RE100の真の目的は、マーケットへの需要シグナルにある JCLP 松尾雄介氏インタビュー(1) | EnergyShift

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RE100の真の目的は、マーケットへの需要シグナルにある JCLP 松尾雄介氏インタビュー(1)

RE100の真の目的は、マーケットへの需要シグナルにある JCLP 松尾雄介氏インタビュー(1)

2019年09月03日

松尾雄介氏インタビュー(1) 後編はこちら

世界では大企業が次々と再生可能エネルギーへと舵を切っている。その象徴とも言えるのが、RE100への加盟団体数の増加だ。RE100へは、2014年の創設から5年間で191の企業が加盟*した。Fortune 1000相当の国際的な大企業であることが加盟条件にあるので、そのうちのおよそ2割。これからも加盟企業は増え続けるだろう。

欧米に比べ、再エネの電力コストが高く、大規模な調達が難しいとされてきた日本でも、この1・2年の間に、RE100への加盟機運が急速に高まっている。2017年4月、日本企業としてはじめてリコーが加盟したのを契機に、積水ハウス、イオン、富士通などのJCLP企業が続き、2019年7月時点で加盟企業は20社となった。

RE100に代表される脱炭素社会はどのように実現可能なのか、日本の企業はエネルギーシフトにどのように取り組むべきなのか。

日本で10年前から脱炭素社会の実現を目指す活動をしてきた企業ネットワークであり、今では日本におけるRE100加盟窓口も務める、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP:Japan Climate Leaders’ Partnership)の松尾雄介エグゼクティブ・ディレクターに聞く。

*2019年8月現在

RE100の目的は、社会全体を動かすメカニズムをつくりだすこと

JCLPはパリ協定やRE100が出てくる5年ほど前、2009年に設立されました。設立メンバーはイオン、富士通、リコーらの5社です。当時はポスト京都議定書の国際的な枠組みがCOP15で検討されていました。主な活動として、日本政府への政策提言や、海外からゲストをお招きしたシンポジウムなどを行っていました。

RE100は2014年に創設された国際イニシアチブです。ご存知の通り、加盟企業は「企業活動の電力を100%再生可能エネルギーにする」ように取り組んでいます。RE100自体はイギリスの国際環境団体であるThe Climate Groupが創設し、企業の情報開示などを進めているCDPの協力を得て運営されています。

JCLP では2017年4月からThe Climate Groupと提携し、日本企業のRE100参加を支援しており、2018年11月からは正式に日本におけるRE100の加盟窓口になりました。

RE100の創設から1年後、パリ協定が2015年12月にCOP21で採択されたのはご存知の通りです。パリ協定は、「世界の平均気温上昇を工業化以前に比べ2℃未満に抑制し、1.5℃以内とすることを目指す」ことを掲げています。21世紀後半に世界全体として脱炭素社会に向かうことを強く社会に発信しました。

パリ協定の議長国フランスがパリ協定の実現に向け、企業や投資家、地方自治体など非政府組織に対して、積極的な実現に向けて宣言する「パリ行動誓約」というのがパリ協定と同時にでき、JCLPも発効と同時にすぐ署名しました。世界400以上の企業、120以上の投資機関、150以上の地方自治体が署名しています。

RE100、EV100、EP100は「需要シグナル」をマーケットに送っている

RE100は、事業活動で使うモビリティを100%ゼロエミッションにする「EV100」と、事業のエネルギー効率を倍増させる「EP100」と共に、気候変動時代の企業活動のスタンダードとして急速に広がっています。

その心とは、自分が使う電気は100%再エネにしましょう。車両については100%EVにし、再エネで供給しましょう。エネルギー効率は倍増させましょう。この3つをすべてやると事業のオペレーションがほぼ脱炭素に向かうというわけです。

なお、RE100などは、再エネ100%の達成を企業間で競い合わせるものではありません。

世界的な影響力を持つ企業が、脱炭素に向けた「需要のシグナル」をマーケットに届け、電力の供給側に投資・イノベーションを促し、再エネへの投資拡大が続く好循環をつくりだす。これこそが1番の狙いなんです。

日本の状況を見てみると、RE100の加盟企業は現在20社です。これら企業の年間電力消費量は約13〜14TWhで、日本全体の年間電力消費量のおおよそ1.4%に相当します。これは、概算ですが約1300億円の再エネ市場が誕生したことに相当します。また、現時点で追加的に10社近くの日本企業によるRE100加盟が内定しており、近々に2000億円規模の市場に成長すると見込んでいます。

この規模の再エネマーケットが存在し、更に伸びるという見通しが得られれば、供給者側も経営資源を投入しやすくなり、その結果、安くて利便性の高い再エネが日本にも広がっていきます。

影響力の持つ大企業が「再エネしか使わない」と宣言し、再エネの需要があることをマーケットに示す、そこに投資が増え社会全体のエネルギーシフトを促す。このサイクルが重要なのです。

