私たちが預金などとして金融機関に預けたお金が、社会に悪影響を与える事業に使われている事実をご存知だろうか。気候変動アクションとして、金融機関に対し、石炭火力発電所などへの投融資引き揚げを求める運動(気候ダイベストメント運動)が広がっている。350Japanのスタッフによる連載コラムの第2回は、このダイベストメントについて詳しく紹介する。
気候変動に関心をお持ちの皆さんは、ダイベストメントという言葉を聞いたことがあるかもしれません。今回はダイベストメントが、市民による気候変動アクションとしてグローバルに広がってきた経緯と日本の現状について、さらに皆さんが参加できるアクションについて、お伝えしたいと思います。
ダイベストメント(divestment)は、英語で「投資」を意味するインベストメント(investment)の反対語で、「投資撤退」「投融資引き揚げ」などと訳されます。歴史を辿れば、南アフリカ共和国の人種差別政策「アパルトヘイト」への抗議やタバコ産業への抗議など、ダイベストメントの手法は気候分野に限らずに有効な社会運動として行われてきました。
気候ダイベストメント運動は、最初はたった数人の大学生から始まりました。2011年、アメリカペンシルバニア州スワスモア大学の学生たちは、大学が寄付基金を石炭採掘事業に投資していたことを突き止めたのです。学生たちは大学と交渉し、事業から投資を撤退してほしいと訴えました。
2008年にやはり数人の大学生と教師により設立された350.orgは2012年、世界中の化石燃料産業からダイベストメントを求める運動を呼びかけました。当初は大学などの教育施設、宗教組織、慈善財団などが主流でしたが、今では地方自治体、年金基金や金融業界にまで広がりを見せています。
こうした中には例えば、日本の皆さんにも馴染みのある、オックスフォード、ケンブリッジ、スタンフォード、コロンビア、カリフォルニアなどの大学や、ニューヨーク、サンフランシスコ、パリ、コペンハーゲン、ストックホルム、シドニーなどの地方自治体が名を連ねています。また、アイルランドは国として化石燃料からのダイベストメントを決めています。
直近では、2020年12月にニューヨーク州の年金基金がダイベストメント方針を発表しマーケットへの影響力がニュースとなりました。
2021年1月時点で、化石燃料からのダイベストメントを表明している機関は1,308機関、資産総額は14.5兆米ドル(約1,500兆円) に達しています。パリ協定締結前の2014年と比べると、過去6年間で実に290倍もの劇的な成長を遂げ、その数は今も増え続けています。
350.orgのキャンペーン「fossil fuel divestment」より
このようにダイベストメントが広がってきた背景には、化石燃料ビジネスが気候変動リスクだけでなく、金融リスクとも見なされるようになってきたことが挙げられます。温暖化の主たる原因である二酸化炭素の最大の排出源は石炭火力発電所ですが、パリ協定の1.5度目標を達成するためには、先進国では2030年までに、世界全体では2040年までに段階的に全て廃止しなければなりません。人類が今のペースでCO2を排出し続けると、1.5度に抑えるために排出できるCO2の量(カーボン・バジェット)はあと7年未満で使い果たしてしまいます。つまり、科学者が警告するように新しい化石燃料施設の開発の余地は残されていないのです。
このような状況を踏まえて、世界の多くの投資家や金融機関が、石炭関連ビジネスを皮切りにダイベストメントを始めています。今や131もの世界の主要な金融機関*1が脱石炭の方針を掲げています。ここには三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループなど日本の大手金融機関も含まれていますが、まだ現実的には課題が多いと言えます。さらに石油・ガスについても、66の世界の主要な金融機関がダイベストメント方針を掲げていますが、この中に日本の金融機関は含まれていません。
*1:運用資産残高または融資残高が100億米ドル以上=約1兆円以上の金融機関
昨年(2020年)12月29日、悲痛なニュースが飛び込んできました。ブンアン2石炭火力発電所への国際協力銀行(JBIC)および民間銀行による協調融資17億6,700万米ドル(約1,833億円)が発表されたのです。
三菱商事や中国電力、韓国電力公社などが出資し、ベトナム中部に600MW×2基の超々臨界圧の石炭火力発電所を建設する同事業には、再三にわたって世界中の環境NGOのみならず、若者グループ、そして海外の投資家連合からも異例の異論が唱えられてきました。気候変動への悪影響はもちろん、日本よりも低水準の大気汚染対策などによる健康被害の懸念や環境アセスメントの不備など様々な問題が指摘されてきました。
さらに驚くべきことに、同事業は日本政府が「地球環境保全目的に資するインフラ整備」の支援を目的としてJBICに創設したスキームの対象案件であることが判明し、グリーンウォッシュであるとの批判が今後ますます強まることは必至です。
民間銀行としては、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行および三井住友信託銀行が協調融資を行なったと見られています。各行は「原則、新規石炭火力発電所の建設を支援しない」という方針を掲げていますが、ブンアン2は「支援表明済み案件」として、方針は適用されないとしているようです。
4行はビジネス戦略を持続可能な開発目標(SDGs)とパリ協定と整合させると謳った国連責任銀行原則(PRB)に署名しており、自らのコミットメントとの整合性が問われています(ちなみに同事業からは、英国、シンガポールの銀行団と香港の企業が撤退済み)。
国内の環境NGO5団体は、日本の官民に対してブンアン2からの撤退を求める団体署名を1月24日締め切りで実施しました(1月25日に提出*2)。また、若者のグループであるFridays For Future Japan(FFF Japan)も三菱商事や銀行団に対して撤退を求める動画を公開しており、スウェーデンの環境活動家グレタさんのメッセージも含まれた動画の再生回数は計20万回を超えています。FFF Japanは、三菱商事や銀行団のカスタマーセンターを通じた電話・メールによる抗議アクションも呼びかけています。
こうした個別案件のみならず、350Japanは金融機関の方針強化を求めるために、誰もが参加できるアクションとして、「レッツ・ダイベスト」キャンペーンを展開しています。
私たちが預金や投資した「お金」がまわりまわって気候危機を悪化させるような事業を支援しているかもしれません(図)。そうならないために、個人や団体が金融機関から「ダイベスト」することができますが、大事なのは金融機関にダイベストメントの理由を伝えることです。
まずは、気候危機を加速する取引から撤退し、持続可能な事業に投融資してほしいと意思表示を行い(宣言)、その上で実際にクールバンク*3に口座を開いて「報告」することで、金融機関が気候危機の加速ではなく解決に向けた行動を行うように後押しします。
ダイベストメントの仕組み(350.org提供)
こうした声や行動は金融機関に着実に響き、方針の強化に繋がってきています。それでも、海外の金融機関と比べて、日本の金融機関は脱石炭・脱化石燃料方針で遅れを取っており、方針強化を求めるさらなる市民の声や行動が必要です。なぜなら、欧州などの政府や金融機関の気候政策が日本と比べて進んでいるのも、市民が粘り強く声を上げてきたことも大きいからです。気候危機という大きな問題を前に、一人一人ができることは小さいと思うかもしれませんが、市民の力が合わさり大きくなった時、国や金融機関の政策に大きな影響を及ぼすことができます。私たち一人一人が求める未来のビジョンを声にし動いていくこと、それを一緒にできたら嬉しいです。
*2:2021年1月25日【共同プレスリリース】39カ国の128団体が日本の官民にブンアン2石炭火力からの撤退を要求
*3:調査により、化石燃料や持続可能ではない原子力への投融資が確認されなかった銀行(=クールバンク)のリストも公開中。
2019年のアース・デーでの350.orgキャンペーンブース
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