2021年11月に英国のグラスゴーでCOP26(気候変動枠組み条約第26回締約国会議)が開催されるが、それにさきがけて5月31日から6月17日にかけて、オンラインによる補助機関会合が開催された。さまざまな議題が扱われたが、中でも注目されたのは、海外で脱炭素事業を実施し、温室効果ガスの削減分の一部を得るしくみである、パリ協定の第6条に関する内容だ。その他の重要な議題も含め、Earth Negotiations Bulletinのレポートに基づいて報告する。
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国連の気候変動枠組み条約は、毎年年末に開催されるのが通例で、その間の毎年6月ごろに補助機関会合(SB*)が開催されている。
しかし、2020年から続く新型コロナウイルスの感染拡大により、昨年は補助機関会合と英国のグラスゴーで開催予定だったCOP26のいずれも開催されなかった。その一方で、気候変動はより深刻化しつつあり、大気中のCO2濃度は過去最高の419ppmを記録するまでになっている。
こうしたことから、1年延期され、今年の開催となったCOP26を成功に導くためにも、補助機関会合を開催することになった。とはいえ、コロナ危機は終息してはおらず、初のオンライン開催となったということだ。
オンライン開催となったことから、会期も通常の2週間ではなく3週間となった。事務局の集計によると、参加者は約5,800名で、2019年6月にドイツのボンで開催された補助機関会合の参加者約3,400名を上回っている。
3週間でおよそ80の非公式協議が行われ、さまざまな討議がなされた。とはいえ、決定はいずれもCOP26で行われることとなり、補助機関会合ではどこまで合意に近づけるかが課題となってくる。結果として、合意に近いものもあれば、そうでないものもある、ということになるが、合意との距離も一様ではない。
以下、注目の議題について、紹介していく。
*COPにはふたつの補助機関(SB)が存在する。実施に関する補助機関(SBI)と科学的・技術的助言に関する補助機関(SBSTA)。どちらも枠組条約に基づいて設立された補助機関であり、それぞれSBIは条約の効果的な実施に向けた評価・検討項目について助言を提供、SBSTAは排出量の算定や方法論に関する科学的・技術的な事項について情報・助言を提供する。
2018年のCOP24は成功した会議といわれている。それは、パリ協定のルールを決めることができたからだ。2020年の目標年次を前に、運用できるようになったことは、大きな意味があった。しかしそうした中で、唯一合意できなかったのが、いわゆるパリ協定の第6条である。
2019年のCOP25でも第6条は合意できなかった
これは、いわば排出権クレジットを扱った内容だ。大きく3つの課題がある。
第6条2項では、ある国が海外で温室効果ガス削減プロジェクトを実施し、削減分をホスト国と削減プロジェクトの実施国で分けるというものだ。日本政府が進めている二国間クレジットも、ここに分類される。
大きな論点となっているのは、削減分を二国間で分けるとしても、そもそもパリ協定に基づく削減目標(NDC)は国によって定義が異なっている。日本は今後、2030年46%削減をNDCとしていくことになるが、中国のようにGDPあたりでの削減を目標としている国もあるし、一部の途上国はそもそも数字ではなくどのような削減対策をしていくかということがNDCとなっている。
また、削減対象についての定義も異なる。こうなると、削減プロジェクトをしても、国によって削減になるかならないかが異なる可能性がある。また、二重計算になってしまう可能性すらある。
第6条4項は、2項とよく似ているが、削減プロジェクトの管理・認証を条約の下で行うというものだ。このとき、いわば認証手数料のようなものを支払うことになるが、これが途上国の気候変動対策の資金となる。
論点となっているのは、パリ協定に先行した京都議定書における、クリーン開発メカニズム(CDM)での削減クレジットを利用できるかどうかだ。
クリーン開発メカニズムとは、先進国が途上国で温室効果ガス削減プロジェクトを実施し、削減クレジットを得るというしくみだが、京都議定書の第二約束期間(2013年以降)の分は使われずに残っている。しかし、その流用を認めてしまうと、その分だけ温室効果ガスの新たな削減は少なくなる。
第6条8項は、非市場メカニズムによる削減プロジェクトに関するものだが、そもそもそれがどのようなものなのかも、明確となってはおらず、8項については2022年のCOP27での決定を目指すという方向となっている。
