ガス大手3社の料金規制解除へ 電力・ガス取引監視等委員会 第52回制度設計専門会合 | EnergyShift

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ガス大手3社の料金規制解除へ
電力・ガス取引監視等委員会 第52回制度設計専門会合

ガス大手3社の料金規制解除へ 電力・ガス取引監視等委員会 第52回制度設計専門会合

2020年12月21日

審議会ウィークリートピック

2017年の都市ガス小売全面自由化にあたって、旧一般ガス事業者(いわゆる大手事業者)と新規参入者との間で「公平な競争を行う環境が整うまで」は、一部の旧一般ガス事業者に対して料金規制を適用した。競争環境は整ったのか、料金規制は解除されることになるのか。2020年12月1日に開催された電力・ガス取引監視等委員会の第52回「制度設計専門会合」での規制解除に関する議論を中心に報告する。

大手ガス3社の料金規制解除はどうなるか?

いよいよガス大手3社(東京ガス、大阪ガス、東邦ガス)の経過措置料金規制解除が秒読み段階となった。

このEnergyShift審議会ウィークリートピックをご覧になっている読者は電力分野に携わる方々が多いと推察するが、少なくとも経過措置料金に関しては電力とガスは密接に関連している(本稿では特筆しない限り、ガスとは都市ガス(一般ガス)を指す)。

電力小売は2016年4月から、ガス小売は2017年4月から全面自由化されており、小売事業者が設定する料金は自由であることが原則であるが、現在も従来の規制料金が経過措置料金規制のもと存置されている。

規制の当事者である旧一般電気事業者・旧一般ガス事業者自身はもちろんのこと、料金規制の廃止は新電力等の価格戦略や事業性にも大きく影響することから、料金規制がいつ、どのように解除されるのかは非常に重要なテーマである。

大手事業者と新規参入⼩売事業者との間に適正な競争関係がない場合には、いわゆる「規制なき独占」に陥ることなどで、需要家の利益が損なわれるおそれがある。

よって需要家の利益を保護する必要性が特に高いと認められる場合に限り、経済産業大臣が指定した供給区域等において経過措置料金規制が存置されているが、この指定事由が無くなったと判断される場合には、当該規制を解除することとされている

この規制解除はワンウェイ(一方通行)であり、一旦解除した後に再度規制に戻ることができないため、解除には慎重な判断が求められている。

なお、電力小売については2018年9月から半年にわたり、経過措置料⾦規制の解除について検討がなされたが、いずれのエリアにおいても経過措置料金の存続が適切と判断された。

ガスの経過措置料金規制解除基準

電力小売とガス小売には類似点も多い反面、異なる点も多く存在する。

現在も10社すべてが料金規制対象である電力小売と異なり、2017年ガス小売自由化と同時に大半のガス小売事業者において小売料金規制が廃止された。

2017年4月時点では旧一般ガス小売事業者202者のうち12者のみが経過措置料金規制対象となり、うち3者が既に料金規制が解除されたため、現在も経過措置料金規制が残るのは9者のみである。

今回、大手3社(東京ガス、大阪ガス、東邦ガス)において、以下の解除基準を数字上は満たすことが確認されたため、料金規制解除の是非について検討がなされている。

経過措置料金規制解除基準は以下の4点であり、これらのいずれかに該当する場合は規制解除となるが、1つ重要な基準として、適正な競争関係が確保されていると認められない場合には、解除をおこなわないものとされている。

基準①:当該事業者の都市ガス利用率が50%以下

都市ガスは、他のガス小売事業者との競争のほか、他燃料(電気・オール電化やLPガス、灯油)との競争にさらされているため、市場シェア50%以下の場合には、十分な競争圧力が働いている、つまり不当な値上げによる「規制なき独占」は起こらないものと考えられる。

表1のとおり大手3社では2020年3月時点、この解除基準①を満たしていない。

表1.解除基準① 当該事業者の利用率が50%以下であるか?

