未来のため、金曜日に集まる若者たち
Fridays For Futureの現場から
ちょうど一年前の夏からはじまった、気候のための学校ストライキ。グレタ・トゥーンベリさんがはじめた活動は一年で爆発的な広がりを見せた。彼女がはじめに一人で座り込んだのは、ストックホルムの国会議事堂前だ。そして今では若者を中心に、多くの人々が毎週金曜日に集まっている。座り込みをしている彼らに話を聞いた。
取材:矢作ルンドベリ智恵子
ストックホルム・国会議事堂前、金曜日の朝
2019年8月9日金曜日、ストックホルムの国会議事堂前。今日もここでストライキが行われる。
「School Strike for Climate(気候のための学校ストライキ)」は、ここではじまり、今でも毎週、同じ場所で続けられている。2018年の夏、当時15歳だったグレタ・トゥーンベリさんが、たった一人ではじめた。51週目の今朝、多くの人が集まりはじめている。
朝9時前後から数時間いる人もいれば、終日座り込みをしている人たちもいる。集まっているのは、中学生ぐらいの子どもたちが中心のようだが、大人たちも一緒に座り込んでいる。
この日、国会議事堂の前にグレタさんの姿はなかった。グレタさんは現在、スイスのローザンヌで開催されている気候変動サミットに参加中だ*。彼女を常時サポートしている仲間も、一部はサミットに同行しているようだ。
グレタさんはスイスの気候サミットに参加した後、イギリスからヨットでアメリカに行く予定だ。ニューヨークで国連の気候変動サミットでスピーチをすることになっており、その後は南米・チリなどにも足を延ばすことを考えている。
気候ストライキのグループが座り込みをしている、道路を挟んで反対側には、「原子力のための夏休みストライキ」というプラカードを持った20人ほどの若者たちの姿があった。どうやら保守党政権である穏健党(Moderaterna)を支持する中学生たちのようだ。この集団は、先週の金曜から座り込みをはじめたらしく、気候変動ストライキへの反対勢力といえる。
学校の夏休みも終盤に入った今、ストックホルムではそんな新しい動きもはじまっていた。
* https://www.swissinfo.ch/jpn/ローザンヌ気候変動サミット_環境活動家グレタ-トゥーンベリさん-自身への批判に心境語る/45148604気候変動は人類に対する最も深刻な問題。でも、誰も何もしようとしない。新しい車を買ったり、旅行に行ったり。
エルサ・ネランダー
Ms. Elsa Nelander
中学2年生 14歳
気候変動は、人類に対する最も深刻な問題だと思っています。それにも関わらず、誰も何もしようとしない。新しい車を買ったり、旅行に行ったり、大半の人は全く気に留めようともしない。
(14歳のエルサさんがストライキを始めたきっかけは、今年5月24日に行われた世界規模のストライキ・Global Strike for Climateだった。その日以降、特に用事がなければ毎週金曜日にここへ来ている)
親からは、学校の勉強はおろそかにしないように、とは言われている。けれど、この活動に参加していることは特別悪いことではない、と母親は思っているようね。
この活動をするようになってから、温室効果ガスの排出量を少しでも減らせるように、ライフスタイルを変えてきた。友だちや家族にも気候変動の問題について話しをすることで、何らかの影響力を与えたい。友だちには私と同じようにこれまでの行動を改めて、意識を変えて欲しいと思っている。
(具体的なライフスタイルの変化は?)
ベジタリアン(卵やチーズは食べる)になったこと、新しい服を買うのをやめて、セカンドハンドショップで買うようになったこと。セカンドハンドのショップには、素敵な服が沢山あって楽しい。
(大人へ伝えたいことはなにかある?)
気候変動の危機に直面して、これまでの行動などを変えるのはさほど難しいことではないということ。気候変動の問題を解決するのに、自分の時間やお金を費やすような犠牲を嫌がる人が多くいる。しかし、危機に直面している今、みんながそれぞれ多少なりの犠牲を伴う行動をとっていく必要性があるのでは?
