大統領選へ議論加速。若者の声を受けるグリーン・ニューディールとトランプ(下) | EnergyShift

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大統領選へ議論加速。若者の声を受けるグリーン・ニューディールとトランプ(下)

大統領選へ議論加速。若者の声を受けるグリーン・ニューディールとトランプ(下)

2019/11/15

気候変動問題は2020年米大統領選の大きな争点のひとつだ。アレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員らが打ち出した「グリーン・ニューディール」を、トランプは一蹴し、パリ協定からも離脱する。米政府と次期大統領選の行方をニューヨーク在住のジャーナリスト、南龍太氏が解説する。

世論と若者の声

民主党の中道派は、バーニー・サンダース氏やエリザベス・ウォーレン氏の主張よりも穏健な論陣を張る一派とされる。中でも次期大統領選で最有力視されているのが、前副大統領で経験豊富なジョー・バイデン氏だ。「復元派」と呼ぶ向きもある。パリ協定離脱などのトランプ政権の施策を、再びオバマ前政権時代の路線に引き戻し、「復元」を目指している。

ジョー・バイデン氏(2019年5月フィラデルフィアにて)

ただ、大統領選候補者の1人、ベト・オルーク元下院議員らが掲げるような、「上院で勝利して大統領となれば、復元を通り越してさらに踏み込んだ対策を取るべき」とする意見も強まりつつある。同氏もまたグリーン・ニューディール(Green New Deal: 以下GND)に賛同していた(オルーク氏は11月に党指名候補争いから撤退を表明)。

各候補がGNDを支持する背景には、年々高まる地球温暖化対策への危機感と、それを主張する若者の声がある。

世論調査を手掛けるギャラップ社によると、「地球温暖化は人間の活動によるものだ」と回答した米国人の割合は、2015年の55%から、2019年には66%となり、11ポイント上昇している。

アメリカ人は気候温暖化をどのようにみているか?*1

また、米民間調査会社ピューリサーチも、「地球気候変動が福利に対する主要な脅威」と見なす米国人は、2013年の調査時の40%から2019年に57%に上昇しているとのデータを示す*2

GND決議案の共同起草者民主党エド・マーキー氏にとって、その実現に向けた取り組みは積年の課題である。オバマ政権下では「ワクスマン・マーキー法案(2009年)」を提出するなど気候変動問題の解決に奔走したが、うまくいかなかった。2010年代の「シェール革命」で比較的クリーンな資源の天然ガスが、安く安定して手に入りやすくなったことを背景に、気候変動に関する国内議論が下火になったことも要因だった。

オバマ政権時代の「グリーン・ニューディール」は、10年間で再生可能エネルギーへの1,500億ドルの投資や、500万人の雇用創出を謳(うた)っていた。それから約10年、リーマン・ショックの煽りを受けた不景気のさ中にあった当時と現代とでは、時代背景は大きく異なる。

今昔2つのGNDは、内容の違いもさることながら、今の決議案は草の根運動の「サンライズ・ムーブメント」から始まり、若者らに支持されていることが特徴だ。異常気象のニュースが毎月のように報じられる中、危機意識を持つ10代、20代の若者は多い。

その声を拾い上げ、拡声器のように世に届けたのが、若き新星のオカシオ=コルテス氏だった。そして、2016年の予備選当時から若者の一部で熱狂的な支持を集めてきたサンダース氏も賛同。他の候補も単に「GNDに否定的」という姿勢では済まされなくなっている。

GNDが10年の時を経て今再び「若者」の間から出てきたのは、偶然ではなく必然だったように映る。

支持と対案

とはいえ、GNDが抽象的で具体性に欠けるとの弱点は、まだ克服されたわけではない。「GNDは夢」と指摘したペロシ議長の下で発足した下院気候危機対策特別委員会のキャシー・キャスター委員長(民主党下院議員)は、GND決議案が示された後、ニューズウィークの取材に応じた。

その際、気候変動に関する包括的な政策提案を「ニュー・グリーンディール」の精神に基づいてまとめる、と答えたという。同誌は「グリーン・ニューディールという言葉を意図的に避けたか」と推測している。下院で影響力を持つペロシ、キャスター両氏だが、「GNDにもろ手を挙げて賛成しているわけではない」との思いが透ける。

当のオカシオ=コルテス氏は、それも良し、としているようだ。「下院で採択されれば大きな前進だが、決議案を提出した時点で、目標の9割は達成できている。この決議案がたたき台になる」と自信を見せた*5

その思惑通り、GNDの議論は盛り上がりを見せる。2019年11月8日現在の世論調査*6で平均支持率トップのバイデン氏は6月に気候変動対策を打ち出した。1兆7,000億ドルを投じて全米で環境関連の雇用を生み出しながら、気候変動やエネルギーの諸問題に取り組む「クリーン・エネルギー革命」を掲げる。同時に、排出源となる石油・天然ガスの規制や、生物多様性の保護などに今後10年で4,000億ドルを投じる計画だ。これはドルの現在価値で、ちょうど半世紀前に人類を月に送った「アポロ計画」への投資額の2倍だと強調する。

