ソーラーシェアリングの撤退理由から見る、生き残る条件 | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

ソーラーシェアリングの撤退理由から見る、生き残る条件

ソーラーシェアリングの撤退理由から見る、生き残る条件

2020年07月20日

これからのソーラーシェアリング

ソーラーシェアリングは、農業と発電事業を両立させたものだ。そのふたつをうまく成り立たせることが成功のカギとなる。しかし、必ずしもうまくいくとはかぎらない。では、どのような阻害要因があるのだろうか。千葉エコ・エネルギー代表取締役の馬上丈司氏が、ソーラーシェアリングの成功の条件について分析する。

気になるソーラーシェアリングの「撤退」事例

ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)が国内でどの程度普及しているのかについて、公的な統計データは農林水産省が公開している「営農型太陽光発電設備の許可件数」からうかがい知ることができる。

平成31年3月末(2019年3月末)時点で一時転用許可件数は1,992件となっており、これが公的な唯一の数値である。都道府県別の件数も公開されているが、最も多い千葉県でも298件、次いで静岡県が264件、群馬県が196件と続く。許可件数は東日本の特に関東地方に集中しており、西日本では100件を超えるのは徳島県のみとなっている。

この毎年の許可件数の推移では、一時転用許可の更新(再許可)件数も公表されている。これを見ていくと、ソーラーシェアリングに取り組もうとする事業者が気になるであろう、ソーラーシェアリングの「脱落数」が見えてくる。一時転用許可によるソーラーシェアリングの設置が認められるようになった平成25年の新規分と、その3年後の平成28年の許可件数を比較すると、96件と84件という結果になっている(注:平成27年度に1件だけ更新(再許可)がある)。

すなわち、ここで11件(平成27年度の1件を控除)が何らかの理由により再許可を受けなかったことになる。平成31年3月末時点まででは、いわゆる「不許可」の事例はないとされていることから、形式的には事業者が自発的に再許可申請を行わなかったと推測される。これを統計のある平成30年度末まで累計で見ていくと、再許可を受けなかった事例は累計81件にまで拡大し、その比率は1割に及ぶ。

では、これらの事例はどんな理由でソーラーシェアリングから撤退することになったのだろうか。農林水産省が下記のような統計データを公開している。ソーラーシェアリングの下部農地で、営農に支障がある事例を調査したものだ。

農林水産省 「営農型太陽光発電設備設置状況詳細調査(平成30年度末現在)調査結果について」から抜粋

これらの事例は、資料にあるとおり平成30年度末で存続しているものを集計しているので、既に撤退したものは含まれていないが、営農にどんな問題が起きているのかを知ることはできる。見ての通り、全体の11%が営農に何らかの支障を抱えており、そのうち半数以上が単収減少すなわち作物の生産が計画通りに進んでいないというものである。

作物をうまく育てるための改善は可能か

私も仕事柄、「運転開始後のソーラーシェアリングで作物がうまく育てられていない」という相談を多く受けているが、これには是正可能なパターンと不可能なパターンがある。不可能なパターンとは、架台の設計がそもそも農業に適していない場合が最も多く、遮光率が高すぎたり、架台の下の空間が不十分であったり、土壌が悪いという場合もあれば、営農者の単純な能力不足というケースもあった。

これらの不可能なパターンでも、ソーラーシェアリング設備を全面的に立て替えたり、太陽光パネルを大きく間引いたり、大規模な土壌改良を行えば営農の適正化は可能となる。ただ、ほぼ全ての事業がFIT制度を利用しており、しかも営農費用を考慮しない利回り計算の価格で設備を購入してしまっていることから、改修・是正費用が捻出できない。

一方の是正可能なパターンは、主に遮光率が高すぎて作物の生育に失敗している場合で、且つ架台設計は営農に十分な配慮ができていることが前提になる。水田での稲作の場合は太陽光パネルを減らすしかないが、畑作や果樹であれば作物の見直しで生産の改善ができる可能性がある。ここが、「生き残るソーラーシェアリング」として重要なポイントだ。

生き残るソーラーシェアリングには多様な作物に対応できることが重要

販売業者・施工業者の信用しすぎはトラブルの原因に

農作物の生産には様々な環境要因が絡み、いわゆる光飽和点だけに注目した設計には注意が必要となる。特にトラブルが多いのは、光飽和点さえクリアしていれば良いという販売業者や施工業者の言葉を鵜呑みにしてしまい、いざ作物が育たなかった時に是正する手段が何もなくなってしまうというパターンである。ほとんどの場合、営農トラブルが起きてその販売業者や施工業者に相談しても、改善のための提案は受けられない。

また、特定の作物だけに限定した設備になってしまった場合、市場環境の変化でその作物の価値が大きく下がってしまったり、病害虫の蔓延で生産が困難になったりした際に、作物転換ができなくなるリスクがある。そうなると、十分な生産が確保できなくなって事業の撤退に追い込まれるか、費用をかけて設備を他の作物に適応するよう改修が必要になる。

ソーラーシェアリングが本格的に普及し始めてからまだ7年ほどだが、既にここまで述べてきたような失敗事例・撤退事例が生じてきており、FIT期間の20年やそれ以上の安定した営農と発電事業を行っていくことができるソーラーシェアリングの条件というものが、徐々に見えてきている。

これから更に普及していこうというフェーズに入っている今こそ、新たにソーラーシェアリングに取り組もうとされる方々には、過去の事例に学び農業と共生するソーラーシェアリングの意義を知っていただきたい。

参照

連載:これからのソーラーシェアリング

馬上丈司
馬上丈司

1983年生まれ。千葉エコ・エネルギー株式会社代表取締役。一般社団法人太陽光発電事業者連盟専務理事。千葉大学人文社会科学研究科公共研究専攻博士後期課程を修了し、日本初となる博士(公共学)の学位を授与される。専門はエネルギー政策、公共政策、地域政策。2012年10月に大学発ベンチャーとして千葉エコ・エネルギー株式会社を設立し、国内外で自然エネルギーによる地域振興事業に携わっている。

エネルギーの最新記事