出所:制度設計専門会合資料を基に筆者作成

基準②:直近3年間のフロー競争状況

上記①がストック状態で判断するものであるのに対して、基準②はフローで判断するものであり、旧一般ガス小売事業者の獲得件数の半数以上を、他燃料事業者・他ガス小売事業者が獲得している場合には、十分な競争圧力が働いているものと考えられる。

基準②を計算式で表すと A×1/2 ≦ 0.5÷B×C であり、Aは旧一般ガス小売事業者による都市ガス供給採用件数、Bは都市ガス利用率、Cは他のガス小売事業者による都市ガス供給採用件数・他燃料採用件数である。

表2.解除基準② 直近3年間のフロー競争状況

出所:制度設計専門会合資料を基に筆者作成

表2から、大手3社は解除基準②を満たすことが分かる。例えば東邦ガスと供給エリアが重なる中部エリア(2020年度)においては、ストック指標であるオール電化普及率は16.3%、フロー指標である新築住宅におけるオール電化率は25.8%まで高まっている。

ただし、基準②ではさらに、小口需要家の小売自由化に関する認知度が50%以上であること、および当該他の小売事業者に十分な供給余力があることが必要とされている。

表3.解除基準②-b 小口需要家の小売自由化認知度が50%以上?

出所:制度設計専門会合資料を基に筆者作成

表3から、大手3社は解除基準②-bも満たすことが分かる。

表3の出典となった調査は、「電力・ガス小売自由化における消費者の選択行動アンケート調査事業」報告書であると推測される。

この認知度の中には、「聞いたことはあるが、内容は知らない」人が27%含まれており、これを除き、「内容を詳しく知っている」「内容を知っている」「聞いたことがあり、内容はなんとなく知っている」に限ると、認知度は43%に留まることには留意が必要であろう。

表4.ガス自由化認知度の内訳(2019年度)

令和元年度エネルギー需給構造高度化対策に関する調査等委託費 (電力・ガス小売自由化における 消費者の選択行動アンケート調査事業)報告書より

基準③:他のガス小売事業者の販売量シェアが10%以上

基準③では、直近1年間の小口需要に係る都市ガス販売量における他のガス小売事業者のシェアの合計が10%以上であるか否かで判断をおこなう。

表5.解除基準③ 他のガス小売事業者の販売量シェアが10%以上?

出所:制度設計専門会合資料を基に筆者作成

表5から、大手3社は解除基準③を満たすことが分かる。 ただし基準③でも同時に、他の小売事業者に十分な供給余力があることが必要とされている。この供給余力確認に関しては後述する。

基準④:経過措置料金件数と自由料金件数および小口料金平均単価の3年連続下落

多数の需要家がすでに経過措置料金ではなく自由料金メニューによって供給を受けている場合(経過措置料金件数<自由料金件数)には、経過措置料金規制を残す必要性が乏しいと考えられる。

また直近3年間で小売料金の低下が継続的に進んでいる場合には、他燃料事業者・他ガス小売事業者からの十分な競争圧力が働いている可能性が高い。

表6.解除基準④-a 経過措置料金件数と自由料金件数の大小関係

出所:制度設計専門会合資料を基に筆者作成

表6から、東邦ガスは解除基準④の一部を満たすことが分かる。ただし表7より、平均単価の下落とはなっていないため、全体としては解除基準④は満たしていない。

表7.解除基準④-b 小口需要小売料金平均単価が直近3年間で連続して下落?

出所:制度設計専門会合資料を基に筆者作成

十分な供給余力の確認

以上のことから、大手3社は、解除基準②と③を満たしていることが確認されたが、これらの基準はいずれも同時に、他の小売事業者に十分な供給余力があることという条件を満たす必要がある。

仮に大手ガス会社が値上げした際に、これを嫌った需要家が新規参入者に切り替えようとしても、新規参入者に十分な供給余力が無ければ実質的に切り替えることが出来ず、競争が起こらないと考えられるためである。

新規参入者が十分な供給余力を持つためには、自社でガス製造設備を持つほか、他社から卸供給を受けるなどの方法が考えられる。

電力分野には卸取引所が存在し、現在では活発に取引がおこなわれているため、小売電気事業者は自社で発電所を建設する等の手段のほかに一定の電力量を調達する手段がある。

ところがガスには取引所が存在せず、さらに広域的なガス導管網が整備されていないことから、自社で需要地においてガスを製造するか、需要地において旧一般ガス事業者等の他社から調達する以外に、ガスを確保する手段が無いと言える。