こうしたことに加えて、実際に削減プロジェクトを実施するにあたって、先住民族や女性の人権にいかに留意していくのかも、強く指摘された。
いずれの論点も、結論が出てはいない。しかし、議論の雰囲気は大きく変化した。というのも、日本を含む多くの先進国が2050年カーボンゼロを念頭に、NDCの野心化にコミットしているからだ。
野心的な目標を具体化させていくためには、第6条の活用をしていけばいい、ということが、共有されつつある。
日本もまた、46%削減は国内だけでは難しいと言われており、かねてより進めてきた二国間クレジットの活用が現実味を帯びている。その意味では、第6条の8項を除く部分で、COP26での合意は極めて重要なものとなってきている。
温室効果ガスの削減にあたって重要性を増しているのが、農業の分野だ。これまでにも増して、今回の補助機関会合では重要な議題となっている。
農業と気候変動問題には、さまざまな関係がある。
まず、気候変動そのものが農業に影響を与えること。したがって、農業分野での適応が必要となっている。そうした中、持続可能な農業に向けたさまざまな取組が求められる。
一方、農業、とりわけ畜産業は気候変動に悪影響を与えるという指摘がある。牛が出すメタンガスだけではなく、放牧地をつくるための森林伐採などの問題もある。逆に畜産業をやめて森林に戻すことができれば、CO2を吸収することができる。近年の肉食に対する批判や植物肉の開発の背景には、こうしたことがある。とはいえ、畜産における頭数の制限については、各国とも簡単に受け入れることはできないだろう。
そして、農地そのものがCO2を吸収し貯蔵するはたらきがある。こうした農地のはたらきをいかに促進させていくかも、課題となってくる。
農業における対応はまだ知見が十分ではなく、今後も引き続き議論されていくことになるが、食糧安全保障にもかかわる内容であり、課題としての重要性を増しているといえるだろう。
日本ではあまり注目されていないが、実はCOPにおける重要な問題の1つが、資金である。これは守られない口約束が続いているともいえるものだ。
先進国は10年前に、気候変動対策として1,000億ドルの資金を2020年までに拠出することにコミットメントしてきた。しかし、2021年現在、この資金はいまだに拠出されない。条約事務局長のパトリシア・エスピノサ氏はこのことに不満を表明。コミットメントがパリ協定の採択を可能にしたにもかかわらず、その実施をさまたげているということになる。
また、COP26の議長国である英国のアーチー・ヤング氏は、財政が優先事項であり、2025年までに気候資金を増やすというG7のコミットメントを引用し、その実現のために外交チャネルを使用していることを強調した。
COPの国際交渉は、ある面では南北交渉でもある。CO2を排出してきた先進国がいかに途上国を支援していくのか、ということだ。しかし、そうした途上国の要求は常に満たされてこなかった。
もうひとつ、注目された議題は、NDCの年限だ。これも、日本が主張するような10年単位を認めるのか、5年でそろえるのか、5年+5年で途中の見直しを織り込むのか、意見が対立したままだ。
今回の補助機関会合はオンライン開催だったため、対面での交渉ほど効率的ではなかった。対面での開催は、議場だけではなく廊下などで数多くの交渉が行われており、それが議論を引っ張っている。したがって、COP26は対面で行うべきだという意見は、あらためて強いことが示された。
とはいえ、11月にはコロナ危機が終息し、どの国も英国に集まることができるとは限らない。途上国のワクチン接種が遅れることも十分に考えられる。また、政府の交渉団だけではなく、金融機関や多国籍企業、環境NGOなど民間の参加者も多数集まり、サイドイベントを行うことが、感染拡大につながるのではないかという懸念もある。
そうでなくとも、英国に入国する場合には、2週間の待機が要請されるため、会議の2週間以上も前に英国に行く必要がある。
英国は各国の交渉団にワクチンを供与することを示唆しているが、それでもなお、対面での開催が確定したとはいえない状況だ。そうなると、オンラインでの開催になるのか、再延期となるのか、選択を迫られることにもなる。
開催に向けた懸念を残した補助機関会合だが、最大の成果は、参加した各国が、気候変動対策のモチベーションを持って交渉のテーブルについたことだ。18ヶ月のブランクを埋める会合となったということはいえるだろう。
Earth Negotiations Bulletinのレポート
(Text:本橋恵一)
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