里海をメキシコに伝える岡山県の企業と現地の人々の挑戦 パート2 | EnergyShift編集部

エネルギーと気候変動を本気で考える

EnergyShift(エナジーシフト)EnergyShift(エナジーシフト)

里海をメキシコに伝える岡山県の企業と現地の人々の挑戦 パート2

里海をメキシコに伝える岡山県の企業と現地の人々の挑戦 パート2

ブックマーク
ブックマーク

ビジネスパーソンのためのSDGs 第6話

前回は、水産資源の減少への対応として、日本における「里海」の取り組みを紹介した。こうした取り組みは、同じ問題を抱えるメキシコにも広がりつつある。今回は、日本からメキシコに渡った、人工漁礁の成果について、Value Frontierの石森康一郎氏が報告する。

メキシコ・南バハカルフォルニア州で調査を開始

前回の記事で、岡山県倉敷市の海洋建設株式会社が国際協力機構(JICA)から委託を受けて、メキシコの南バハカルフォルニア(BCS)州にて2017年の1年間、調査を行うことになったと書いた。今回はその内容について紹介したい。

バハ・カリフォルニア州はメキシコの西北部に位置する

同調査の主目的は、海洋建設社の人工魚礁がカリフォルニア湾においても役に立つものであるかの確認を行うことにあった。所変われば、事情も変わるためである。そのため計3回の現地渡航が計画された。

まず1回目の調査では、カリフォルニア湾における水産資源減少の実態及び漁業経済の実態を確認し、行政、漁業者共に水産資源を回復させたいというニーズが高いことを確認した。

1回目の現地渡航の際に沈設した小型の人工魚礁©海洋建設株式会社

また同社の人工魚礁を製造するために欠かせない、剥き身後に残る貝殻が現地に十分にあるかの確認をし、問題ないことも確認した。その上で、現地で調達した貝殻を充填した小型の人工魚礁を沈設することにした。貝殻に付着する海洋生物が分かれば、それらを捕食する魚にどのようなものがいるかが分かり、漁業者が増やしたいと考えている魚を増やすことができるか判断できるためである。

小型の人工魚礁を沈設してから3ヶ月後に2回目の現地渡航を行い、沈設していた小型の人工魚礁4基のうち2基を引き上げ、現地の大学の協力を得て貝殻に付着していた海洋生物の同定分析を行った。

2回目の現地渡航の際に引き上げた小型の人工魚礁©海洋建設株式会社

その結果、A地点から引き上げた1基からは95種・2,234個、B地点の1基からは86種・1,846個の海洋生物(主にエビやカニ等の甲殻類、ゴカイ類等)が見つかった。それらは、カリフォルニア湾で減少しているとされ、漁業者が増やしたいと考えているイワシ、スズキ、ハタ、ブリ、タイ等の魚が好む餌であることから、同社の人工魚礁はカリフォルニア湾の漁業資源の回復に貢献しうると結論付けられた。

さらに、国際自然保護連合(IUCN)の「絶滅の恐れのある生物種のレッドリスト(通称:レッドリスト)」に分類されている種も発見された。そのため、同社の人工魚礁は生物多様性の保全にも有効とされた。またそれからさらに3ヶ月後の3回目の現地渡航でも同様の結果が得られた。

人工魚礁の中から見つかった海洋生物©海洋建設株式会社

ディカプリオらも海洋生物保護の基金を創設

こうした結論を踏まえ、さて次はどうしようかと考えていたところ、嬉しい情報が舞い込んできた。メキシコ連邦政府機関の国立漁業・養殖研究所(INAPESCA)のアレナス所長(大臣相当)が、わざわざメキシコシティから同社が調査を行っているBCS州まで会いに来るというのだ。

その当日、スーツを着て畏まって待っていた同社に対して、所長はジーンズにスニーカーというラフな出で立ちで来られたため、自然とカジュアルな雰囲気になり、同社から里海の概念と同社の人工魚礁について、ひとしきり説明を行った。すると水産学の博士として、また研究所の所長として里海の概念と同社の人工魚礁に興味を持った所長から、カリフォルニア湾の他の場所でも広めていきたいとの話が切り出された。

なんでも、エンリケ・ペニャ・ニエト大統領(当時)とForbesで世界一の富豪にもなったことのある実業家カルロス・スリム、そして俳優であり環境活動家でもあるレオナルド・ディカプリオが、カリフォルニア湾の海洋生物を保護するための新たな基金を創設するための覚書を締結したばかりとのことであった。

日本で普通に仕事をしていて耳にするような名前の方々ではないので、同社の方々は唖然、茫然。しかしすぐに言いようのない高揚感が訪れ、ディカプリオに広告塔になってもらいたい等々、しばしの間、勝手な妄想がさらなる妄想を呼んでいた。

覚書締結の様子(左からペニャ・ニエト大統領(当時)、アレナス長官、ディカプリオ氏、スリム氏)

世界中の「海の豊かさを守ろう」-SDGs14へ

こうした背景から、同社は里海という概念のもと、もっと大規模に、長期にわたりカリフォルニア湾で同社の人工魚礁の有用性を実証し、広めていこうと、これまで以上に精力的に準備を行った。国際協力機構(JICA)に再度企画を提案し、委託を受けることになったため、今後3年間、新たにBCS州で実証を行い、その後カリフォルニア湾に面したその他の州に広めていく計画である。

また里海という概念は、SDGs14「海の豊かさを守ろう」に貢献し、近年、日本以外の国でも認識されつつあることから、同社としてもメキシコを皮切りに、他の中南米諸国や太平洋島嶼国等へと展開できたらと夢は膨らんでいる。

参照

連載:ビジネスパーソンのためのSDGs

石森 康一郎
石森 康一郎

Value Frontier(株)代表取締役。20年以上にわたる政府開発援助事業への関与から培ったノウハウに基づき、国内中小企業の技術を活かした途上国・新興国における課題解決のための事業化コンサルティングを行っている。 https://www.valuefrontier.co.jp

エネルギー記事一覧

注目のキーワードを見る

原稿募集
Navi

新しい記事

無料会員登録

アクセスランキング

週別

月別