今この瞬間に、地球上で永久に失われてしまうものがある。
温暖化によって地球上の壮大で記憶に残る風景が消失している。果てしない氷河、動物の楽園、海の産物──。コロナで海外旅行がままならない今、地球上のかつてあった美しい風景、地球の宝を守るべく、かの地に想いを巡らせてほしい。
連載「変わりゆく地球」
世界遺産のイルリサット・アイスフィヨルド。膨大な量の氷山に覆われているが静寂に包まれた世界は現実感を失わせるほどの絶景だった ©Hiroaki Oyamada (クリックすると別ウィンドウで開きます)
2019年はヨーロッパ大陸同様、グリーンランドも猛暑に襲われた年だった。7月末からの数日に、過去の統計の倍以上の数値である1日あたり100億トンを超える氷が融解したと推測されている。グリーンランドの陸地の氷の融解により、地下資源が活用できるのではないかとの期待ももたれている。同年アメリカ合衆国のトランプ元大統領が「グリーンランドを買収したい」と発言し話題になった。
氷山のすぐ近くを泳ぐザトウクジラを見ることができた。画面中央に潮を吹き上げる姿が見える。1枚目の写真は奥の陸地から撮影した ©Hiroaki Oyamada (クリックすると別ウィンドウで開きます)
グリーンランドはそのネーミングとは裏腹に、地表のほとんどが厚い氷に覆われており、氷の厚さは3000mにも及ぶ。氷の融解はこの年突然始まったわけではなく、徐々に起きていた。地元での漁業も犬ぞりを使って行われていたが、最近は犬ぞりが使えないほど氷の融解が激しく、飼育している犬たちの頭数も減ってしまった。犬ぞりによる狩りの文化が失われてしまうかもしれない。皮肉なことに、氷が張らない季節が長くなったおかげで船が使えるようになり、漁獲量が増え収入は増えている。地元の人と話していても気候変動による悪影響への悲壮感は薄い。地下資源開発の可能性もあり、むしろ経済的には期待感もうかがえる。
猛暑だった2019年の夏でも、氷が浮かぶ海の上はさすがに寒かった。クルーズツアーなら氷山をより近くで見ることができる©Hiroaki Oyamada (クリックすると別ウィンドウで開きます)
観光客でも氷山の風景に簡単にアクセスできる場所が、グリーンランド南西部にあるイルリサットの町だ。町の南側には世界遺産のイルリサット・アイスフィヨルドがあり、世界遺産エリア内の展望ポイントからは、北半球で最も多くの氷山を生み出すフィヨルドの風景を一望できる。タイタニックを沈没させた氷山もここから流れ出たと考えられている。
氷から流れ出る淡水と海水が混じり合うこの海域はプランクトンが豊富なため、多くの生物たちの生命を支えている。クジラや魚が集まり、魚たちを食べる海鳥やアザラシもここに暮らす。氷がなくなれば海洋生物の生命も脅かされる。
グリーンランドの氷床の消失は海面上昇の危機に直結する世界的な問題だ。近年の氷床の融解速度は科学者たちの予測を上回っており、もはや待ったなしの状況になっている。
*第1回はこちら「アイスランド 南部 ヴァトナヨークトル氷河」
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