農林水産省が今年8月に公表した食料需給表によると 、2018年度の国内での肉の年間消費量(供給純食料)は、1人当たり、牛肉が約6キロ、豚肉が約12キロ、鶏肉が約13キロとなっている。 (図4)
図4: 一人当たりの年間消費量(肉類)の割合
出所:農林水産省大臣官房政策課 食料需給表の数値をもとに著者作成
それでは、それぞれの肉の消費量は、どの程度の温室効果ガス排出につながるのか。2018年度食料需給表を基に環境省公表の排出係数からガソリンの使用量に換算すると、豚肉が少なくともガソリン約40リットル分、牛肉が60リットル分、鶏肉が20リットル分となる※(東京新聞調べ)。つまり、牛肉を消費することは豚肉より約3倍のガソリンを消費することになる(図5)。
※いずれも小売店などへの流通の過程で出る排出量は省いており、牛肉は枝肉1キロ当たりの排出量から計算したため、肉の消費による実際の排出量は、さらに多いとみられる。
図5:肉1キロ当たりのCO2排出量の割合
出所:農林水産省の食料需給表をガソリンの使用量に換算した数値をもとに著者作成
最近では、牛のゲップなどから出るメタンガスを減らす新しい技術の開発なども進んでいる。
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)では、農水省の委託プロジェクトで、2017年度から一酸化二窒素(N2O)やメタン(CH4)といった温室効果ガスの排出量削減に向けて革新的な技術開発に取り組む。「牛を地球環境の悪者にさせない」として、メタン排出が少ない牛「低メタン牛」の育種改良に向けて研究開発を進めている。
同研究機構は、11月30日、乳用牛の胃からメタン産生抑制効果が期待される、新規の細菌種を発見したと発表した。牛の胃の中の微生物を制御し、2030年までに牛からのメタン産生を25%削減する目標を掲げており、これにより牛のゲップ由来のメタン排出削減への貢献に期待が高まる。
日本では、牛のゲップに含まれるメタンを抑える餌の開発も進めている。他国との共同研究で実用化を急ぎ、畜産分野の削減でも貢献を目指す。
日本よりも牛肉の消費が比較的多い欧米でも、「脱炭素牛」をめぐる研究は進んでいる。米国とオーストラリアの研究では、牛の飼料に「カギケノリ」という種類の海藻の一種を牛のエサに少量混ぜることで、胃の中で発生するメタンをおよそ9割抑えられることがわかっている。排出量を大幅に減らせるとして期待される一方、この海藻はまだ生産拡大に成功していない上、欧州北西部では育ちにくいため、メタン削減目標を達成させるには畜牛数の縮小も依然として必要だという。こうした技術は、業界が農業モデルを持続可能なものにするのではなく、技術に頼っているとの批判もあり、賛否両論だ。
脱炭素社会の食生活は、肉食を少なくして、緩やかな菜食主義へと移行することが推奨されるようになっている。植物性の食品を中心として、たまに肉や魚も食べるスタイルは「フレキシタリアン」と呼ばれ、環境と健康に良い食生活のスタイルとして注目されるようになっている。
車のエンジンがガソリンから電動へとシフトしていく「脱ガソリン」のように、肉から大豆へと変化する「脱肉食」時代が来るのかもしれない。しかし、肉食を即悪と捉えるのではく、時々は代替肉を選択肢の一つとして取り入れてみるのもいいだろう。 肉や魚、野菜等の農林水産物は、自然の恵みがもたらす地域の自然資源で、地域固有の伝統文化の一つでもある。
何を食べるのかという選択、そして食べた後の配慮の日々の積み重ねが環境に大きな影響を与えているということを忘れてはならない。
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