アイスランドの見どころは氷河だけでない、かわいらしく貴重な鳥のウォッチングも人気だ。アイスランドのアイドル、通称「パフィン」はウエストマン諸島に一大コロニーがある。目から角が生えたような模様があり、愛らしい姿は海の道化師と呼ばれ親しまれてきた。気候変動による海水温上昇は餌不足を招き、彼らにも危機が迫っている。
奥の山は1973年の噴火でできたエルドフェトル山。溶岩は町を飲み込みながら港まで迫ったが、海水をポンプでくみ上げ放水し、溶岩を冷却することでその進行をくい止めた ©Hiroaki Oyamada(クリックすると別ウィンドウで開きます)
アイスランド南部の沖合約10kmの位置には、15の島々からなるウエストマン諸島がある。メインランドのヘイマエイ島は以前より漁業で栄えてきた唯一の有人島で、現在の人口は約4300人。この島では1973年1月23日早朝に町のすぐ近くで噴火が起きた。噴火は5ヶ月にも及び、溶岩と火山灰で町が埋まったため、現代のポンペイとも呼ばれている。島のシンボルは海の道化師とも称される、鮮やかな色彩のくちばしをもつアトランティック・パフィン(和名ニシツノメドリ)で、町の標識はこの鳥をモチーフにデザインされている。
崖の近くの土地に子育てのための巣を作るパフィン。水面に見える黒い点々は漁の最中のパフィンたちだ ©Hiroaki Oyamada(クリックすると別ウィンドウで開きます)
アトランティック・パフィン(以下、パフィン)は一生の大半を北大西洋の洋上で過ごす。ペンギンのように潜水と泳ぎが得意な海鳥だ。ウエストマン諸島は世界最大のパフィンのコロニーがあるエリアで、人が住むヘイマエイ島でも夏の間その姿を見ることができる。
パフィンは同じつがいで寄り添い、春の終わり頃、子育てのために前年と同じコロニーの同じ巣穴に戻ってくる。雛にはイカナゴなどの小魚を与え、夫婦が協力して育てる。巣立ちまでの期間は孵化後約1カ月半。雛鳥は親鳥が飛び去ったあと、夜間、月の光を頼りに海上に飛び立つ。しかし町の明かりに惑わされる雛も多く、ヘイマエイ島では迷子の雛たちを救うボランティア活動が2003年から行われている。保護した雛の生育状況と数は毎年記録されており、2018年は約5600羽が保護されたのち、海に放たれた。パフィンは大切に守られている。
パフィンの頭部をモチーフにデザインした道路標識 ©Hiroaki Oyamada(クリックすると別ウィンドウで開きます)
パフィンはシーズンに1個の卵を生む。親鳥は雛鳥のためにせっせと餌を運ぶが、雛が食べるのに適したサイズの小魚がこの海域から姿を消してしまい、雛たちは栄養不足により巣立つまで生存できない状況が続いている。
個体数が激減しているのはウエストマン諸島のパフィンだけではない。パフィン同様泳ぎの得意なウミガラスや長距離を移動するキョクアジサシなどの海鳥も、雛が育たないことで生息数がどんどん減っており、彼らのコロニーもアイスランド全体で縮小している。
以前も海水温の上下変動により、海鳥の個体数が増減することがあったが、最近は海水温が下がることが少なく、今後も雛たちの餌不足が続くことが懸念されている。崖に鈴なりに並ぶ、愛らしい彼らの姿を間近に見られるチャンスは失われつつある。
気候変動の最新記事