審議会ウィークリートピック
審議会ウィークリートピック「容量市場の需要曲線を理解する」では、第24回「容量市場の在り方等に関する検討会」で議論された、容量市場2020年度メインオークションにおける需要曲線作成のポイントをお伝えした。
今回はその後、電力広域的運営推進機関(以下、広域機関)で5月29日に開催された第25回検討会および6月25日に開催された第26回検討会の議論の内容を報告したい。
発動指令電源の発動指令時の精算単価
「発動指令電源って、なんだっけ?…」
審議会もその開催回数が進むと、用語の説明も無く、いきなり制度詳細だけが議論されている。制度の大枠も決定済みであり、あとは細部を詰めるだけ、という状態となっている。
これでは審議会配布資料を読むだけでは、なかなか全体像把握が難しいと思われるため、当「審議会ウィークリートピック」では、その補足説明を加えることにより、少なくとも本稿記事はスムーズに読んでいただけるよう努めている。
発動指令電源とは、容量市場に参加する電源等のうち、「単体の期待容量が1,000kW未満の電源や安定的供給⼒を提供できない⾃家発・デマンドレスポンス(DR)などを単独または組み合わせることで、期待容量が1,000kW以上の供給⼒を提供するもの」と定義されている。
容量市場全般に関することなのでここで補足しておくと、「期待容量」とは、登録した設備容量のうち、実需給年度において供給エリアの供給⼒として期待できる容量のことである。 定格容量が1万kWであっても、その1万kWがそのまま容量市場で登録されるわけではないことに留意が必要である。
メインオークション募集要綱・容量拠出金 2020年1月 電力広域的運営推進機関資料より作成(P16)容量市場で落札された発動指令電源は、容量確保契約に基づき、応動の3時間前までに一般送配電事業者から発動指令が行われる。発動指令された場合は、相対契約やJEPX時間前市場への応札等を通じて小売電気事業者に供給力を提供することが「リクワイアメント」として求められている。
JEPX時間前市場で約定された場合、および相対契約の場合、その発動指令電源の買い手・使用者は、小売電気事業者であることが一つのポイントである。現行の調整力公募の商品「電源Ⅰ´」は発動指令電源とほぼ同じ商品であるが、電源Ⅰ´は一般送配電事業者だけが買い手・使用者であることと比べ、大きな変化である。
相対契約の場合は問題ないが、時間前市場に応札する場合、応札価格次第では約定しないということ等が起こり得る。ゲートクローズ後は、調整力の唯一の買い手・使用者は一般送配電事業者となる。時間前市場で未約定の場合、一般送配電事業者が発動指令電源を調整力として活用すること自体は変わりないが、価格(精算単価)が決まっていない、という問題があった。
第25回検討会での議論の結果、精算単価はなるべく実需給に近い価格を用いるとして、「時間前市場における約定の新しいものから異なる事業者の5取引の単純平均価格」とされた。
もし精算単価を市場価格より高く設定した場合、事業者がわざわざ市場応札を行わずとも自動的にその高い精算単価が支払われるため、市場応札を行うインセンティブが減少し、小売電気事業者の調達機会も失われることが問題となるためである。
容量停止計画の調整
送電線等の電力流通設備は、メンテナンス作業等のために一定期間停止させる必要がある。流通設備が停止すると、その送電線に連系している発電所は送電することが出来なくなるため、発電所も停止させる。このため現在は、流通設備と発電所の停止をあらかじめ同調させることを目的に、一般送配電事業者と発電事業者等の間で、実需給年度の2年前と1年前に作業停止計画の調整を行っている。
容量市場導入後は、容量提供事業者は、広域機関や一般送配電事業者が実需給年度2年前に実施する容量停止計画の調整依頼に応じることがリクワイアメントとして定められている。容量停止計画とは「電源等の維持・運営に必要な作業」及び、「その他の要因に伴い電源等が停止又は出力低下する計画」のことである。
