このエネルギー基本計画で、気候変動を解決できるか? | EnergyShift

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このエネルギー基本計画で、気候変動を解決できるか?

このエネルギー基本計画で、気候変動を解決できるか?

2021年09月06日

2021年7月21日、経済産業省の基本政策分科会において、第6次エネルギー基本計画の素案が公表された。しかし、設定された目標にはさまざまな課題が指摘されている。その中でも、2030年温室効果ガス排出削減目標の46%と、それを達成するための電源構成の目標については、パリ協定の目標達成に向けて、不十分だという見方がある。それはどういうことなのか、350.org Japanの横山隆美氏が解説する。

350.org Japanリレーエッセイ

気候変動を食い止めるために2030年まで何をするのか?

2021年7月21日に経済産業省がエネルギー基本計画の素案を公表しました。近年、地球温暖化により被害が拡大していると分析されている大規模な自然災害が増加し、今年も北米の大規模森林火災、ドイツや中国、インドの洪水、熱海の土砂崩れなどが発生しています。

今回公表された素案は、このような状況にある私たちの気候の将来とそれに伴う社会や生活に大きく影響を与えるものです。

2020年10月に菅首相が2050年カーボン・ニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を宣言しました。宣言は、日本では思い切った発言と受け止められましたが、これは我が国も署名している、パリ協定の1.5℃目標を達成するための必要条件であり、国際的には当たり前の目標です。

2050年にカーボン・ニュートラルと言っても30年先の話であり、それを確実なものにするためには9年後の2030年目標が大変重要です。早い時期に大幅な削減ができないと、その間に温室効果ガスの蓄積が進行して、その後の削減がさらに難しくなります。

エネルギー基本計画の素案は、2030年のエネルギー資源別構成を設定するものであり、今後の温室効果ガスの排出量を決定する最大の要因となります。脱炭素が社会的注目を集めている中、素案に抜本的なエネルギー転換を盛り込むことが期待されていました。

国際的に見劣りする削減目標、問題の多い電源構成

残念ながら、今回の素案にはいくつか問題となるポイントがあります。

まず、2030年の温室効果ガス削減割合の2013年比46%です(50%の高みを目指すとは書いてありますが)。これは一見1.5℃目標の達成に必要とされる、排出量の半減に合致しているように見えますが、国際的標準の1990年比で見ると、下表の通り約40%削減に留まっています。また欧米先進国の目標にも見劣りします。さらに、産業革命以降これまでに先進国が蓄積してきた排出量が温暖化の原因であることを考慮すると、日本はさらなる排出削減責任を負うべきと言われています。

先進国の2030年CO2排出削減数値目標の比較(1990年比)

2点目は、石炭火力を2030年に19%としていることです。1.5℃目標達成には日本を含むOECD加盟国は、2030年に石炭火力を全廃することが求められています。石炭火力はいくら高効率に改善できても、他の化石燃料と比べて大量の温室効果ガスを排出します。これでは、脱炭素社会に向けた国際的潮流を無視していることになります。

次の点は、原子力を20~22%に温存したことです。現時点でエネルギー源の構成比は6%ですので、20~22%にするためは、再稼働、老朽原発の運転期間延長、新設が必要になります。福島原発事故からの復興が10年を経てもまだ不十分であることや、チェルノブイリの事故現場には今後2万年間、人が住むことができないことなどを考えれば、持続可能なエネルギー源とは言えません。

最後に、再生可能エネルギーの36~38%です。この計画を議論している分科会メンバーは、2019年の18%からの大幅積み上げだと自画自賛していますが、EUの再エネ2020年実績38%と比べると10年遅れています。

分科会の議論の場には、100%再エネで賄える、いや日本での再エネ拡大には限界があるという全く異なる研究報告が出されましたが、驚くのは、その2つの報告のどちらが合理的なのか意見を戦わせていないことです。この程度の比率で抑えておこうという、初めに結論ありきではないかという疑念を禁じえません。

出典:資源エネルギー庁 「エネルギー基本計画(素案)の概要」

日本政府は手段にとらわれすぎて目的を見失っている

EUの対策との違いが出る原因は、手段と目的の混同だと思います。目的は生態系の崩壊など地球規模の危機につながる気候変動を止めることであり、2050年温室効果ガス排出ゼロは手段です。

分科会の議論は、コストや今の延長での実現可能性に集中しています。世界が1.5℃目標に拘っているのは、それが持続可能な気候を維持する最低ラインだからです。

IPCCの報告書では、1.5℃の上昇でも海の熱帯雨林と言われているサンゴ礁が、70%~90%減少するとされています。サンゴ礁が消失すれば、それに依存する小生物が滅亡し、食物連鎖を通じ大型の魚の生存に影響が出ます。既に産業革命から1.2℃上昇しているにもかかわらず、議論にはその危機感が欠けています。

コロナ対策で政治家より科学者の予測の方が的確であると同様に、気候変動でも科学者の意見を尊重するべきです。科学者は今すぐ抜本的な対策を講じなければ気候崩壊すると警鐘を鳴らしています。

先日、国立環境研究所の生物多様性のセミナーがありました。その中で現在の温暖化が地質学的に第6番目の生物の大量絶滅をもたらす可能性を質問したところ、聞かれた2人の研究者がともに、「起こりつつあると思う」と回答していました。

エネルギー基本計画を議論している分科会の座長は「この10年は助走期間だ」と発言していましたが、タイタニックの船長が氷山を前にして、舵を切らずスピードを落とせと指示しているように響きます。

前述の北米の大規模森林火災、ドイツや中国の大洪水なども、人災ではなく日本とは関係のない他国の天災だと思っているのでしょう

IPCC第6次報告書

政府に声を届けることも、市民の将来世代への責任

市民運動の経験から言えば、素案から原案には小修整がなされるだけで、原案が修正されることは稀です。しかし、このような危機を前に何もせずに過ごすことは、将来世代に対する責任を回避することになると思います。

近々、エネルギー基本計画のパブリックコメントが公示されます。SNSを通じて市民の声が見えやすくなった今、多くの市民の方の意見を伝えることで、今までになかった原案の大幅修正へプレッシャーを掛けることができます。例えば、250を超える賛同団体が展開している「あと、4年未来を守れるのは今」キャンペーン等に参加し、市民の声を届けるアクションに参加することも、その手段の1つです。将来世代に対する責任として、少しでも政策を変えていく行動をとることも、考えてみてください。

横山隆美
横山隆美

350 Japan代表 1976年東京大学経済学部卒。新卒で米国保険グループであるAIGに入社。その後1992年から25年に亘り、AIG傘下の、アメリカンホーム保険会社、AIU保険会社、富士火災海上保険(現:AIG損保)の代表者を歴任。元々環境問題に関心のあったことに加えて、米国人の同僚の「立派な市民となるためには、仕事人の責任、家庭人の責任、社会人の責任を果たすべきだ」という言葉が胸に刺さり、2017年末退任後、「これがすべてを変える」の著者ナオミ・クラインが当時理事をしていた、国際環境NGO「350.org」を知りボランティとして活動を開始。2020年から日本支部の代表を務める。 350.orgとは ニューヨークに本部を置く国際環境NGO。世界約180の国と地域で気候危機の解決に取り組んでいる。(1)新たな化石燃料関連プロジェクトを止める、(2)既存の化石燃料ビジネスに対する資金提供を絞る(ダイベストメント)ことで化石燃料使用を止める、(3)再生可能エネルギー100%の社会への公正かつ迅速な移行を目指す。という3つの目標を掲げ、それらを草の根の市民活動で達成しようというのが特徴。 https://world.350.org/ja/ https://350jp.org

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