大事なことは、少しだけでもいいから、これまでと違う行動をとることを、みんながやること。一部の人がストライキをしたり、一部の人たちが新しい商品を常に買っているような状況では意味がない。
スウェーデンだけでなく、世界中に住んでいる人みんなが一緒になって気候変動への対策に取り組むことをしないと、この問題を解決することはできないわけだから。
今年9月20日の第2回のグローバル・ストライキには参加する予定。その時に新しい友人ができるのも楽しみ。この場所にきて様々な人たちと意見を交わすことがとても楽しい。
気候変動の話をはじめて聞いたとき、ウソだと思った。本当だと知ったとき、ショックで何もやる気がなくなった。
ロヴィーサ・ロスゴード
Ms. Lovisa Rossgård
中学3年生 14歳
(ロヴィーサさんは、ストックホルムの郊外・ナッカ市に住んでいる。彼女は生まれつき歩行器がなくては歩けない障害をもっている。バスを乗りつぎ、歩行器を使ってここまで来た)
残念ながら、気候変動の問題を深刻に受け止めていない人が多すぎます。もしこの問題の深刻さをもっと認識していたら、ここには今以上に多くの人が集まっているはず。
私がここで行動を起こさなければ、何も変化は生まれない。スウェーデンでは、今、気候変動が起こっていることを目の当たりにすることはあまりないし、今後もないかもしれない。
ただ、もし起こってしまったら、その時はすでに手遅れになるでしょう。
気候変動の危機を解決するのは手遅れかもと思っている。反面、そんなふうに考えるべきじゃないと思う自分もいる。
(ここに参加したのはなぜ?)
この問題について知ったのは、叔父の話がきっかけだった。それは、気候変動の影響で10年後には、水や食料不足になったりするかもしれないという話。それを聞いたとき、まともに話を受け止められず、正直なところ、叔父はウソをついていると思った。
今年の4月ごろ、学校の社会の授業でグレタさんが話しているTED Talkをきいて、ショックを受けた。その日は涙をこらえてやっとのことで家に帰った。
その後、絶望的な思いにかられ、(気候変動の危機が深刻なことを知って)とにかく何をするにもやる気がおきなくなった。
その後、学校のカウンセラーに自分の思いを打ち明け、数時間にわたって話を聞いてもらった。そのカウンセラーには、気候変動の危機を何とかするように行動を起こさなければ、あなた自身がだめになるわよと言われた。
そんな中、グレタさんが気候のための学校ストライキをしていることを知った。同じ頃、学校の授業で自分が書いた文章を発表する機会があり、その際に気候変動についてクラスで話をした。
今、スピーチの文章をもう一つ書いている。どこに発表するチャンスがあるかわからないが、他の人に何かを伝える良い機会だと思っている。
最初はFFFに参加することには懐疑心があった。ここに座っているだけで本当に世界を救えるのだろうかと。
今日でFFFに来たのは10回目、特に用事がなければ毎週金曜日にはここに来ている。何もしないよりも、文章を書いたり、ここにきて仲間と行動をしたりすることが心の支えになっている。
でも両親はここに来ることをよく思っていない。いつも口論になってしまうので、夏休み以降は来られるかどうか、わからない…。
(口論?)
父には、簡単に世界を変えることはできないと言われるけど、「じゃ、グレタがたった一人で始めた行動が、今こうやって世界の動きを変えようしている。これって意味があるんじゃない」と言い返した。グレタさんのおかげで、もちろん何かを変えるということは可能だと思っている。
もし私たちの行動したことに良い結果が生まれなくても、私たちの子ども、孫たちに、私たちも何とか精いっぱいやったとは伝えることができる。一生懸命やったことが大事なのだから。
(大人へ伝えたいことはなにかある?)
