経産省審議会ウォッチ
将来の電源としての供給力確保を目的とした容量市場が創設され、現在、第1回のメインオークションが進められている。とはいえ、この市場がねらい通りに機能するのかどうか、これから見極めが必要だ。この容量市場をめぐる課題と将来について、エネルギージャーナリストの木舟辰平氏が解説する。
容量市場の試金石となる初オークション
電力システム改革“貫徹”のための主要施策の一つとして創設が決まり、発電・小売の両事業者がともに高い関心を寄せる容量市場。その初めてのメインオークションが目下進行中だ。電力広域的運営推進機関(広域機関)が6月3日に需要曲線を公表したのに続き、7月1日から1週間、供給曲線の基になる発電事業者等による応札が受け付けられていた。約定結果は8月末までに公表される予定だ。
市場創設の目的は、発電事業の投資リスクが高まる中、市場原理により安定供給に必要な容量を確保すること。初オークションの約定価格はその狙い通りに市場が機能するかどうかの試金石になる。指標価格(Net CONE)を大きく下回れば、新電力は一安心だが、制度自体は早くも存在意義を問われかねない。
第1回の約定価格が将来の安定供給を左右
容量市場とは、ようするに電源の容量を取引する場だ。自由化の進展や再生可能エネルギーの導入拡大により大型電源への投資リスクは高まっており、安定供給に必要な発電容量を日本全体で確実に確保するため、容量(発電することのできる能力=kW価値)自体に経済的対価を支払う仕組みを導入することにした。
詳細な仕組みは、資源エネルギー庁や広域機関の有識者会議で3年以上にわたって議論されてきた。
その結果、メインオークションは原則的に年1回で、4年後の安定供給のために必要な容量を毎年確保することになった。つまり、今年度は、2024年度に運用される容量が取引されている。取引は市場分断が起きない限り全国単一市場で行われる。実需給の年度が近づいて需要予測が見直された場合などは、容量を追加で調達するオークションや、逆にメインオークションで確保した容量を手放すオークションが行われる可能性もある。
初のメインオークション開始に先立って6月3日に公表された需要曲線は、調達量の目標や価格水準を定めたものだ。供給計画における年間最大需要に1割強余裕を持たせた目標調達量は、約1億7,747万kWに設定。指標価格は、目標調達量と取引量が等しくなった場合の約定価格で、新設電源が固定費を回収できる理論上の額だ。ガスタービンコンバインドサイクル発電をモデルプラントとして算出し、9,425円/kWになった。指標価格の1.5倍が上限価格になる。
約定する量と価格の決め方は単純だ。発電事業者等による応札結果に基づいた供給曲線が、需要曲線に重ねられる。入札価格が低い電源から容量が積み上げられ、需要曲線と交わった点で量と価格は一元的に決まる。
約定価格がいくらになるか、関係者の関心は高い。発電事業者にとっては価格が高いに越したことはないが、中長期的な供給安定性確保のため電源の新陳代謝を促すという政策的観点からは、指標価格にどの程度近付くかが問題になる。
欧米では低水準の価格で推移
容量市場を先行して創設している英国や米国PJM(ペンシルバニア州、ニュージャージー州、メリーランド州を含む13州を管轄する、北米最大の電力系統運用者)の取引実績を見ると、約定価格は指標価格の半額程度の水準が続いている。
英国は2,000円/kW前後、PJMは4,000円/kW前後でおおむね推移している。その要因は十分に解明されていないが、需給バランスが供給過剰に振れれば価格は安くなるという単純な市場原理の結果と考えられる。英国もPJMも制度設計の見直しが継続的に行われているが、根本的な問題解決には至っていない。
広域機関が取りまとめた今年度の供給計画によると、日本でも2024年度の供給予備率は15.8%ある。既設電源だけで需要を十分に賄える状況にあり、英米と同様に約定価格が指標価格を下回る可能性は高い。だが、それでは大型電源の新設を後押しする仕組みとしては機能しないことになる。
資源エネルギー庁はそうした状況を見越してか、容量市場とは別に電源全体の投資を安定的に確保するための制度措置を導入する方針だ。
「持続可能な電力システム構築小委員会」中間取りまとめ(2019年12月公表)は、年内をめどに具体的な検討を深めるべきだと提言している。よい仕組みが考案されれば、容量市場不要論が早くも噴き出しかねない。
電源投資促進か小売電気事業者負担軽減か、相反する思い
このように約定価格がある程度高くならないと市場創設の意味が問われる一方で、広域機関を通して間接的に容量の買い手となる小売事業者にとっては、約定価格は安い方が当然望ましい。特に市場からの調達比率が高い新電力にとっては、その思いは切実だ。
小売事業者が不当な負担を強いられないために、価格つり上げなどの不正行為を防ぐことは重要な課題になっている。
エネ庁が策定した入札ガイドラインでは、電源を稼働するために最低限必要な費用から他市場収益(容量市場以外の市場から得られる収益)を差し引いた額である「維持管理コスト」を超えた入札価格は価格つり上げに該当する可能性があると整理された。維持管理コストには固定資産税や人件費、修繕費などが含まれる。
初取引では大手電力9社にJERAとJパワーを加えた11社が、電力・ガス取引監視等委員会による事後監視の対象になる。他市場収益の算定根拠は各社の判断に委ねられており、監視委と事業者で見解が対立する可能性もある。監視委の切り込みが甘ければ、新電力の反発は強まるだろう。
容量市場の前途はどう転んでも多難であるようだ。
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