。
4月23日の投稿にはこうある。
「毎日がアースデイ。すべての種の将来を守るための変化は、政府やビジネスから生まれるものではありません。それは、利用可能な最高の科学と世論から生まれるのです。だから、私たち次第。科学を広めよう」。
4月25日、気候のための学校ストライキ88週目。彼女は自分のポートレートではなく、自分のコートと靴を撮影し、SNSに投稿した。「気候危機はまだ続いています。私たちはあらゆる危機と戦わなくてはならない」。
今は確かに、大規模なデモは難しい。しかし、オンラインミーティングやデジタルマーチ、SNSには無数の人々が、気候危機に立ち向かっている。みんな、ひとりでプラカードを持ち、カメラの前で主張する。それはまるで、たったひとりでストックホルムに立ってプラカードを持っていた88週前の彼女のように見える。ただし、無数の『グレタ・トゥーンベリ』さんだ。彼女の名前は、いずれ必要なくなるだろう。
グレタ・トゥーンベリさんの4月25日のFacebook投稿参照
グレタ・トゥーンベリさんのFacebook
Fridays For Future ウェブサイト
ベルリン2020年4月24日 プラカードデモ
Earth Day 2020 ウェブサイト
グローバル気候マーチ(日本)
Nobel Prize:Greta Thunberg in conversation with Johan Rockström. Earth Day 2020
The Guardian:Earth Day: Greta Thunberg calls for 'new path' after pandemic
The Guardian:Climate strikes continue online: 'We want to keep the momentum going'
(Text:小森 岳史)