大人の協力は必要だと思っている。私たちだけで出来ることは限られているのだから。
大人には政治家に圧力をかけて欲しい。大人には選挙権がある。投票で社会を変えることができる。
アントン・ウルテル
Mr. Anton Örtell
中学3年生 15歳
気候変動への問題は、人類におけるとても重大なことであるにもかかわらず、権力者や産業界は、ほとんどなにもやっていない。誰もがとっくに、なんとかしなければいけないことがわかっているのに。
特に先進国には大きな責任がある。USA、中国、ロシアなどの大国などもそうだ。気候変動の被害を受けるのは常に途上国なのだから。
パリ協定では、自国でできる責任は自国でしっかりとるということで同意に至っている。さらにこの協定では、先進諸国が途上国に経済的援助、他にも様々な知識や研究においても、気候変動の影響を受けないよう支援をすることにもなっている。
10年後には温室効果ガスの排出量を半減にしなければならない、つまり2030年までには何とかしなければならない。そうしなければ、パリ協定で決まった、世界の平均気温上昇を目標の1.5℃に抑える目標(温度上昇を2℃未満抑制がパリ協定の目標。1.5℃以内への抑制も希求)は達成できない。もしこの目標が達成できなければ危機から免れないだろう。
だからこそ、政治家と産業界がしっかりと対策をとらなければならない。
産業界においては特に石油業界などがあげられる。さらに気候変動の対策は、企業などの営利団体からの資金援助などに関わりのない、独立した研究結果に基づいて取り組むことが重要だ。
特に今のスウェーデンの政治には失望している。もっと気候変動を問題解決に向けて対策をとるべきだと思っている。ただ問題だと言っているだけでは何も進展しない。
今、スウェーデンが最前線に立って、気候変動を止めなければならない。今までやってきたことをもうやめなければいけない。これには政治的な決定が必要となる。
学校は大事かもしれないが、ここに来ることで、もっといろんなことを学ぶことができる。ここで何かをやり遂げることは、とても私たちにとって意義のあるものだと思っている。
ここには、研究者も立ち寄り、勉強会などもやった。パリ協定の交渉にもかかわった研究者も訪れている。
私たちを支援してくれるサブ団体が沢山いる。例えば、Scientist for Future、Psychologists for future、Parents for future、Grandparents for future、Teachers for futureなど。これからもサブ団体は増えてくると思う。
(大人へ伝えたいことはなにかある?)
ここに来て欲しい。彼らの協力が必要だから。明日とか一か月後じゃなくて、今すぐ。
大人は立ち寄って、「君たちは本当によくやってるよ」と声をかけてくれる。それはすごくうれしいことだが、声をかけてくれる人たちも、僕たちと一緒になって行動をして欲しい。
そして政治家に圧力をかけて欲しい。大人には選挙権がある。大人が投票することで、社会を変えることができる。
気候変動は今、まさに大事な問題で、人類に住む人みんなに影響を及ぼすことになるのだから。
私たち大人は環境問題に解決策を見出していない。何らかの対処をしたという人もいるかもしれないが、大きな変化は起こってない。
カーリン・ノルマン
Mrs. Karin Norman
年金生活者 Grandparents for future
去年の10月から毎週金曜日のFFFに参加している。隣にいるモーテン氏(Parents for future)は昨年の12月から来ている。
ここに私たちが来ることで、子どもたちに沢山のエネルギーを与えることができる。
子どもたちは、学校がもっと気候変動の問題に真剣に向きあって、この問題にしっかり取り組んで行くことを望んでいる。自分たちの未来の社会に向けてしっかりと行動したいと思っている。
一方、私たち大人は環境問題に関して解決策を見いだせないまま、今日に至ってしまった。何らかの対処をしたという人もいるかもしれないが、大きな変化は起こってない。
ここに来るのが嫌になる時もあるけれど、実際に足を運んで、若者が頑張っているのをみると、来てよかったな、と希望がもてる。
私のようなシニア(年金生活者)も若者と一緒に活動が十分できると思っている。日本のシニア層も元気な方が沢山いるだろうから、若者と活動することでさらに元気になれるかもしれない。
このような活動をすることで、何かやってみようという好奇心も出てくる、そうすることで、子どもたちや孫たちも影響をうける。お互いにとって良い影響を生み出すことになるのではないだろうか。
取材を終えて
取材中、スコールが降り始めた。それでも、傘を差し雨具を着て彼らは残っていた。
この日、ストックホルムは最高気温が21℃、例年と変わらない気温だ。10日ほど前の7月28日には最高気温は31℃ にまで上昇した。例年なら22℃なのに。今年のヨーロッパの熱波は異常だ。
話を聞いて、グレタさんが彼らに大きな影響を与えていることがよくわかった。そして、この活動は彼女一人だけでなされているのではないことも。
9月20日から27日までは、2回目の世界規模のストライキ*が予定されている。
*https://globalclimatestrike.net