需要地でLNG基地等のガス製造関連設備を新たに建設することは非常にハードルが高いため、速やかにガス小売分野での競争を活性化させるには、既存設備を活用しながら他社から相対取引で卸供給を受けることが現実的と考えられる。

供給力確保の見込みについて、資源エネルギー庁と電力・ガス取引監視等委員会(以下、監視等委員会)が新規参入者に対してヒアリングをおこなっている。この結果、足元の供給力の確保については特段の問題は無いことが確認できた。他方で、将来にわたって十分な供給余力を確保し得るかどうかについては、受託製造約款外の委託熱調契約や都市ガス卸契約を、相対交渉により引き続き締結できるかどうか等について懸念が示された。

大手3社エリアにおいて、新規参入ガス事業者が将来にわたって十分な供給余力があると判断するには、大手3社が新規参入者の求めに応じ、受託製造(約款外の熱量調整や付臭など一部工程に係る業務を含む)や相対卸を積極的におこなうことを担保することが必要と考えられる。

相対卸を積極的におこなうことの担保とは?

すでに『適正なガス取引についての指針』においては、ガスの受託製造や相対卸に積極的に取り組むことが、望ましい行為として定められている。ガスの小売・卸供給いずれも自由化されており、具体的な商取引を法的に義務付けることは困難であるためである。

このため監視等委員会は、大手3社がガスの受託製造や相対卸に積極的に取り組むことのコミットメントをおこなうことを提案している。

以下がコミットメント案である。

  • 他の事業者から、ガス製造に係る業務(熱量調整や付臭など一部工程に係る業務を含む。以下同じ。)の依頼があった場合には設備余力がないなどの理由がない限りは積極的に受託すること。また、既にガス製造に係る業務の委託契約を締結している事業者がその継続を希望する場合には、供給の継続に向けて誠実に協議を行い対応すること。
  • ガスの卸供給について、他のガス事業者からの求めに応じて誠実に交渉を行い、積極的にこれを行うこと。

この具体的な文案は第52回専門会合での議論を経て、さらに修正される予定であるが、新規取引・継続のいずれにおいても、実質的に大手3社による受託等が進むことが強く期待されている。

経過措置料金解除後の適正な競争関係の確保

経過措置料金解除後も、大手3社が新規参入ガス小売事業者との間で適正な競争関係を確保するためには、大手3社が新規参入者への卸取引を内外無差別におこなうことが必要である。

これを実質的に担保する方策として、大手3社による新たな「コミットメント」が求められている。

その具体的内容の一つとして、大手3社は新規参入支援を目的とした「スタートアップ卸」を、自主的取組として今年度より開始している。スタートアップ卸の価格の設定に当たっては、旧一般ガス事業者の標準メニューの最も低廉な小売料金から一定の経費を控除し算定した上限卸価格の下で、個別に卸価格を交渉することとなっている(※詳細は【ガスの「スタートアップ卸」利用状況は 第13回「ガス事業制度検討ワーキンググループ】参照)。

よって、監視等委員会は大手3社に対して、以下のコミットメントを求めている。

「スタートアップ卸」について、新規参入者が旧一般ガス事業者の小売事業との競争性を確保できる価格水準で都市ガスを調達できる環境を整備し、事業者の新規参入を支援するために開始された趣旨を踏まえ、同取組の利用実績が上がるよう、積極的に取り組むこと。この際、卸価格の設定に当たっては、「旧一般ガス事業者の標準メニューの最も低廉な小売料金から一定の経費を控除し算定した上限卸価格の下で、卸元事業者と利用事業者が個別に卸価格を交渉する」ものとされていることを踏まえ、利用事業者からの求めに応じて誠実に交渉をおこない、対応すること。

専門会合では、経過措置料金解除の判断をおこなうためには大手3社により上記2つのコミットメントが表明されることが必要である旨を、経済産業大臣に回答する予定である。

経過措置料金解除後の「特別な事後監視」

今回規制解除予定の大手3社エリアの都市ガス利用率は50%を超えているため、経過措置料金の解除後3年間は「特別な事後監視」の対象となる。監視等委員会が小売料金の合理的でない値上げがおこなわれていないかの確認をおこなう。

大手3社のコミットメントにより、健全なガス小売の競争が一層、需要家のメリットをもたらすことを期待したい。

参照

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda

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