容量市場では、全国で計画停止調整を行うことを前提としてあらかじめ、計画停止可能量を確保するために必要な供給力(計画停止可能量1.90ヶ月を満たす追加設備量。全国H3需要の2.2%)を確保している(審議会ウィークリートピック:容量市場の需要曲線を理解する 前編)。
もし計画停止調整が不調に終わり、容量が不足する場合には、実需給年度の1年間に実施される「追加オークション」で追加調達する必要があるため、容量停止計画の調整は実需給年度の2年前に行うこととしている。
実需給年度の2年前に実施する容量停止計画の調整について 2020年5月29日 容量市場の在り方等に関する検討会事務局(電力広域的運営推進機関)資料より(P5)このように、計画停止調整が不調となった場合には追加費用が発生してしまうため、「供給信頼度確保に影響を与える場合」等に該当する電源を「調整不調電源」と位置付け、容量確保契約金額の減額を行うこととしている。
容量停止計画の調整の具体的な手順としては、まず2年前の10月頃に、各社から提出された容量停止計画をもとに広域機関が供給信頼度評価をおこない、停止調整が必要なエリア・月に関する情報を広域機関Webサイトに掲示する。発電事業者等はこれを見て、自社が契約金減額対象となっていないかどうかを確認する。もし減額対象である場合、事業者が自主的に容量停止計画を調整・日程変更することが想定されている。ただし、このようなボランタリーな仕組みで実務的に本当にうまく機能するのかどうかという点に関しては、検討会委員から多くの疑義が示されたことから、制度詳細の工夫については、今後も継続検討されることとなった。
容量確保契約締結後の電源等の差し替え
容量市場において、電源等の安易な「差し替え」を行うことは、支配的事業者による市場操作・売り惜しみに直結し得るため、大原則として、差し替えは「やむを得ない理由により供給力を提供できない場合」、「市場管理者(広域機関)がその理由の妥当性を確認できた場合」に限られている。
第25回検討会では、電源等の差し替えの具体的な手順等を以下のように整理した。
- メインオークション後の11月頃、容量確保契約の締結結果公表以降に差し替えの申し出を受け付ける(発動指令電源以外)。
- エリアをまたがる差し替えについては、供給信頼度の低下が無きよう、市場分断をしているエリア間の差し替えは認めない。
- 電源等区分が異なる電源等との差し替え(例えば安定電源と発動指令電源)については、原契約のリクワイアメントを履行することを前提に認める。
また、電源差し替えを行う場合は、「差し替え掲示板」を活用することを条件としており、掲示板には、「対象となる実需給年度」・「事業者名・連絡先」・「掲示期限」を必須情報として、その他の「対象エリア」等は任意掲載情報とした。
仮に、支配的事業者が差し替え先電源情報を社内だけに秘匿し、内々に差し替えるならば、新規参入者との競争条件は大きく異なってしまう。
掲示板への情報「出し惜しみ」は、容量の「売り惜しみ」と表裏一体の関係であるため、実質的な掲示板の活用状況は、電力・ガス取引監視等委員会や広域機関による監視対象となるものと考えられる。
供給計画との関係
供給計画とは、広域機関が今後10年間の電力需給見通し、発電所の開発や送電網の整備等をまとめた計画のことであり、すべての電気事業者は毎年、電気事業法に基づき国に届け出る義務がある。
資源エネルギー庁からは、供給計画に計上できる見込みがない電源については、メインオークションにおいて入札・落札対象としないことが適当であるとの見解が示されており、広域機関では、適切な供給力の提供が見込まれる電源のみを容量市場メインオークションの落札対象とすることとしている。
メインオークションの応札期間は7月1日~7日であり、約定結果の公表期日は8月末である。そして11月には、容量確保契約の締結結果を踏まえた集計とシナリオ分析が公表される予定である。
(Text:梅田あおば)
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