バイデン氏はまた、「2050年までに温室効果ガスの排出ゼロ」という、副大統領を務めていたオバマ政権時代と同じ目標を掲げ、復元派として期待される役割をアピールすることも忘れなかった。大統領に就任した暁には、初日にトランプ政権が表明したパリ協定離脱を白紙にする。

同じく有力候補の1人、ウォーレン氏も、海洋での化石燃料の資源掘削装置へのリースを凍結したり、水圧破砕法を禁止したりといった、エネルギーや気候変動に対する独自策を公表。10年で環境関連の調査や産業に2兆ドルを投じて数百万人を超す新規雇用を生み出し、GNDの野心的目標の達成を助けるとしている。

パリ協定復帰もさることながら、地球救済のための緊急策を講じるとしたオルーク氏は、先述の通りだ。

エリザベス・ウォーレン 2019年2月

各候補の主眼は、上院奪還による上下院のねじれ解消と大統領選の勝利を前提として、オバマ政権時代に時計の針を戻すばかりでなく、さらに一歩踏み込んでどこまで「野心的な」温暖化対策を打ち出すかに移りつつある。

一方の共和党も、気候変動問題に対する世論の高まりを受け、政策論争を避けては通れなくなっている。勢い、GNDを意識したきめ細かな対策が求められる。

GNDの決議案が示されてから2カ月近くたった2019年4月3日、共和党のマシュー・ゲイツ下院議員が示した案は「グリーン・リアル・ディール」。発表の席では、「GREEN NEW DEAL」の「NEW」に大きくバツ印を付けて「REAL」と上書きし、対抗心をあらわにした*7

GNDを非難したり無視したりするだけでなく、このように対案が出てきて建設的な議論ができるようになることが今後期待される。

拙速や生煮え、非現実的といったGNDに対するさまざまな反対意見はありながらも、「決議案がたたき台になる」(オカシオ=コルテス氏)との狙いはおおむね功を奏したと言えるかもしれない。

予備選と本選、変える戦い方

果たして民主党が政権を奪還するかというと、まだ道険しと言わざるを得ない。とりわけ、本選で雌雄を決する「スイングステート」とされる州として、「ラストベルト」が再び脚光を浴びている。

ラストベルトは、IT産業が盛んな「シリコンバレー」や、日本の工業地帯「太平洋ベルト」といったポジティブなイメージと違い、「ラスト」(Rust=錆)とたとえられる、使われなくなった工業機械や工場が集積する地帯で、製造業がさびれたエリアを指す。

ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアの3州が含まれ、以前は民主党の地盤だった。しかし2016年の大統領選では、トランプ氏がヒラリー・クリントン氏を僅差で上回り、最終的に勝利するに至ったきっかけとなった鬼門の州だ。オバマ政権下でのエネルギーの開発規制などにより衰退が加速したと不満を抱き、共和党に票を投じた「元民主党支持者」が少なくないとされる。

ラストベルトのひとつ、ピッツバーグベスレヘムの製鉄所跡

こうした有権者を再び呼び戻すことが来年の大統領選では最重要課題だが、GNDが地域経済の足かせになるように伝わってしまえば、有権者らの心はますます民主党から離れていく。

しかしその大前提として、各候補者は目下、眼前に迫る党内対決を勝ち抜かねばならない。予備選の主要な候補者に多く支持されているGNDに対し、後ろ向きな姿勢を示せば、若い世代やその代弁者でもあるオカシオ=コルテス氏から、気候変動対策に弱腰だとなじられかねない。各候補は予備選と本選とで戦い方を変えるという、柔軟なしたたかさが求められている。

無論、仮に2020年に民主党が政権を奪還したとしても、GNDがすぐに実効を上げられると見る有権者は、そう多くないようだ。今の決議案は、組織、ひいては国家の理想像を示す「ビジョン・ステートメントのようなもの」(東京大学公共政策大学院の有馬純教授)とも言われる。しかしそうしたビジョン、羅針盤があればこそ、国民や企業は先々を展望できるし、公約である限り、その実現が追求されなければならない。

再度強調するが、今のGNDはオバマ政権下でのそれとは違い、草の根、若い世代の強い、悲痛な叫びにも似た要請の上に成り立っている一側面の事実を、忘れてはいけない。

先の国連総会のスピーチで、激しい感情のままに思いの丈をぶつけた少女の言葉――賛否はあるにしても――を政治家たちは覚えておくべきだろう。「私たちはあなた方を見ている」(スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん)

南龍太
南龍太

政府系エネルギー機関から経済産業省資源エネルギー庁出向を経て、共同通信社記者として盛岡支局勤務、大阪支社と本社経済部で主にエネルギー分野を担当。現在ニューヨークで執筆活動を続ける。著書に『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』(いずれも産学社)など。東京外国語大学ペルシア語専攻卒。新潟県出身。