我々はメカニズムと呼んでいますが、環境問題解決のために、社会全体が動くメカニズムを作ることが、RE100、EV100、EP100、そして我々JCLPの目的なんです。

経済合理性にもとづき、再エネを買える世の中にしなければいけない

社会を脱炭素化するには、当たり前ですが1社がRE100を達成しても叶いません。多くの企業の参加や、国の政策が変わらなければ達成できない。

もちろんそのこと自体は誰もが分かっていることですが、そこには経済的なハードルがあります。特に日本では「再エネは高い、不安定だ」といわれます。実際は、日本でも再エネ価格は急速に下がっており、且つ不安定性を補う技術も次々に出てきているのですが、足元ではまだこういう問題はある程度残っています。

こうした「できないハードル」を突破する一つの方法が、新たな再エネマーケットの創出と拡大です。RE100は、企業が再エネ需要というシグナルを市場に届けることで、エネルギー事業者の更なる再エネ投資を促し、その結果、より安価で経済的な再エネが実現されるといったような、「好循環」の創出を意図したメカニズムです。

ですので、ISOのように、「再エネ100%をいち早く達成し、認証を受ける」というものとは性格が異なります。

一方、こうしたRE100の主旨がなかなか理解されず、「あの企業は宣言したのに、まだほとんど再エネを使っていないからダメだ」という話も時々聞かれますが、それは誤解です。

日本の状況はさらに複雑です。現在、日本で再エネ100%宣言をし、既に達成した企業もあります。それ自体は大変素晴らしいことです。ですが、どうやって再エネ100%を達成したかというと、過去に設置された再エネ設備の環境価値を、証書を通じて購入するケースもあります。

RE100は、証書等の利用による再エネを認めており、無論我々もそれ自体を否定的に捉えているわけではありませんし、証書にもいろいろな種類がありますが、過去に建設した再エネの環境価値を一部の企業へ移転するだけでは、再エネの価値を特定企業に集中させただけで、日本全体としての再エネは必ずしも増えないという指摘もあります。

また、証書を買うことは、証書分だけ純コストアップになります。現在の電気代よりも高くなると、結局、資金が豊富な企業や、非常に感度の高い企業だけしかできない限定的な取り組みに留まってしまいます。

率直に言って、我々が知るだけでも、現在RE100を宣言したいと考えている企業は、極めて多数に上ります。一方、RE100の趣旨を誤解したまま、「コストアップは許容できない」として、宣言を断念する企業も少なくありません。

これらの課題を乗り越えるためにも、「マーケットにシグナルを送り、好循環を作る」というRE100の趣旨をきちんと理解いただき、経済合理性を持って再エネへの転換が可能な世の中を作っていくことが大事だと思っています。

大企業だけでなく、あらゆる需要家のための「RE Action」

RE100は国際的なイニシアチブであるため、下記のような参加対象の要件があります。

1. グローバルまたは国内で認知度・信頼度が高い

2. 主要な多国籍企業(Fortune 1000またはそれに相当)

3. 年間電力消費量が100GWh以上(日本企業は10GWh以上に緩和)

4. RE100の目的に寄与する、何らかの特徴と影響力を有する

つまり、国際的な影響力を重視し、基本的には大企業のみを対象としたイニシアチブになっています。

しかし、日本におけるセクター別の電力消費の割合を見ると、飲食店業界など、大企業がほとんどいないような業界が上位にあります。また医療や教育、福祉なども比較的上位にありますが、これらは、そもそも企業ではないセクターです。こうしたセクターは相対的に電力需要が大きいうえ、社会的な活動に対する感度が高い人も多くいらっしゃいます。

実際、我々もこうしたセクターの方々から、RE100参加についてなんども問い合わせを受けながら、「規定上、加盟できません」とお断りせざるをえませんでした。しかし、そうした方々にも需要家として、再エネ調達を宣言してもらえれば、前述の再エネマーケットのメカニズムをつくりだすことができ、日本の再エネを前進させる原動力になります。

そこで、2019年6月、グリーン購入ネットワークと地球環境戦略研究機関、そしてJCLPで、自治体や教育・医療機関、年間消費電力量が10GWh以下の中小企業など、あらゆる需要家が再エネ100%化を宣言し、ともに行動していくイニシアチブ「再エネ100宣言 RE Action(アールイー アクション)」の設立を表明しました。

後編はこちら

松尾雄介
松尾雄介

公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES) ビジネスタスクフォース ディレクター/JCLP 事務局 エクゼクティブディレクター

 株式会社三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)、ESG投資顧問の株式会社グッドバンカーを経て2005年より現職。2005年ルンド大学(スウェーデン)産業環境経済研究所修士課程修了(環境政策学修士)。 気候変動と企業の関わりについて一貫して研究活動を実施。日本の先進企業で形成され、脱炭素社会を目指す日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)の事務局責任者を務める。
受賞歴:2010年度 エネルギー・資源学会 第14回茅奨励賞、環境省 第9回、第11回NGO/NPO・企業環境政策提言 最優秀賞など。

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