里海をメキシコに伝える岡山県の企業と現地の人々の挑戦 パート1 ~ビジネスパーソンのためのSDGs~第5話 | EnergyShift編集部

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里海をメキシコに伝える岡山県の企業と現地の人々の挑戦 パート1 ~ビジネスパーソンのためのSDGs~第5話

里海をメキシコに伝える岡山県の企業と現地の人々の挑戦 パート1 ~ビジネスパーソンのためのSDGs~第5話

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水産資源の減少という問題を抱えているのは、日本だけではない。同じ問題を抱える中で、日本は「里海」という発想による取り組みが進められている。そして、その取り組みの成果は、海外でも活躍しつつある。今回はそうした日本から海外に広がる持続可能な海への挑戦について、Value Frontierの石森康一郎氏が紹介する。

水産資源減少は世界規模の課題

前回の記事では、世界的に水産資源の減少が問題になっていることを挙げた。海に挟まれた自然環境から水産業が盛んなメキシコもその例外ではない。

東のメキシコ湾はアメリカを縦断するミシシッピ川の河口であるが、アメリカの農地で使用された化学肥料から流れ出た窒素がミシシッピ川を通じて放流され、メキシコ湾で植物プランクトンが大量発生することで、大規模な酸素濃度の低い水域が出現する。その結果、メキシコ湾における漁獲量が減少する事態となっている。

一方、メキシコで水揚げされる全漁獲量の約半分が、西の太平洋側にあるカリフォルニア湾で漁獲されたものであるが、カリフォルニア湾沿岸域に位置する南バハ・カリフォルニア(BCS)州では、乱獲等の影響によりイワシ、スズキ、ハタ、ブリ、タイ等の漁獲量が減少してきている。2008年に175,120トンあった漁獲量は、2017年には115,164トンと約35%も減少している*。さらに漁獲量の減少に伴って、漁業者の経済も悪化してきている。そのためBCS州政府は、水産業の未来に強い危機感を覚えている。

*Gobierno del Estado de Baja California Sur. (2020), Baja California Sur Información Estratégica 2020, La Paz, Gobierno del Estado de Baja California Sur.

日本の伝統的な「里海」文化で海を豊かに

しかしこうした現象は、何もメキシコに限って見られる現象ではない。言うまでもなく、海に囲まれる我が国日本にも見られる現象であり、例えば水産庁は乱獲を抑制するための水産資源管理手法として以下3つの規制を状況に応じて使い分けている。

  • (1) インプットコントロール(投入量規制):操業漁船隻数や操業期間の制限等によって、漁獲を抑制。
  • (2) テクニカルコントロール(技術的規制):目の細かい網や釣り針数等の漁具の利用を制限することで、漁獲を抑制。
  • (3) アウトプットコントロール(産出量規制):漁獲可能量の設定等により、漁獲を抑制。

また日本に独特なのは、こうした「魚を保護する」という規制に加えて、伝統的な「里海」という概念に基づいて「魚を増やす」という活動も同時に実施している点である。これは、西洋文化にはなかった発想である。

これまで欧米では「自然は神が人とは別に創ったものだから、自然の保護はそれ独自で行われるもの」との考えから、人による自然への介入は人の立ち入りを禁止する保護区を設ける発想が中心であった(但し、最近ではその限界が認識されつつあり、考えが変わってきている)。

それに対して日本人は「自然の中には八百万神が宿っているのだから、自然の中に暮らす人は、自然(神)と調和した共存をしなければならない」と考えてきたため、自然にも積極介入する「里海」の考えに基づいて、魚を保護するだけでなく増やす活動も行ってきているのだ。

牡蠣とホタテ貝の殻の有効利用で海洋生物が棲みやすく

岡山県倉敷市に、その先頭に立って魚を保護するだけでなく増やす活動を行う企業がある。従業員25人の中小企業で、人工魚礁を開発・沈設し、漁場調査等も行う海洋建設株式会社である。これまでに日本列島海域に12,000基以上の人工魚礁を沈設し、豊かな海づくりに貢献してきている。

イサキと人工魚礁(人工魚礁を背景に) ©海洋建設株式会社

特筆すべきは、その沈設数のみならず、構造にある。中国地方は牡蠣の産地として有名であるが、廃棄物として扱われてきた剥き身後に残る牡蠣の殻やホタテ貝の殻を構造の一部として使用している点である。海中に沈設された人工魚礁は、魚を守り育て、増やす機能を果たすが、同社の人工魚礁は貝殻を使用することで、一般的に用いられるコンクリートブロックよりも海洋生物が棲みつきやすくなり、より高い効果を発揮する。

いろいろな形態がある中での一つの形態 ©海洋建設株式会社

また廃棄される殻は、これまでは廃棄物として化石燃料を使って1,000℃以上の高温で焼却処理されていたであろうことを考えると、リユースした時点でとてもエコである。

さらに、同社の人工魚礁を製造する過程で、牡蠣の殻やホタテ貝の殻を筒状の基質に充填する作業が発生するが、閑散期にある漁業者に依頼することで、漁業者の収入にも貢献している。これはまさに一石三鳥と言っても過言ではない。

キビナゴと人工魚礁(人工魚礁内部の様子)©海洋建設株式会社

そこで辿り着いたのが、日本独自の「里海」という概念を、同社の人工魚礁と併せてBCS州で広めるというものである。しかし国が変われば、事情も変わる。もっと言うと、沈設地が変われば、事情も変わる。そこで同社は、同社の人工魚礁がカリフォルニア湾においても役に立つものであるかの確認を行うため、国際協力機構(JICA)に同企画を提案し、委託を受けたため、BCS州にて1年間の調査を行うこととなった。同調査にはメキシコの連邦政府機関、BCS州政府、大学、NGO、漁業者組合も参加し、結果は驚きの連続であった。詳細は次号に続く。

連載:ビジネスパーソンのためのSDGs

石森 康一郎
石森 康一郎

Value Frontier(株)代表取締役。20年以上にわたる政府開発援助事業への関与から培ったノウハウに基づき、国内中小企業の技術を活かした途上国・新興国における課題解決のための事業化コンサルティングを行っている。 https://www.valuefrontier.co.jp

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