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「再エネ型経済社会」を実現するために、ソーラーシェアリングは有効だ

「再エネ型経済社会」を実現するために、ソーラーシェアリングは有効だ

2020年08月25日

これからのソーラーシェアリング

主力電源化が期待されるようになった再生可能エネルギーだが、現在の日本政府の政策は、なかなか新味が見いだせないでいる。これから普及が本格化するであろう「ソーラーシェアリング」は、むしろこれまでの政策を検証することで、新たな普及拡大が見いだせるのではないだろうか。千葉エコ・エネルギー代表取締役の馬上丈司氏があらためてこれからの政策を考える。

目新しさがない現在の「再エネ型経済社会」

今年(2020年)7月に入って、我が国のエネルギー政策の転換を示すような動きが相次いでいる。経済産業省では、7月22日に再生可能エネルギー大量導入・次世代ネットワーク小委員会と再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会の合同会議が開催され、事務局より「再エネ型経済社会」という新たな政策ビジョンが提示された。

この再エネ型経済社会の創造に向けた課題が複数提示されたが、それぞれ①競争力ある再エネ産業への進化②再エネを支える社会インフラの整備③再エネと共生する地域社会の構築が課題と定義されている。
また、7月17日の梶山経済産業大臣の記者会見における発言の中では、これらの課題に対する検討を行った成果物として、「再エネ経済創造プラン」を策定することにも言及している。

合同会議に提案された資料の論点には残念ながら目新しさがない (資源エネルギー庁「「再エネ型経済社会」の創造に向けて」2020年7月22日)

今回の合同会議に提案された資料の中身を見ていくと、再エネ型経済社会という括りがなされてはいるものの、各論では従来のFITを中心とした再生可能エネルギー政策の中で課題とされていた項目ばかりであり、これだけを見ると特に目新しさはない。
特に定量的な目標の設定に向けた論点がなく、例えば産業規模としていつまでにどの程度を目指すのか、それこそGDPにおける再生可能エネルギー産業の比率や、再生可能エネルギーといっても電気に偏った内容なのであれば、電化率なども評価軸になるだろう。

また、再エネ型経済社会という言葉では、再生可能エネルギーが大量導入された社会というイメージはつくが、その実現自体が目的化されてしまうと、エネルギー安全保障や気候危機対応というより上位の達成すべき事項が意識されなくなってしまう

極論すれば、再エネ型経済社会の議論では、最終的に再生可能エネルギー100%社会を目指すのかどうかも示されるべきであろう。FIP導入の議論の中でも、制度導入によってどの程度の再生可能エネルギー発電設備の新規導入や国内産業の育成に資するかといった、定量的な目標を伴うべき議論が欠如してしまっている。

その点から言えば、再エネ型経済社会とはどの程度の再生可能エネルギーが導入された状態なのかを定義し、その達成目標年次をいつに定めるかなどがまず議論されるべきである。

地域と共生する再生可能エネルギーとしてのソーラーシェアリング

こうした再生可能エネルギーを中心とした社会経済を考えていく中で、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)はどのような役割を果たし得るだろうか。

本連載の第1回で、ソーラーシェアリングが太陽光発電の主力電源化時代においてどのような役割を果たすかをまず提示した。

我が国が世界水準の再生可能エネルギー導入を果たすには、2030年時点で少なくとも150GWの太陽光発電導入が必要であり、今後10年間でその達成を目指すのであればソーラーシェアリングは十分なポテンシャルを持っているとした。

加えて農業自体の低炭素化への貢献や、都市近郊から農村部までの幅広い地域に賦存する農地資源のソーラーシェアリングへの活用は、平時にも非常時にも活用できる分散型再生可能エネルギー電源となり得る。

農業という地域の基幹産業との関わりによって、必然的に地域社会と密接に関係するエネルギー事業となると共に、長期にわたる事業の実施も期待される。

すなわち、ソーラーシェアリングは、今次提唱された再エネ型経済社会を目指すにあたり、特に「地域と共生する再エネ事業」としての要件を充足しており、「再エネと共生する地域社会の構築」に向けた導入が可能な電源である。

ソーラーシェアリングは「再エネで暮らす」ことの可能性を広げている

真に分散型電源としての再生可能エネルギーを大量導入していくためには、導入に際しての立地制約が少ないこと、需要に応じて柔軟に設備の規模を調整できること、その設備の設置や維持管理に必要な人材を大量に確保しやすいことなどが重要である。

この視点からすれば、ソーラーシェアリングは農地を活用することで立地制約が他の再エネ電源に比べて少なく、屋根置きの太陽光発電よりも設備の規模の柔軟な調整が可能であり、我が国で既に最も導入されている太陽光発電であれば設置や維持管理のための人材確保も期待できる。

日本のソーラーシェアリングにおける課題とは

一方で、課題もある。再エネ産業という視点で見た際には、ソーラーシェアリングも太陽光発電の一分野として国内産業基盤の脆弱性があることは否めない。FIT制度下では、再生可能エネルギーの普及拡大と平行しての国内の再エネ産業育成という視点が全く欠如してしまっていたため、メーカーも施工業者も猫の目のように変わる制度に翻弄されるばかりで、長期的な成長に取り組むことができなかった。

この点は、継続的な市場拡大の見通しを政策目標としてしっかりと掲げた上で、何が国内における再エネ産業の育成を阻んでしまったのかを明らかにし、早急に対策を講じるべきである。

奇しくも、ソーラーシェアリングによって日本の太陽光発電は再び世界から注目されつつある。しかし、手を拱いていればソーラーシェアリングでも我が国は数年で世界から置き去りにされてしまうだろう。

再エネ型経済社会を真に実現しようという気概を持つのであれば、その価値を体現するソーラーシェアリングが持つ可能性にこそ、まず目を向けなければならない。

参照

連載:これからのソーラーシェアリング

馬上丈司
馬上丈司

1983年生まれ。千葉エコ・エネルギー株式会社代表取締役。一般社団法人太陽光発電事業者連盟専務理事。千葉大学人文社会科学研究科公共研究専攻博士後期課程を修了し、日本初となる博士(公共学)の学位を授与される。専門はエネルギー政策、公共政策、地域政策。2012年10月に大学発ベンチャーとして千葉エコ・エネルギー株式会社を設立し、国内外で自然エネルギーによる地域振興事業に携わっている。

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