企業経営における気候変動リスクは3つある。「規制リスク」「物理リスク」「市場リスク」だ。
まず、「規制リスク」だが、これはGHG(温室効果ガス)排出規制が厳しくなる、といったことだ。排出量に上限が定められることや、排出量に対して炭素税などの税金が課されることになれば、財務面での負担となる。対応が後手に回ると、経営継続そのものが困難にもなりかねない。
次に、一部の企業にとって、「物理リスク」は差し迫ったものとなっている。気候変動によって、洪水や干ばつ、生態系の変化や食糧不足、海面上昇、デング熱など感染症の拡大などだ。農業や漁業、観光業、保険業、不動産業の他、沿岸立地の化学工業なども、短期的にも物理的リスクの影響を受けやすいと言える。また、これ以外の業種においても、中長期的な物理リスクを把握し、将来的に事業に及びうる影響を洗い出すことが必要となっている。
最後に、自社に関わるステークホルダーの意識変化によっておこる「市場リスク」は、市場や株主、取引先、消費者などの気候変動問題への関心度を察知することが重要だ。時代の要請にマッチする戦略を打ち立てた新たな付加価値やブランド価値を高めることで、競争優位性を築くことも可能である。したがって、「市場リスク」はチャンスととらえることもでき、企業活動の持続可能性を探る道も開かれている。
こうしたリスク分析が、気候変動問題に対応したシナリオ作成につながっていく。そして、そのシナリオ作成は、今後、上場企業をはじめとするすべての企業に対し、求められるものだ。しかし、上場企業に求められるのは、気候変動対策だけではない。ESG全般にかかわってくる。
2021年6月、企業統治の指針であるコーポレートガバナンス・コードの2回目の改訂が行われた。この改訂では、気候変動リスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響においてデータ収集・分析を行い、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)またはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである、という内容の文言が追加された。そして、2021年4月から東証一部に替わってスタートするプライム市場では、上場会社にコーポレートガバナンス・コードに対応した情報開示が求められる。このことが、前述のシナリオ作成が求められる根拠の1つである。
さらに7月、金融庁が気候変動リスクに関する企業の情報開示の在り方について検討するための専門部会を、今秋を目処に設置する方針を固めたと報道された。これまでは、大手企業を中心に気候変動リスクの自主的な情報開示が行われてきたが、今後は「有価証券報告書」への記載の義務付けなども含め議論されるという。
企業の気候変動に関する情報開示が進むことで、投資判断のための情報としても利用が進むことになる。結果として、情報開示に積極的な企業に資金が集まるようになることで、企業側の気候変動対応が促進され、日本全体の気候変動対策が一段と加速するという効果が期待される。
気候変動リスクの情報開示に限らず、日本におけるESG(環境・社会・ガバナンス)関連の情報開示については、基準や手法が統一されていないため、世界の企業と比較したときに評価されにくいケースが散見される。しかし今後、政府によってグローバルベースの開示基準が策定され、義務付けなどの法的措置で情報開示が促進されれば、世界との評価の差は埋まっていくと考えられる。
一方、情報開示を強く求められることは、企業にとって大きな負担となる。開示基準の見直しひとつとっても、それを実行する事務作業は骨の折れるものだ。気候変動リスクなどの非財務情報の開示は、限られたリソースを費やしてまで行う価値があるのか、あるいは本当に企業価値の向上に寄与するのだろうか、こうした点が気になる方もいるだろう。
非財務情報が財務面に与える影響について、ビッグデータに基づいた分析結果を紹介・・・次ページ
気候変動の最新記事